第三十四話 ジムデート

バレンタインが終わり、季節は、冬から春へと移り変わろうとしていた。


とはいっても、2月の終わりである今は、まだまだ寒い。


今日は、休日だったが、普通に寒く、風も強いらしいので外に出たくないなと思った。


今日の予定は、ぐうたらとした一日を過ごそう。それが最善だ。そう考えた矢先、諒花からRISEが来た。


『突然だけど、ジム一緒に行かない?』


ジ、ジム!?


ジムってあの、運動するジムの事だよな。ぐうたらの一日とジムで過ごす一日は正反対だ。


でも、諒花の誘いならやっぱり断れない。


『行く』


僕はそうRISEを返して、出かける準備をした。



電車に揺られた後、待ち合わせの現地のジムの入口の前で待っていると諒花が現れた。


「お待たせ」


「急でびっくりしたよ」


「あはは、ごめんごめん」


「でもどうしてこんな急に?」


「先週バレンタインデーあったじゃん?」


「うん」


「ちょぅっと、チョコ食べすぎてさ。太った気がして...」


そういう割には、全然いつもの諒花のスラッとした華麗なスタイルは変わりないように見えた。


よくある女子が体重計に乗って、グラム数単位で太っただの痩せただの言うやつだろうか。


男子にとっては、見た目が変わらなければ何キロ増えても減っても別に気にしないが。


とりあえず、諒花がこれで太ったと言ったなら、正直、世の女性全員に喧嘩を売る発言と取られても仕方ないなって感じだった。


「あぁー、だから運動を?」


「そうそう!ダイエットまではいかないけど脂肪燃焼をね!」


「なるほど」


「じゃあ早速中入ろうか」


そう言って僕達はジムの中に入った。


このジムは大きくプールなどがあるだけでなく、ボルダリングなどもあった。


僕達はまず、ランニングマシーンをやることにした。


「渡くん、ランニングマシーン初めて?」


「ランニングマシーンどころか、ジム自体初めてかな」


「そうなんだ。じゃあ使い方教えるね」


ランニングマシーンのボタンをピッピッと押していく。


ランニングマシーンのベルトコンベアーはウィーンと音が鳴り、動き始めた。


「よし、じゃあ頑張ろう!」


「おー」


最初は、ゆったりなスペースだった。これくらいだったら普通の歩くスピードだし全然余裕だ。


「このモードだんだん速くなっていくから振り落とされないようにね」


「う、うん。分かった。」


「はっ、はっ、はぁ」


数十分経って、まさにランニングと言うくらいまでのスピードに来ていた。

僕は、それでもうヘロヘロで、息を切らしていた。


「ふーっ!いい汗かけるなぁ」


一方の諒花はまだ油断そうだ。


諒花が余裕なのに、男の僕が余裕じゃなくて、負けていてどうする!


もっと男らしい意地を見せないと!


