第三十六話 ホワイトデーのチョコ選び
バレンタインから1ヶ月程が過ぎ、ホワイトデーになった。
僕は悩んでいた。
諒花へのお返しをどうしようかという悩みだ。
まず第一に、チョコを手作りするなんて、料理を調理実習以外でしたことの無い僕にとっては無理な話だ。
ううう、、親に頼む訳にもいかないし。
じゃあ買いに行けばいい話だが、僕はどんなチョコがいいのか選べるセンスを持ってない。女子が喜ぶような、諒花が喜ぶチョコをどうやって、どれを買うのかが問題だ。
「ああどうしようか...とりあえず、近場のスーパーにでも……」
「どうしたの?お兄ちゃん」
悩んでいるところを、妹に見つかった。
「い、いやなんでも」
「何でもならいいけど」
「あっやっぱり!ちょっと話が」
僕は妹を呼び止めた。ちょうどいい。妹に相談しよう。
「ん?」
「ホワイトデーどうしようかなって」
「ああ、彼女さんのこと?」
「そう。どこでどうチョコを買えばいいのかわからん」
「しょうがないな。私がホワイトデーのチョコ選び付き合ったげる」
ということで、僕と妹はチョコを買いに行くことになった。
◇
電車に揺られた後、大型スーパーに来た。
「ここなら、多分ホワイトデーのフェアとかもやってるから」
「なるほど、頼りになります」
そのホワイトデーのチョコフェアコーナーに行くと、確かに色々なチョコが売られていて、有名ショコラティエのものもあった。
とても高かったが。
「どれにしようかな」
ショーケースに入っている箱入りのチョコの中身を見ても、どれが美味しいのか、どれが女子ウケするのかがやっぱり分からなかった。
「彼女さんは、何が好物なの?」
「えーっと、諒花は、梅干が好み」
「じゃあ梅干しフレーバーのチョコ探そうよ」
「そんなんあるの?」
「分からないけど、最近は色んな創作チョコ増えてるからね」
そう言う妹に僕はついて行くままで、チョコを探していく。
「これなんてどう?」
妹がそう言ってひとつのチョコの前で止まった。
「これは、梅の味のチョコもあるし、フルーツ系の味が多いね。その分高いけど」
「おお、それ、いいかもしれない」
「よし、なら決まりだね」
僕はそのチョコを買った。梅味の他にもマスカットやラフランスなど珍しい味のチョコが入っているもので、10個入りで5000円の破格だ。
「結構高いねやっぱり。チョコひとつで」
「まぁ一応有名なところらしかったからねー」
「お兄ちゃ〜ん...」
妹が気だるそうに急に僕を呼んだ。
「ん?」
「私ちょっと疲れた。選んだご褒美にお昼ご飯奢ってよ」
「いいよ。選んでくれたお礼だしね」
そういえばちょうどお昼時になっていたな。
「やった!」
僕達は大型スーパーのフードコートに来ていた。
「何食べるの?」
「私はお兄ちゃん思いの妹だから、某この地方限定のラーメンチェーン店のラーメンとクリームぜんざいでいいよ」
「OK、財布にも助かるわ」
スーパー内によくあるこの地方限定のラーメンチェーン店は、ワンコインでラーメンが食べられる。
この店のオリジナルキャラの女の子の看板が出迎えてくれた。
僕は特製ラーメン大盛りで、妹はラーメンとクリームぜんざいを頼んだ。
時間が経つとソフトコールという名の呼び出しベルが鳴り、ラーメンを取りに行った。
「おおーこれこれ!ラーメンとクリームぜんざいの組み合わせを考えた人神」
「確かに合うよね。このスプーンも特徴的だし」
「フォークなのかスプーンなのかって感じだよねえ」
「ずるずるっ」
僕はラーメンを
魚介豚骨の優しい味が、安心感がある。
「これをさ、子供の頃から食べて育ったからなんか食べると安心するんだよな」
「お兄ちゃん、それわかる。てかお母さんもそう言ってたよ」
「お母さんも?ってことはその頃からあったんだ」
「うん」
「ラーメン屋で、子供から大人になるまでを支えて、多くの人に親しまれた店ってここくらいだろうね」
「そうだね」
僕は、ここ最近人を支える大切さを知るような経験が増えた気がする。
もちろんそれは諒花と付き合えたことも深く関わっていて、諒花に尽くすことで、自分も幸せになれていた。
このラーメン屋の創業者も、多くの人々にラーメンを提供して、誰かに尽くすことで自分の幸せにも繋げていたのかもしれない。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
と言って僕らは、スゴキヤという名のラーメン屋を出て、歩き始めた。
そんな時だった。
「りょ、諒花!?」
「あっ諒花さんいる」
「えっ!?アレ!?渡くん!?それに妹ちゃんも!」
諒花と大型スーパーでばったりと出会った。
「こんなところで何してるの?」
「えっえっとぉ、、諒花こそ何してるの?」
「ウチは普通に食料品の買い物のと少し、チョコを見てたけど、そっちは?」
「もう、お兄ちゃん、正直に言って今渡しちゃいなよ」
僕が、濁していると妹はそう言った。
「あ、えっとー、妹にチョコ選び手伝ってもらってて、ホワイトデーの」
「ああ、そうなんだ!」
「それで、これ、バレンタインデーのお返しのチョコ、買ったばっかりなんだけど、どうぞ」
そう言って僕は買ったばかりのチョコを渡した。
「ありがとう」
「あ!ちょっと私、用事思い出したからお兄ちゃんバイバイ」
「真波!一人で帰れるの?」
「うんうん、帰れる帰れるー!お楽しみにねー!」
そう言って疾風の如く、妹は去っていった。
「真波ちゃんに気使わせちゃったかな?」
「大丈夫大丈夫、またなんか言ったら奢るし」
「あはは、仲良いね二人とも」
「ま、まぁ普通だけどね」
「それにしても、このチョコだけど、あの有名ショコラティエのやつだよね?」
「なんで分かるの?」
「だって、このマークがそうだから」
アルファベットとなにかの動物っぽいマーク。有名なマークなんだろうが僕は初見だ。
「なるほど、僕そういうの全然分からないからな」
「ふふ、渡くんらしいね」
「ちなみに、そのチョコ、梅のフレーバーあるらしい」
「え!?ほんと!?嬉しい!」
顔をぱあっと明るくする諒花。やはり梅には目がないらしい。
「喜んで貰えてよかった!妹に感謝しないとな」
「真波ちゃん様様だね。でも、渡くんもウチの好みとかちゃんと考えてくれて嬉しいよ」
「い、いやと、当然だよ」
「ふふ、照れちゃって」
「今度は、ウチが渡くんの好みのものあげるからね!」
「好みのもの?、、例えば?」
「おまい棒1000本詰め合わせ?」
確かに好きだけど。
「えぇ、さすがに食べきれないよ」
「じゃあ何がいいの?プラモデルとか?」
本当に嬉しいことは物じゃないって思う。
「僕は、、、」
僕の本当に欲しいもの。
それはここにあった。
「僕は諒花がそばに居てくれればそれで十分かな」
「なにそれっ……なんかめっちゃ照れるじゃん」
「ま、まぁ!とにかく!別にホワイトデーのお礼だから別に物はい、いらないよ!」
「ダメだよ!絶対あげるから!その、、近いうちに!」
「じゃ、じゃあ楽しみにしてる...」
「うん。楽しみにしてて。あと、」
「ん?」
「ものとは限らないから!」
彼女はそう言って不敵に笑った。
その笑みは、イタズラ少年のようなそんな笑みで、僕は恋する少女のように心がくすぐられた。
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