第2話 侍女
と言うわけで、皇太子専属の侍女になった私、蓮珠華は、相変わらず一人で人気のない廊下を歩いていた。
ちょっと上等そうな服を着て一人歩く私には、当然犯罪者がついて来るわけで…
「おい、そこのお姉さん。俺と一緒に来てもらおう。」
「え?」
誘拐されました。
「お前、どこの侍女だ?」
「黙秘します。」
このやりとりを先ほどから百回は繰り返している。
お世話を見させてくださっている皇太子殿下には迷惑をかけられない。
「お前、死にたいのか?」
「恩を仇で返すくらいなら、死んだ方がマシです。」
「はぁ。忠誠心だな。」
忠誠心。そんなものあるわけがない。まだ、二日目だというのに。
でも、私から尽くそうという思いはある。
忠誠、なのかな?
「私、主人に仕えてからまだあまり日が経っていないので、脅迫には向きませんよ。」
「そうか? で、お前の主人は誰だ?」
「こ…黙秘します!」
危ない。思わず言っちゃうところだった。
「こ? ということは、皇太子か?」
いや、なんでわかったんだ〜い!
「ま、まさかそんな、ち、がいますよ。」
「お前、嘘下手だな。そっか。あいつ、元気にしているか?」
「? はい、お元気ですよ。お知り合いで?」
「あぁ。昔、ちょっとな。皇太子んとこなら、帰っていい。あいつの弱みは握ってる。」
「そうですか。」
なんか、ちゃっかり解放されちゃった。
「お名前だけ、伺ってもいいですか?」
あの隠密スキルは重宝できる。
「綬藍。硑綬藍だ。お前は?」
「私は、蓮珠華です。いつかまた、お会いしましょう。」
「あぁ。いつか、また。」
硑綬藍さん。
「黙っておいてあげるから、協力してね。」
「あぁ。いつか、必ず。一度だけ協力しよう。」
「ありがとう、綬藍さん。」
後ろ姿を見送り、宮に帰る。
「ただいま戻りました。」
「珠華。お帰り。ちょっと遅かったね。」
「申し訳ありません。誘拐されちゃって。」
「誘拐、だと? 誰にされた? 今すぐ捕まえて処してやる。」
「大丈夫です。それに、殿下のお知り合いのようでしたよ。」
「俺の知り合い?誰だ。」
「硑綬藍さんとおっしゃっていました。」
「綬藍、だと? 今どこにいる? ずっと、探していた。」
「え、帰りましたが。」
沈黙。
探していたとは、思わなかった。
「まぁ、珠華が無事ならいいよ。怖かっただろう、おいで。」
殿下のそばに行くと頭を撫でられる。
「よしよし、大丈夫だよ〜。」
「で、殿下? 一体何を…?」
「ん? いらないか。妹には効いたんだが。」
妹って、何歳よ。
「私、子供じゃありません!」
「お前は子供だよ。俺と同じだ。」
言葉の裏に何かある気がしたが、気にしないことにした。
その後は、何事もなかったかのように接してくれた。
大事にしてもらって、ありがたいことだ。
「珠華。お前は、私の大事な宝だよ。」
「ありがとうございます。殿下も、私の大事な、いや、この国の大事な宝ですよ。」
「そうだな。そうだった。」
二人で、笑いながら食事をする。
楽しくて、楽しくて。
ずっと、殿下と一緒にいたいと思った。
もっと、もっとしゃべりたい。今度は、綬藍さんも一緒に。
私は、まだこの感情が何かわからない。
でも、きっと、愛や恋ではないのだ。
家族のような気持ちで溢れている。ほっと落ち着く、最高の主人だ。
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