第三十一話 諒花と年末年始


クリスマスが終わり、あっという間に大晦日になった。


いつもは、ガキ○だの紅○だのを家族と見ながら、孤独に年を越すんだけど。


ピロリリン


どうやら今年は違うみたいだ。


『テレビ番組、今何見てる?』


『今のところ、ガキ○かな』


『そうなんだ!ウチは紅○かな』


『まぁ、もうそろそろ親に紅○に変えられそうだけど』


『そうなんだ』


『なら、同じだね』


『うん。紅○、好きなアーティストとかいるの?』


『いや、特に居ないかな。とりあえずつけてるって感じ』


『なるほど。まぁ僕も』


『話は変わるけど、年越しそばもう食べた?』


『あぁ、もうすぐ食べるところ』


『へぇ!手作り?』


『一応母親の手作りかな』


『お母さん凄いじゃん!』


『諒花は?』


『ウチの家も手づくりだよ!トッピングはかき揚げ』


『おぉ!』


『そっちは?何乗せるの?』


『えび天かな』


『いいね!』


RISEのやり取りは、年を越す瞬間まで続いた。


一緒にいるわけじゃないのに、諒花が近くにいて、一緒に年を越す感覚だった。



初夢は、何も見なかった。


というか最近、僕は、めっきり夢を見る事が無くなった。


それだけ熟睡ができているんだろう。それは諒花と過ごす日々に全力を尽くしているからかもしれない。


「あけおめ」


僕はリビングのドアを開け、家族にそう言った。


「あけましておめでとう、渡。お雑煮もうできてるわよ」


「あぁ、うん」


「あ、お兄ちゃん、あけおめ」


妹の真波は、雑煮の餅を頬張りながらそう言った。


何ら変わりない、新年の風景で安心した。


お雑煮を食べ終わり、家族で神社にお参りに来た。


神社では、どこかからのラジカセで、越天楽が流れている。しょうの音色は、CDとは言えど、神社全体を一瞬で突き抜けるように、貫くように響いていた。新年早々の冷たい北風が吹き、木の枝がふらふら揺れる。僕はネックウォーマーを鼻元まで被せた。神社にいる人々は、街灯の光に集まる羽虫達のように、焚き火に集まって暖を取っていた。焚き火の焦げ臭い煙の匂いが辺り全体に漂っている。そんな中、僕はただ一点だけを見つめて、砂利道を踏み出した。


僕の目線の先には、古賀 諒花。僕の彼女がいた。


彼女は、お参りをする列に並んでいて、やはり煌びやかな金髪と、その整ったルックスと、スマートなスタイルは、どんな人混みに紛れようと、目立ち、一瞬で見つけることが出来る。


「りょ、諒花」


「お、渡くん!来てたんだ。あけおめ!今お参りするところだよ」


「そ、そうなんだ、あけおめ」


「おぉ、渡君、あけましておめでとう。今年も、諒花をよろしく頼むなぁ!」


「ちょっと、お父さん、あんまり割り込むんじゃありません」

と言って、諒花ママは諒花パパを引っ込ました。


「パパとママはほっといて、一緒に、お参りする?」


「うん。する」


僕達は、二礼二拍手一礼から、目を瞑り、手を合わせた。


僕は、諒花といつまでも、仲良く出来るように願った。


横目でチラリと諒花を見ると、手を合わせて目を瞑っていた。


諒花は何を願ったのだろうか。


「渡くん、何、お願いしたの?」


「こういうのは、言ったら叶わないって言うから」


「えぇーじゃあウチも言わない」


そう諒花は言って顔を背けた。


僕は、恥ずかしくて隠してしまった。


こうなるなら、言えばよかった。諒花が何を願ったのかモヤモヤする。


「おみくじやる?」


「どっちでもいいかな」


「せっかくだしやろうよ!」


と諒花言って、僕はおみくじを引いた。六角形のおみくじの筒から、番号の書かれた棒が一本出てくる。番号は23、その番号が書かれた23の棚から一枚、一番上の折りたたまれた紙を取る。


