第三十八話(最終話)終わりの始まりは、図書館にて

春休みが終わり、今日は高校三年を迎える始業式の日だ。


ただでさえ、久しぶりに行く学校は億劫だが、今日はそれに加え、雨が降っている。それも強めの雨が。


春休みで訛った体を動かして、錆びた機械に無理やり油を塗るようにして、僕は登校した。


始業式は流れるように進んで言った。僕はただ、川を流れる落ち葉のように揺られているだけだった。


そして、下校時間になった。


僕と諒花はいつもの待ち合わせの場所に行って、一緒に帰っていた。


「新学期、早々雨だね」


「4月って結構雨多いよね」


「言われてみれば確かに」


「でも、予報見るとあと数時間で止むらしいよ?」


「そうなんだ」


「ちょっと、雨宿りしていかない?」


と言って、僕らは電車乗って、途中の図書館が近くにある蔦羽つたばね駅で降りた。


そこから徒歩数分で図書館に着いた。


「図書館で雨宿りってなんかエモくない?」

諒花は傘に着いた雨粒を振り払いながらそう言った。


「確かに、晴耕雨読っていう四字熟語もあるし、雨の日に読書ってなんか合うよね」


「うんうん」


「諒花はなにか読みたい本あるの?」


「ウチは、英語の小説かな」


図書館に入り、諒花は小声で言った。


「あー、夢だもんね」


「そうそう」


「渡くんは?」


「特にこれといってだから付き合うよ」


「それは助かるな。まだまだ読めないこと多いし」


「教えられるところは教えるよ」


「やったー」


僕達は有名な英語の海外小説が置かれているコーナーに来た。


そこで諒花は、色々くまなく本を探していた。


僕はさらっと、タイトルだけを見ていた。


諒花の方を見ると、一冊の分厚い本を手にして、それを読み始めていた。


僕も、適当に本を手に取って、読んだ。


英語を翻訳するのは、単語を覚えているのでそこまで苦ではなかったが、やはり普通の日本の小説とは違って意味が伝わりずらく、読みづらい。


「ねぇねぇ、これなんて読むの?」


諒花がそう近づいてきて、僕の耳元で囁いた。


本を手にして、二人で1冊を持った。


顔が近づき、諒花の吐息がかかる。


僕は、それを意識しないようにして、諒花が指さした一文を、細かな文字を、目を凝らしながら、真剣に考えた。


「えっとこれは⎯⎯⎯」


そして頭の中で翻訳し、話そうとした


その時だった。


諒花の唇が、僕の頬に触れた。


え?


一瞬何が起こったか分からない。


この、静かな図書館は、ただでさえ時間が止まっているように思える空間だったが、その瞬間は、空気まで変わり、全てのあらゆる物事が、物質が消え失せるような無の空間になるような感覚を覚えた。


僕は、数秒間、その空間にいた。

そして、その後、戸惑いながら口を恐る恐る開いた。


「えっと……これは、、」


「なんか、渡くんの真剣な顔ってかっこいいね」

僕が何かを言う前に、諒花がそう言った。遮られた言葉はもう忘れていた。


諒花の顔はどういう表情かよくわからなかった。


ただ、さっきの無の空間の中に溶け込むような、時が止まった図書館の中にずっといるような人のそんな表情だった。


僕は、至近距離の諒花の顔を、唇を見つめる。囚われる。顔を真っ赤にしながら、僕は少し顔を重い石像が動くように前へ倒して、そのまま泡のように分散し、消えてなくなるような感覚を覚えた。



僕らは、少し本を読んだ後、図書館を後にすることにした。


諒花は、読んでいた本を借りて、僕達が図書館を出ようとした時、その近くにいた図書館の従業員に声をかけられた。


「君たち高校生?」


「はい、そうですけど」


「今、子供たちの絵本の読み聞かせイベントをやっているんだけど、これ、やってみない?」


「どうする?」


「ウチはやってみたい、かな。こういう苦手なこと挑戦したい」


諒花は人に物事を教えることが苦手と言っていたように、子供たちを上手く扱うことも苦手だった。そんな事を挑戦しようと、克服しようとする諒花はやっぱりかっこよくて、最強だ。