「ふあ、、はぁはあ、、くっ」


それでも速さどんどんと上がっていき、そして僕の足は絡め取られた。


「ぎゃふっ!ぷぎゃ!」


僕は顔面を殴打した。


「だ、大丈夫!?思いっきり倒れたけど」


「だ、大丈夫だけど、さすがにもうランニングマシーンはいいかな」


幸い顔を強く打って赤くなっただけで済んだ。が、もう、ランニングマシーンは懲り懲りだった。


「お、おっけい。じゃあ次は上半身鍛えよ」


「こ、これはベンチプレス!?」


名前だけは知っている。筋肉ムキムキの人がよく寝そべって持ち上げるやつだ。


「うん。まあめっちゃ軽いヤツだけど」


「とりあえずやってみるね」


諒花はそう言って、ベンチプレスの台へ寝そべった。


正直持ち上げられるイメージが湧かない。


「う、うん」


「ふーっ!よっ!」


そう一息を着いてから、諒花は一気にバーベルを上げた。


「おお、すごいっ!」


「はあはあ、、じゃあ次、渡くんね」


「できるかな?」


「とりあえずそれ持ち上げてみたら?」


諒花はそう言って、さっき諒花が行ったベンチプレスの台を指さした。

僕は、とりあえず、やってみることにした。


「ふっー」



「うっ!」


一息ついてから、僕はバーベルを持ち上げたが、その瞬間、僕の筋肉は悲鳴をあげ、バーベルを離してしまった。


「あああ、いててて、僕には無理だ」


「渡くん、鍛えが足らないね!もっと鍛えてこう!」


「えぇ!?まだやるの!?」


「じゃあ次は、ストレングスマシンをやろう」


僕は、言われるがままに、そのマシンを使用した。


ストレングスマシンは、上半身下半身両方を鍛えられるマシンだ。


「はあ、はぁ、ふぅ」


「渡くん頑張ってるね!いいね」


僕達は並んでマシンをした。

僕は全力を出し切りもう、体力は0%だった。


「ちょっと...疲れたな」


僕はそう呟く。ちょっとどころかだいぶだが。


「さすがに疲れたね」


「クールダウンで泳ごうよ」


「おお、、プールもあるんだよね」


「そうそう!」


「プールなら是非ともやりたいな」


ということで、僕らはクールダウンとして、プールに行った。


「とりあえず軽くクロールから行こっか!ちょっとウチの泳ぎ見てて!」


諒花がそう言って、クロールを泳ぎ始めた。あの時とは、着実に上手くなっていて、動きにキレがあり、速さも格段と速くなっていた。


「プハ、どう?泳ぎ上手くなったでしょ?」


「上手くなってる。凄い。練習してたの?」


「うん。ジムでずっと練習したからね」


「流石、諒花だね。もう教えることなんも無いよ」


「ほんと!?やった!」


その後、僕らは、軽く何周か泳いで、徒歩コースに来た。


「何気にプールで徒歩するの初かも」


僕はそう言った。

お年寄りが多く居てやりずらいのもあって、今まで泳ぐことしかやってこなかった。


「そうなんだ。ウチはクールダウンによくやってるよ」


「歩くのって泳ぐのよりも健康にいいのかな?お年寄りもよくやってるし」


「うーん、やっぱり泳ぐのには負けるかな?だけど誰でも手軽に出来るというのが徒歩のメリットかな」


「確かに。だからこんなに人多いんだよね」


徒歩コースはお年寄りだらけで満員だった。泳げない人や激しい運動を出来ない人にとっては確かに一番いい運動かもしれない。リハビリにも使われるとも聞くし。


僕達はゆっくりのんびり話しながら徒歩コースをした後、プールから出て、最後にストレッチをすることにした。


「ストレッチ手伝ってあげるよ」


「お、お願いします」


といってまず、背中と足を伸ばすストレッチで、脚を開いて床に着け、背中も床にペタっと付けた。


が、僕の体は硬すぎて、全然背中を床へ近づけられない。


「じゃあ押すよー」


「いててていててててて」


「渡くんけっこーかたいね!!」


「これは押しがいがある!」


「あああこれ以上はあああいててて」


ほんとに僕は身体が固くてキツかった。


「ふう、、なんとか終わった、、、」


今度は諒花の番だった。


「手伝い、いる?」


「ああ、じゃあ一応お願いしようかな」


「う、うん」


諒花のスポーツスタイルの服から肩甲骨が浮きでていて、背中のラインは細かったけど、触れてみると女の子らしからぬ筋肉も少しあった。


「おお、凄い」


「ウチ意外と柔らかいんだよこれでも」


諒花のストレッチは脚を全開まで開きながら、背中と手がピタッと地面に付いていてとても体が柔らかかった。


僕達はほかにも股関節のストレッチや足のストレッチをした。


最後に、2人の肩に手を乗せて背中や肩などをストレッチすることになった。


「こう?」


「そうそう」


僕は、諒花の方に手を乗せた。諒花も同じようにしていた。


そして、頭を下げ、背中を伸ばす。


彼女の、頭と僕の頭が近づき、熱気を帯びていた。


それにちょっとドキッとした。


いい匂いもした。


僕は汗くさくないか気になった。


今日は本当に動き回ったからな...


でも、好きな人と一緒に運動するのは、やる気も湧いて、何より今ストレッチをしている中で、爽快感というか充実感を実感していた。


一人だったらこんな気持ちにはならなかっただろう。


「よし!終わり!」


「やったー、終わったー」


僕は、そう言って上を見あげた。


「渡くん!」


「ん?」


「自分たちへの、ご褒美にジュース買いに行こう?」


「う、うん」


ご褒美に諒花と一緒に飲んだ、その運動終わりのジュースは本当に、格別に、美味しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る