第9話 花言葉1「優しさ」



彼女の先導で通された部屋はまたしても唖然とするほどに広くて豪華な内装だった。


「お……お城……」


豪華なソファに緊張しながら座って上に鎮座するジャンデリアを見上げていると自然と口からそんな言葉が出てしまっていた。


「え?」

「あ、す、すみません」

「いえ、謝らないでください。お城──ですか。昔から此処にあるただ広いだけの古い建物だけれどね」

「それでも外観といい室内の内装といい、凄く歴史を感じる素敵なお屋敷ですね」

「気に入りましたか?」

「はい、憧れちゃいます」

「それはよかった。では交渉成立ということでよろしいですね」

「……は?」


(交渉? 成立?)


「なんの?」

「あなたの再就職の件です」

「何処へ」

「此処へ」

「……へ?」


(ど、どういうこと?!)


「あの、再就職が此処ってどういう」

「言葉通りの意味ですよ。この屋敷で僕の身の回りの世話を担っていただく職に就いていただきたいということです」

「はぁ?!」


(ちょ、ちょっと……)


ちょっと何を言っているのか分からないんですけれど!!


「本当に丁度よかったです。この屋敷も随分と人がいなくなってしまいどうしようかと思っていたので」

「は……?」

「そんな時にあなたのように活きのいい元気なお嬢さんと出会い、僕は確信しました」

「……何を?」

「あなたが働いてくれたらこの屋敷もきっと明るくなると思うのです」

「……は……はぁ……」

「衣食住、全てが揃った優良再就職先です。喜んでいただけたでしょうか」

「は、ははは……はっ」


いきなりの急展開振りにまともな思考、受け答えが出来なくなってしまったのだった。



突然現れた人に豪邸へと連れられて、そしてあり得ない就職話をされて戸惑った。


余りにも凄い話だったのですぐに返事をすることが出来なくて、一日考えさせてくださいと言って屋敷を後にした。


黒塗りの車で家まで送ると言われたけれど遠慮して屋敷の最寄り駅を教えてもらって其処から電車で家路に着いた。




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