第7話 花言葉1「優しさ」
(何なの?! その言い草!)
怒りのあまり今度は彼にひと言いってやろうかと構えると「では彼女は僕がいただきましょう」なんて言葉が飛び出した。
(………へ)
今、何を言われたのか──そんな風に思ったのは私だけではなく
「はぁ?! れ、蓮条院様、急に何を仰って──」
「僕が彼女をいただいていきます。丁度身の回りの世話をしてくれる人が欲しいと思っていたところですので」
「な……なっ、な、な、なっ」
(……えーっと)
私の気持ちをそのまま代弁してくれている店長と、にこやかな笑みを浮かべている彼を交互に見つめて私はただ茫然としている。
(何? 今、何が起きているの?)
「という訳で──斎藤清子さん?」
「! はい」
フルネームで呼ばれやっと意識がはっきりとした。
「詳しいお話をしたいので僕について来てもらえますか?」
「……あ……はい」
彼のその口調と表情から何故か反論は許さないという雰囲気を感じ取り、私はただ流されるまま頷いた。
「あの……蓮条院様、本日の視察は」
「それはまた後日、追って沙汰します」
「はい、かしこまりました」
店長は深々と頭を下げ、部屋を出て行く彼と私をそのまま見送った。
店を出るまでに通った店内ではあちらこちらで店員がお辞儀をしていた。
(何、この人)
この『れんじょういん』という人が何者か解らない私はただその異様な光景を流れるように見るしかなかった。
本店の外に出ると正面玄関に横付けされていた大きな黒塗りの車が目に入った。その後部座席のドアを白髪の男性が開けて待っていた。
「予定が変わりました。今から家に戻っていただけますか」と彼が告げると男性は恭しく「かしこまりました」と答えた。
(運転手さんか……)
先に乗り込んだ彼を見送ると運転手さんは私の方を向いた。
「さぁ、どうぞお乗りください」
「あ……はい」
何処の誰だか分からないだろう馬の骨みたいな私にも丁寧に頭を下げてくれる姿に恐縮した。
おずおずと乗り込んだ車内は高級車らしい重厚な雰囲気だった。私がシートベルトを着け終ると車は静かに発車した。
しかし車が走っていると実感出来る振動がなかったために、本当に走っているのだろうかと何度も車窓を眺めた。
「申し訳ありません」
「!」
静かな車内にあの不思議なトーンの声が響き、私はやっと隣に座っている彼の方に顔を向けた。
「突然連れ出してしまって不快に思ってはいませんか」
「い、いえ、不快ではありませんけど……その」
「なんですか」
「展開が早過ぎて……正しい判断が出来ていない感じです」
「……」
「なんか私、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫とは?」
「知らない人の車に乗って何処に連れて行かれるのか分からないのに……なんだか危機感ゼロだし軽過ぎませんか?」
「……ふ」
「え」
「ふ……ふっ……ふ、はははははっ」
「!」
突然、声高らかに笑い出した彼に驚いた。
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