「じゃあ僕も手伝うよ」


僕はそう言った。少しでも力になりたかった。


「今から高校生のお姉さんが絵本の読み聞かせをしてくれるからみんな聞いてねー」


図書館の従業員が能天気にそう言ったが、子供たちは、ガヤガヤザワザワワイワイしていた。


「じゃあみんな行くよ。昔昔あるところに……」


諒花は絵本を読み始めた。うりたろうというタイトルだった。


「この物語は、ヒーロー戦隊とかライダーものみたいなストーリーで面白いよ」


僕は子供たちに向けて言った。


他にも、集中出来ていない子やお喋りばかりしてしまう子に集中させるように、うりたろうの登場人物の説明や物語の説明を感情移入できるように分かりやすく説明した。


そうしているうちに、段々と子供たちは諒花のお話に集中して聞くようになっていた。


その時、図書館の従業員の話を耳にした。


図書館の従業員はこう会話していた。


「2人で役割を担ってて、補い合っていい関係ですね」


「そうね、若いのに。恋人同士なのかしらね」


「なかなかいないですよね」


「ほんとにそうね。私も長年夫婦やって来たから分かるけど、補える関係こそ、最強の夫婦で敵無しなのよ」


絵本を読んでいる、諒花に向き直る。もう読み終える頃だった。


諒花は、結局は、何をやっても様になる。


「めでたしめでたし」


諒花がそう言って、絵本を読み終えた。


あれだけざわざわとしていた子供たちが絵本に見入り、聞き入っていてパチパチとまだらな拍手をしていた。


「諒花はやっぱりすごいね」


「ん?」


「なんでもこなせて」


「いや、渡くんが、子供たちを盛り上げてくれたからだよ。今回はそのおかげでこなせたんだ!」


「そっか、なら良かった」


「渡くんがいないと、こなせない時だってあるから。だからこれからも支えてね」


諒花は可憐な笑顔でそう言った。


「う、うん」


僕は、諒花に引っ張られ、前向きになれた。諒花の出来ないことを僕は後押しした。


確かに、図書館の人が言っていた通りに、僕らは僕が思ってる以上にいい関係なのかもしれない。


もちろん、それは諒花が最強であるが故だ。


彼女の最強な前向きさに引っ張られて、僕も支えていこうと思って頑張れるからだ。

だから、僕も、最強の諒花に追いつけるように。相応しいように。


いつか、最強の彼氏になれたらいいな、と思った。


そして、最強のカップルになるんだ。


僕は、ひとつの本を読み終え、閉じるような感覚を覚えた。


それでもまだ、本棚にたくさんの本はある。


また新しい本の一頁を開ける瞬間なのだ。


これからも、諒花との日々を、本の一頁、一頁を、開いていく。


その本達は、起承転結あって、色々な困難や苦難があって、時には面白かったり、時には悲しかったりするシーンがあるだろう。


でも、諒花と一緒なら、絶対にハッピーエンドで終わる物語であると確信している。


僕はその本の全てを読み終えるまでは、全力で、生きていこうと、今の幸せを大事にしていこうと思うのだった。


「じゃあ、帰ろっか」


「おー、雨止んだね~」


諒花が空を見上げてそう言った。


僕も、空を見上げると、雨模様はもう、さっぱり消えていて、快晴で、空に綺麗でハッキリと虹が浮かんでいた。


僕達の帰り道は、虹と太陽に反射した水溜まりで、キラキラと光り輝いていた。





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ここまで読んでくださった方、ハート、星、コメントやレビュー、フォローをしてくださった方、本当にありがとうございました。特にハートや星、コメントなどは執筆を続ける上でとても力になりました!


この物語はここで完結ですが、明日、あとがきとエピローグを公開するのでそれも見て頂けると幸いです。


また、

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