第三十二話 雪遊び

1月某日、日本の寒さは、ピーク時を迎え、この地域にも、大雪が降った。


「えー、大雪警報が出たので、今日は短縮授業とします、なので下校してください」


雪のおかげで、学校が午前中で終わり、ラッキーだった。


僕は雪道を歩いていると、たまたまばったり、諒花と会った。


「あれ?渡くん?帰り?」


「うん。諒花も?」


「うん。短縮になった」


「同じだね」


諒花と一緒に帰ることになり、雪道をザクラザクリと歩いていく。


辺り一面白銀の世界で、降りしきる粉雪が、その世界をより一層、神秘的なものにしていた。


「それにしても寒いね」


「うん。寒い」


「渡くんは、寒いの得意?」


「いやー苦手だね」


「ウチも苦手」


「でも、この景色のために冬があるのなら寒くてもしょうがないかなって思えるよね」


僕はそう呟いた。


「確かに。雪、綺麗だしね」


諒花との話の中で、意識は途切れ、地面を見るのを忘れてしまうくらいだった。


僕は、雪景色の中を歩く、諒花の姿を見つめた。


白銀の世界の中にある、一つの煌めき。

諒花の姿は、その白銀の世界に呑まれない。むしろ、その白銀の世界を自分の舞台としていた。


そんな彼女の隣に、僕はいて、一緒に歩いている。


「どうしたの?」


諒花が僕の顔を覗き込んだ。


つくづく思う。やはり、美しいなと。そして、もっと、彼女に近づきたいと。

もっと、相応しいカップルになって、堂々と隣を歩きたい。そんな理想を描く。


「うわ!」


そう考えていると、僕は、人が歩いてできたツルツルした歩道のアイスバーンの上で滑って転んでしまった。


雪道は注意して歩かないといけないのに。


「だ、大丈夫?」


「う、うん。ちょっと尻もち着いたくらい」


「なにか考え事でもしてた?」


「い、いや別に」


「本当?あ、妄想とか?」


「し、してないから!」


「あはは、そっかそっか」


「ただ...」


「ん?」


「諒花が、すごく雪景色に、似合ってて、風景の一枚みたいで、とても綺麗だなって」


僕は思ったことを伝えてみた。


「はは、なんか照れるね」


「えっいや、別に深い意味は無いけどね?ただそう思っただけで」


「うんうん、あっ、うわっ」


「え?」


今度は、諒花がアイスバーンの餌食に。

諒花は、ずるっと滑って転けてしまった。


「だ、大丈夫!?」


「いてて、、」


「あはは、自分で渡くんに注意しといて、まさかウチも転ぶとは」


「諒花もなにか考え事でもしてた?」


「えっ?いや……な、なんでもないよ」


「ん?ならいいけど」


諒花の何か恥じるような、少し狼狽うろたえた曖昧な態度に僕は少し違和感を感じたが、追及しないでおいた。


もしかして、僕のことを考えてた?なんて追及は恥ずかしくて出来なかったからだ。



下校していると、玩具屋辺りに来ていて、ついでに雪が積もっていそうな、いつもの公園に立ち寄ることにした。


「渡くん!公園の砂場めっちゃ雪積もってる!」


「おお、ほんとだ」


「あそこで雪合戦しようよ」


「え!?」


「誰もいないしさ、大丈夫大丈夫」


「おっけい」


雪合戦するのもいつ以来だろう。父親と、小学生の頃やった以来だと思う。


まさかこの歳になって、しかも、彼女とやるなんて想像もつかなかった。


「えい!」


「いた!」


「ぼーっとしてると、痛い目食らうよ?」


諒花は僕がぼーっとしてるうちにもう、雪玉のストックを4個くらい作っていた。


「やばいやばい!」


「あはは今のうち!」


「いてえ!」


しかも、反射神経のない僕は、全て雪玉を食らっていた。


普通に諒花の雪玉は、速い。


ドッチボール大会があれば、優勝しそうだし、野球のスピードコンテストを受ければ、最高記録を出しそうだ。


「おりゃ」


「うわぁっ!」


僕の雪玉が、諒花の背中にヒットした。

諒花は全力で投げていても、僕が全力で投げる訳にはいかない。僕が投じたへなちょこボールをあえて諒花は避けなかった。


「渡くん、それ本気じゃないよね?」


「う、うん」


「本気でこいっ!」


と言って諒花は野球のばっちこーいのポーズをした。


「よ、よーしとりゃ!」


僕の全力で投げた雪玉は諒花の背中にヒットした。全力で投げたとはいえど、僕は投げるのが下手なので、諒花よりも遅く、へなちょこボールに変わりはなかった。


「倍返しだ!とりゃー!」


「うわっ!」


諒花は、倍返しとして、両手に握った雪玉をそのまま、右で投げてから左でも投げた。


サウスポーもいけるなんて、知らなかった。


またひとつ、諒花の最強の片鱗を見た。スポーツに関しては本当に最強のセンスを持っていると思った。


「はぁー楽しかったね!」


「うん。思う存分、、久しぶりに雪で遊んだよ」


「でもまだまだ遊ぶよ!」


「えぇ!?」


「だってまだこんなに雪が積もってるんだよ?この地方じゃ珍しいじゃん!」


「まぁたしかに」


「だからさ、雪だるま、作ろ?一緒に」


「おぉ、いいね」


雪だるまを作るのも、小学生以来だ。


「じゃあ、ウチが頭の土台と顔のパーツ集めてくるから、渡くんは、体の土台をお願い!」


「わかった」


小さな雪をまず握って、そこから転がしていく。


どんどんと小さいボールのような雪玉がだんだん、大玉のように大きくなっていく様は、面白いし、楽しい。


体の土台だからある程度、大きな雪玉を作らないといけないので、僕は雪玉を転がしに、転がしまくった。


諒花の方は、顔の土台の雪玉はもう出来ているようで、顔のパーツとなる木の枝や石やらを探して集めているようだった。


数十分経って、僕らは作業を終えた。


後は体と頭を合体させるだけだった。


「よし、乗せるよ」


「うん」


僕は、土台の体をしっかり支えて、諒花は頭を持って体に付けた。


つけた瞬間、諒花が頭を支えて、僕が追加の雪で頭を固定させた。


「できたー!」


「おお、後は顔だけだね」


「顔のパーツも集めてきたし!ほぼ完成だね」


諒花はそう言って、雪だるまの顔を作った。


目は石、鼻は落ち葉、口は木の枝にした。


こうして、諒花との共同作業で可愛らしい雪だるまが完成したのだった。



数日経って、僕らは雪だるまを見に行った。


「もう溶けちゃったね。雪だるま」


僕はそう呟いた。


雪だるまは、体の土台部分は3分の1ほど溶け、頭はほぼほぼ溶けていた。


「まぁー仕方ないよね。こればっかりは」


「うん、仕方ない」


「でも、良かった。ウチ、雪だるま作るの初めてだったんだよね」


「そうだったの?」


「うん。雪合戦はしたことあったけどさ」


「だから、この雪だるまが溶けちゃうのは本当に悲しいけど、渡くんと雪だるまを作った思い出は絶対忘れないと思うから」


「そうだね。作る過程も楽しかったし、記憶には僕も残ったよ」


「そうそう、この雪だるまはウチらの記憶の中で生き続けるよ!」


彼女はそう高らかに宣言するように言った。


人は忘れる生き物だ。それでも、ずっと人の記憶に残り続けるものは、本当に大切なことなのだろう。


僕は、諒花との思い出の一つ一つを一生忘れず、記憶に残り続けるものだろうなと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る