第3話 おつかい

というわけで、大事にしてもらって早くも一月が経とうとしていた。

「珠華。今日は一日、お休みをあげよう。好きなことをして過ごしなさい。」

「ありがとうございます、殿下。」

本当に、この人はとても優しい。

さて何をしようか。

「することがないなら、おつかいを頼んでもいいかな?」

「構いませんよ。」

「じゃあ、街に行ってこれを買ってきてくれ。余った金は好きにしていいよ。」

「はぁ。」

釣りはいらない、みたいな?

じゃあ買い物に行きますか。


買い物リストに書いてあったのはたくさんだった。

まずは、髪飾り? 何に使うのかしら。


「こんにちは。」

指定されていたお店に入る。

「いらっしゃいませ。あまり見ない顔ね? 誰の差し金かしら。」

「あ、えっと、皇太子殿下からおつかいを頼まれまして。」

「なんだ、皇太子殿下の。ゆっくりしていきな。」

えっと、お買い物リストは…。

『珠華に似合う極上の髪飾り』

なんだそれ。

「おや、お嬢ちゃん。変な買い物メモだね。」

「皇太子殿下に頂いたのですが。」

「この、珠華っていうのは?」

「私、です。」

「おやおや。皇太子殿下も隅に置けないね。まぁいい、アタシが選んであげるよ。」

「恐縮です。」

女店主が差し出したのは、綺麗な宝石の散りばめられた髪飾り。

意匠は氷花とでもいうのか、氷のような花が象られた髪飾り。宝石は水色だ。

本当に、私に似合うのかな?

「よくお似合いよ。さ、早く次行きな。」

「お金は。」

「あぁ、そうだったね。100蘭でどうかな?」

「はいっ!ありがとうございました。」

気前のいい店主だったな。いい買い物ができた気がする。


次、今度は服?

『珠華に似合う極上の衣装』

本当に、なんだこれ?

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

「えっと、おつかいなんですが。私に似合う服、はありますか?」

自分で言っていて恥ずかしくなってくる。

「ふふっ、ありますよ。髪飾りの指定はありますか?」

「あ、多分これです。」

先ほど買った髪飾りを渡す。

「なるほど。これを選んだ人は素晴らしいですね。では、私も本気を出しますよ。」

奥に入って、何やら探している。


そこから二十分後。やっと出てきた店主は、手に豪華な服を持っていた。

「これでどうかな?」

「ありがとうございます。自分ではよくわからなくて。」

そうしてもらって、次の項目を見る。

『着飾ってから帰っておいで。』

どういうことよ。わからないわ。


そうして、着付けをしてくれるお店に入る。

「こんにちは。あの、着付けを頼んでもいいですか?」

「はいよ。いらっしゃいませ。服は、持ち込みですね。いいですよ。」

そのまま着せ替え人形に徹する。

そして、着飾った私はまるで別人だった。


後宮に帰ると、殿下が待っていた。

「おかえり、珠華。いいお店に入ったんだね。」

「はい。それで、これはなんなのでしょう。おつかいではありませんでしたか?」

「楽しめただろう? 今度、貴族たちと狩りに出ることになってな。ついてくるときはそれを着ていきなさい。あと、この間仕事着と一緒に贈った髪飾りもつけなさい。簪だけでいいけど。お前は、私の侍女だからな。」

狩り? それって、ついてこいということ?

女の私が行っても何にもならないと思うのだけれど。


「大丈夫。珠華は、狩りが終わった後の俺の世話と、狩りをしている間にお茶を飲みながら見ているだけでいいから。」

「わかりました。今度とは、具体的にいつですか?」

「明後日だ。準備しておきなさい。」

いきなり? 明後日って、ちょっと急だな。

「あぁ、泊まりで行くから、仕事着も持っていきなさい。」

「泊まり、ですか? わかりました。では、準備してきますね。」

自分の部屋に戻る。

いや、明後日から泊まりって、もうちょっと早く言ってよ。


というわけで、明後日から狩りのために泊まりで出かけます。

どうしよう?

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籠中の蝶 鬼郷椿 @Tsubaki_K

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