その紙を開くと、紙には大きく大吉の文字。


僕は、まず、恋愛運に目をやった。


焦らずじっくりとやれば必ず恋は叶うとなっていた。


「どうだった?」


「大吉だったよ」


「え!?凄いじゃん!」


「諒花は?」


「ウチは今開けるとこ」


「うわ!大凶だ!」

最強な諒花も運勢には敵わないのかもしれない。ただ、大凶も珍しく引いたら逆に良いとも聞く。


「大凶もある意味ラッキーらしいよ」


「そうなの?」


「うん。一時期なんかニュースでやってたんだ」


「何事もプラスに考えるのは大事ってことかな?よし、大凶引けてよかった!」


このポジティブさはやっぱり諒花だった。



おみくじを一緒に引いた後、神社の広場や縁側で、羽子板や福笑いなどをやっている子供達がいた。


「ウチらもやらない?」


「え、いいけどやっていいの?」


「誰でもやっていいらしいよ」


「じゃあ、福笑いやろ」


「お、いいよ」


福笑いとは、おかめやひょっとこのお面のような紙にバラバラになった目や鼻や口のパーツを、目隠しで当てはめていくというものだ。


「よーし、じゃあウチから」


諒花が目隠しをして、覚束おぼつか無い手つきで、パーツをあてがっていく。


掴んでるのは右目だった。


「えっと目はもうちょっと左」


「こ、こう?」


「ああ、行き過ぎ!」


「じゃあここら辺」


「うーんまぁ、いっか」


右目が少し鼻と近いし、目の角度がズレてめっちゃつり目になってしまっている。


もっと上手く指示しないと。


次は、諒花は左目を持っていた。


僕は、集中して、おかめのベースを覗き込む。


「えっとここら辺?」


またも、顔の中心に目が来ている。


「そこは鼻だから、もうちょい左」


「もうちょい左、、、よいっしょ、あいたぁっ!」


「痛てっ!?」


僕が集中しすぎて、あまりに覗き込んでいたから、諒花のおでこと僕のおでこがゴッツンコ、ぶつかってしまった。その時肌と肌が触れ合い、少し香るいい匂いに僕は頬を赤らめた。


「ごめん!大丈夫!?」


「大丈夫、大丈夫。ウチ意外と石頭だから」


「それよりも、ここの位置であってる?」


「ああ、うん。大丈夫。でも、目の角度が」


「どうなってる?」


「タレ目になってるからもうちょい、右に回すといいかも」


「こう?」


「うーんもうちょい上」


「こう?」


「もうちょい下」


「こう?」


「もうちょい上」


「こう?」


「あぁ、、うんまぁそんな感じ」


これだけ直しても、どうしても、微調整が上手くいかず、またもやツリ目になってしまった!しかし、、さすがにもう面倒くさくなり妥協せざるおえなかった。


そんなこんなで調整が難しく、その後も鼻やら、眉毛やら口やらをあてがっていくが、やはりズレて結果、変な顔になった。


「ぎゃあ、なにこれ!あはははっ」


目隠しを取った諒花は大爆笑していた。


この後、僕も福笑いやったが、めちゃくちゃ下手で諒花よりも酷い顔がひょっとこの顔が完成された。


それを見て僕らは、大爆笑して、福笑い出来たのでそれはそれで良かったのかもしれない。


次に僕らは羽子板をやることになった。卓球が得意な僕だが、バドミントン等はめっきりダメで、それに通ずる羽子板はやりたくなかったのだが、スポーツ万能の諒花はやはりやりたいらしい。


「おりゃ」


諒花が掛け声と共に、羽子板の羽を打つ。


虹色の羽根がひらひらと舞いながら、僕の方へ向かってくる。


「おっとと、うわっ」


僕は盛大に空ぶった。


羽子板もやはりダメで僕は諒花に完敗だった。


「一旦休もっかー」

羽子板を結構やってクタクタになった後(諒花はピンピンしていたが)、諒花はそう言った。


縁側付近で、休んでいると、神社の建物内で、けん玉・お手玉・めんこ・こま・かるたをやっている子供たちがいた。


「けん玉やっていい?」


「うん。見たい見たい」


「よぉし」


とめけんしか披露してなかったからな。


僕の最高のパフォーマンスを見せてやる!


僕は、野球や飛行機、日本一周といったけん玉の技を披露した。


「すっご!こんな技があるんだ。けん玉!」


「けん玉の技は300種類以上あるらしいよ、一説によると3万とか5万くらいあるとも言うけど」


「えぇ!?3万から5万!?!?けん玉ヤバすぎ!」


「僕は、十種類出来るか出来ないかくらいなんだけどね...」


「それでも凄いよ!将来はけん玉のプロだね!」


「あははそれは言い過ぎだよ」


「よし、ならウチは、こまのプロになろうかな!渡くん!やりに行こうよ!」


そう言って諒花は、僕の手を引っ張りこまを取りに行こうとした。


彼女と過ごす正月は楽しくて、今年はいい一年になりそうだと思った。

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