第三十七話 お花見デート
春休みになった。
諒花と出会ってからあと1ヶ月ほどでもう、一年にもなるのか。
遅いような、あっという間だったような。そんな不思議な感覚だ。
これまで色んなことがあったけど、僕らはもう春から高校三年生で、18歳という成人になる年で、大人の階段の一歩を踏み出しているのか。
そうしみじみと何かに浸っていると、諒花からRISEが来た。
『お花見行かない?今、めっちゃ桜綺麗らしいよ?』
『い、いまから?』
『もちろん!』
「お母さん、ちょっと今から出かけてくる!」
「え?一人で?どこに?」
「べ、べつになんでもいいでしょ。お花見だよお花見」
「あらそう、気をつけてね。楽しんでらっしゃい」
母はそう何かを察したようにそう言った。
僕は勢いよく家を出た。
◇
お花見で盛り上がる通りは、屋台が並んでいた。
「屋台が並んでると、夏祭りを思い出すねー」
諒花は、屋台を見ながらそう言った。
「確かにね」⎯⎯⎯「あの夏祭りは色々あったね」
「そうだねー」
「でもああいう出来事から、色々仲良くなれたよね」
「うん、確かにね」
確かにああいうハプニングとかを繰り返して、諒花との仲を結構積上げてきた気がする。
「次のステップアップは結婚かな?」
「えぇ!?」
「ちょっ、驚きすぎ、冗談……冗談だから」
「そ、そっかごめんごめん」
諒花は、少し動揺していて、僕は少し本音も混じっているんじゃないか。そんなことをふわりと考えてしまった。
◇
「ていうか人多いねー」
なおも、通りを歩きながら諒花はそう呟いた。
確かに春休みということもあってか人は多かった。
その通りの桜並木は満開でとても綺麗で、その下でレジャーシートを敷いて、昼間から一杯やっている社会人や大学生らが大いに盛り上がっていた。小さな子供を連れた家族連れなどもいた。
「見て、あの家族」
諒花が、目の前の二三歳の小さな女の子を連れた家族を見て言った。
「あんな家庭が良くない?」
「確かにすごく楽しそうでいいね」
僕がそう言った時、周りで大きな声が聞こえた。
「とはいえやっぱり、花見だとああいう人が目立つよね」
僕は、お酒に酔って、騒いでる社会人集団を見ながらそう言った。
「あははああいう大人にはなりたくないなー」
お酒でベロベロになって宴会芸のように踊ってる人もいる。
「あそこまで行くとさすがにね」
「うん。お花見に来たって言うよりお飲みに来たって感じだし」
「まさに花より団子だね」
「確かにそうだね!なんか花より団子って言葉聞いて、お団子食べたくなっちゃったな」
「じゃあ、お団子売ってる屋台探そうか」
僕らは、そう言って、お団子の屋台を探し、見つけ、みたらし団子や三色団子を買った。
飲み物も別の屋台で買って、僕らは、お花見スポットへ向かった。
レジャーシートを引いて、そこの周りの人と同じように座った。
桜を見ながら、僕らは団子を食べた。
桜は綺麗で、僕らにその姿を見せびらかすような威圧感と妖艶さで、誘惑して、虜にして、目を離させないようにする魅惑的な空気を淡い花弁から醸し出しているようだった。
僕は、これまでの人生で何度とこのような桜を見てきただろう。
そしてこれからも、あと何度この桜を見ていくだろう。
成長するにつれて、見る桜は毎回違ったものに見えているような、そんな感覚を覚えた。
その時の人間性、置かれている環境によって。
僕は、これからどんな桜を見ていくのか、気になった。
「僕達は、これからどんな大人になっているんだろうね」
「どうしたの急に?」
「いや、春から高校三年生だし、もう今年18で成人になる歳だからさ、そんなことをしみじみ考えてたんだ」
「なるほどねぇ...そんなに変わらないんじゃない?」
「このままさ、大人になる気がするんだ」
諒花は桜を見ながらそう言った。
「僕もこのままがいいな」
「ウチもそうかな!」
「因みに、諒花は、なにか夢とかあるの?」
「夢かーあるよ。そういえば、夢の話なんてしたこと無かったね」
「そうだね」
本来なら、あの初詣の日に聞けていれば良かったんだけど。
「ウチは、将来、英語を使った仕事をしたいんだよね」
「英語を使った仕事?」
「うん。通訳とか?」
「それは、、どうして?」
「えっと、ママがたまにさ海外に行って仕事をするんだけどさ、ママの通訳の人が日本語も英語も上手くて、そうやって違う言語を使って人を繋げる仕事ってかっこいいなって」
「なるほどね」
僕はその話に納得した。
「うん、あと英語ってかっこいいし!」
「確かに、英語はかっこいいね。得意なの英語?」
「まぁ、ほかの教科よりは一番できるかな!とは言っても全教科できる渡くんと同レベルが負けてるけど」
「いや、全然いいと思う。それに、ほかの教科も手伝えることあったら手伝うよ」
「ほんと?嬉しい。一応できるだけ頭の良い英米学部の大学に行って留学とかしたいからさ」
「な、なるほど」
留学か、まだ先の話だけど、その間、諒花と離れてしまうかもしれないのか。そんなネガティブな想像を描いてしまった。
「渡くんは、なにか夢とかあるの?」
「僕は、、具体的な夢はこれといったものは、ないんだけど」
「うん」
「僕は、頭の良い大学に入るのが目標かな」
具体的な夢が何一つないと僕は、そう言った。
「おお、全然立派な夢じゃん!堅実だね」
「夢というよりも、目標かなぁ」
「目標でもいいじゃん!むしろ夢よりも!現実に目を向けていて」
「いや、逆に目を向けてないのかもしれない。諒花みたいにやりたいことが、夢があるわけじゃないから」
「なりたい職業とかはないってこと?」
「うん。まだやりたいことは分からない。ただなんとなく、良いところに就いて、平凡で幸せなサラリーマン生活を送りたいなって」
「なるほど、それも立派な夢だと思うけどな。ウチは」
「そうなのかな、、、」
「もし、そうじゃないとしても、夢がない人間なんていないよ。渡くんは、夢が無いわけじゃなくて、まだ見つけてないだけなんだと思う」
「なるほど、ありがとう諒花」
恋人と、夢を語り合い、将来のことを考えて悩む。
改めて今の状況を整理すると、僕は青春をしているんだなと認識した。
この頃、そんなことをしみじみと実感しながら、色々なことを考える。
思春期だということもそうだろうけど、僕は、僕達は着実に大人の階段を踏み始めているのかもしれない。
そして、その大人の階段としても、諒花との関係を、その階段を、もっと上っていきたい。
その第一歩として、僕は。
諒花ともっと距離を縮めたい。
そう思った。
あの文化祭の劇を見ながら、意識したあの横顔、そして唇。
僕は距離を縮めるために、、諒花とキスがしたいと思った。
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とても、私の励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します!
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