第三十話 クリスマスデート

日付は12月25日。


そう、クリスマス。聖なる夜。


この世で一番恋人たちがイベントであり、それ以外の人達は、特に何の関係も無い人であり、子供にとっては、パーティやプレゼントでワクワクする一日だ。


そして、中森 渡は人生の中で、一番ウキウキしていた。


それはもちろん、彼女である、諒花と、クリスマスデートに行くことが出来るからである。


都会のど真ん中、大盛駅での待ち合わせだった。


「ごめん待った?」


「いや、ちょうど来たところだよ」


「それじゃあ行こっか」


そう言って、手を繋ぐ。そして、恋人たちがひしめく、街中へ、僕達もその一つの群れの中に入った。


諒花の今日の服装は、水色の裏起毛プルオーバーのトップスに、白いダッフルコートを着ていて、ボトムスは、黒のシックなロングスカートだった。


相変わらずだが、服装も容姿も、多分この中にいるカップルの女性の誰よりも、輝いている。


大盛駅のデパート街はイルミネーションで彩られていたが、それに引けを取らない。


彼女自身も光っていた。


「うわぁ綺麗だね」


デパート街に植えられた木のイルミネーションを見ながら諒花はそう言った。


「ほんとに...綺麗」


僕は、諒花を見つめながらそう言った。


「でもやっぱり人多いねぇ~」

諒花は、イルミネーションから人だかりに目を移していた。


「まぁ、クリスマスだから」


「恋人の祭典!って感じだもんね」


「とは言っても、キリストの誕生日ってだけなんだけどなぁ本来は」


「あはは、日本人って何かとイベント事にしがちだよね」


「ほんとそうそう、バレンタインもさぁ...あんなんお菓子メーカーの策略だろ!ってね」


「ふふ、言えてる言えてる」


ロマンチックなイルミネーションの光の元で、こんなに下世話で、普段通りの会話をできるのはとても気が楽だった。


僕達は、街中を歩いてイルミネーションを楽しんだ後、デパート内に入って、ウインドウショッピングを楽しむことにした。


クリスマスということで、デパート内では、クリスマスソングが流れ、クリスマスツリーやヤドリギ、可愛い靴下が飾られていた。


「うわ~、可愛いー」


デパートの小物ショップでトナカイのぬいぐるみや、サンタクロースの人形が売られていた。諒花はそれを見ながらそう言った。


「どれがに気に入ったの?」


「この雪だるまのぬいぐるみかな」


「買ってあげるよクリスマスだし」


「いいの?ありがとう」


「渡くんは、何か欲しいのないの?ウチだけ貰うのも悪いし」


「いや、いいよ全然」


「いや!ウチがプレゼントしたいの!渡くんに!」


「えぇっとじゃあ...」


僕は、ショップを見回して、気になったのは、あのトナカイのぬいぐるみだった。


「へぇ、渡くんにしては珍しい、こんなに可愛いのが欲しいんだ」


「ま、まぁね」


触り心地といい、可愛さといい、、まぁ他に欲しいものがあまりなかったのもそうだけど。あと、ちょうどいいクッション代わりになりそうなものも欲しかったし。


大きなぬいぐるみを抱えながら、僕達は店を出た。


「なんか、どっちも大きなぬいぐるみ持ってるからゲームセンターでゲットしてきた人みたいだね」


「たしかにね」


「これからどする?まだデパート内見る?」


「いや、、行きたい場所があるんだ」


僕はそう言って、僕らはデパートの外に出た。


デパートの3階部分から外へ出れるようになっていて、そこはちょっとした広場であり、様々な綺麗なイルミネーションが施されていた。


「うわぁ凄い...」


何個ものLED照明を使用したであろう、煌々こうこうとした電飾に包まれた、大きなクリスマスツリーが中心にあり、その周りにあるベンチには多くのカップルが座っていた。

他にも、草の壁に、MERRY CHRISTMASと筆記体で書かれたり、立体的な、サンタクロースの電飾や、トナカイの形をした電飾、ソリの電飾があって、様々な色で光っていた。


他にも雪だるまの電飾やら、ヤドリギの電飾、雪の結晶の電飾など色々なものがあり、とても綺麗なイルミネーションだった。


「うわぁ、最高だよこれ。ほんとに別世界に来たみたい」


「良かった。喜んでもらえて」


「あ、あとさ、ここから見える夜景も綺麗なんだよ。イルミネーションとか見えて」


「ほんとだ!」


「あの、ビルの電気も模様になっててさ、よく見るとトナカイとかサンタクロースの模様になってるんだ」


「え!ほんとだ!凄い!」


「普通に見るイルミネーションと、上から見るイルミネーションじゃ違うね……!」

諒花は目を輝かせながら言う。


「眺めがいいよね」


「そう!夜景とイルミネーションセットで見えるのがなんかエモいっていうかね!」

諒花は興奮しながらそう言った。


「そうだね。喜んで貰えてよかった」


僕達はそうして、デパートの外の広場で、夜景を眺めていた。


「ちょっと冷えてきたね」

ある程度時間が経って、寒さを感じ、僕はそう言った。


「確かにそうだねー、戻ろっか」


「あっちょっと待って」

僕はデパート内に入ろうと動き始めた諒花を呼び止めた。


「ん?どした?」


「こ、これ」


「なにこれ?」


僕が彼女に渡したのは包装されたプレゼントだった。


「これ、あのスノードームのお礼の、プレゼント」


「え!?ほんとに!嬉しい!!」


僕からの、クリスマスプレゼントサプライズだった。

もちろんサプライズをするなんて経験は初めてだ。


「これは、、、アロマ?」


「うん。めっちゃいい匂いのするリラックス効果のあるアロマ。クリスマスだし、一応クリスマスツリーのイラストが入ったやつ」


「おおお凄い、、!ありがとう。めっちゃ嬉しいよ。大切に使うね」


「う、うん。おわっ!」


その時、一段と強い北風が吹き、諒花は思わず、寒さに耐えきれず、僕に抱きついてきて、思わず声を上げてしまった。


「ううぅー寒っ!」


「だ、大丈夫?」


「うん。こうしてると暖かいね」


うわあああああっ!いろんなぬくもりが!直に!感触が!これ以上は表現によってはアウトなので言えない。


「ああいうサプライズされるとさ、ほんとに胸がドキドキしてさ」


「う、うん」


「ど、どう?この鼓動伝わる?」


「えっ、えっとぉ……」


「ふふふっ、流石にわかんないか」


そう言って、諒花は僕から離れた。


「じゃあ、さすがに寒いし、戻ろっか!」

そう言って、早足でデパート内に入っていく。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


僕はそれを追いかけながら考えた。


もしかして、寒さでは無くて、鼓動を伝えるために抱きついてきたのか?だとしたらそれは反射的な行動じゃなくて、抱きつきたいという計画的な行動で。


だとしたらだとしたら、彼女は僕に抱きつきたい意思があったって事にならないか!?鼓動を伝えるためになんて、僕ともっと触れ合いたいって意味以外ない気がする。


とにかくとにかく、諒花にしては、大胆な行動で、僕にとっては刺激が強すぎた。この後の僕は、このことで頭いっぱいになり、一定時間思考が停止してしまっていた。


胸もドキドキしていたし、顔も赤くなっていたと思う。


でも、彼女とまた、距離が縮められたような気がして、それはサプライズの効果もあったと思うと、夜景とプレゼントのサプライズを計画して良かったなと思った。

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