第二十八話 突然の別れ

12月に入り、冬が訪れた。


北風が吹き、まだ雪こそ降らないが、いつ降ってもおかしくない。そんな寒さの時。


下校していると、


諒花から連絡があった。


『ちょっと話があるの』


との一言だけ。


僕は、悪い予感と嫌な想像をした。


呼び出された場所は、僕たちが出会ったあのおもちゃ屋の近くの、公園だった。


ここは、僕と諒花がチックタックをやったところだ。


そのベンチと砂場近くには諒花の姿はなかった。


僕は、ブランコの方を見ると、一人で佇む諒花が居た。


「こんな所にいたんだ」


「あ、ごめんごめん、もう来てたんだ」


と言って、顔を上げてブランコから降りた諒花は、何かをリュックから取りだした。


それは、2つのグローブだった。

「しよっ、キャッチボール」


「えぇ、急に?」


「うん!」


ということで、僕は大きい方のグローブをめた。


「じゃあいくよー」


と諒花は掛け声をして、白いボールを放る。


ボールは回転しながら僕の、胸元目掛けて、結構速く届いた。


パシュ、ポロ、ボテボテ。


意外と力の強い女子とは思えない球に、僕はボールを弾いてしまった。恥ずかしい。


「ごめんごめん」


「いいよいーよ」


「でも、よくグローブふたつあったね」


「まぁ父親が、野球好きだからねぇ~」


「そうなんだ」


話を聞くと、古賀家は、母も父も野球好きの野球一家らしい。東京住みということでヤクルトが好きらしい。父親は野球をやっていて、諒花も妹の透さんも野球女子にされるところを、母は止めたらしい。なぜなら、二人とも野球にあまり興味がなかったからだ。そのせいか、代わりに弟の草太くんが野球をやる羽目になったらしけど。


「じゃ、じゃあ投げるよー」


「よーしドンと来い!!」


「とりゃあー」


ひゅ~~~ん、ポロ、コテ、コテ......


「あぁ、ごめん。届かなかった」


「もうちょっと距離縮めてやろっか」


「い、いやまだ肩があったまってなくてぇ...」


僕はそう言い訳する。


「じゃあさ、鬼ごっこでもする?」


「鬼、、ごっこ?」


「うん、鬼ごっこ。いい肩慣らしになると思って」


諒花はそう言って僕らは鬼ごっこをすることになった。


「「じゃんけんぽん」」


「よし!勝った!」


鬼決めのジャンケンは、諒花がパーで僕がグーを出した。


「じゃあ僕が鬼か」


「30秒数えてね」


「うん」


1.2.3、、と僕は心の中で数え始めた。


目を瞑って数えていると、急に、体が冷えたような感覚を覚えた。それは、寒さからだろうか。それとも。


30秒数え終わり、諒花を探していると、ジャングルジムや遊具を盾にしている諒花が居た。


「やば、逃げろ」


「ああっ!」


手が触れそうになるところを華麗にかわされた。


あともうちょっとで手が届かない。


運動能力は確実に負けているから、何とか粘って体力勝負に持ち込むしか無かった。


僕は渾身の力を振り絞って、必死に諒花の逃走に食らいついた。


そして、その粘り強さが勝ったのか。諒花はスタミナが切れた。


「タッチ!」


「うわぁーやられたー!」


僕達は倒れ込んで、ゼェゼェと息をしていた。


「よーし、これであったまったかな」


「うん、、だいぶ」


あたたまるどころか全力を出し切ったくらいだった。


僕達はキャッチボールに戻った。


「それで、話って?」


僕は、ボールを投げる前に、切り出した。普段なら僕は、こんなに踏みきることは無い。でも僕は、ここ最近に違和感を感じていた。古賀 諒花という人間が、陽の権化で、オーラとして無類の明るさを放つことは自明のことでありながら、最近の、諒花の動作や表情に微細ながらも、陰がひっそりと近づいているようなそんな負のオーラを感じ取ったのだ。それを察知してしまった僕は苛まれていた。だから、苦しくて聞かずにはいられなかったのだ。


「えっと...その、、」


珍しく彼女が口篭る。そんなに言いずらいことなのだろうか。その曖昧な態度を受け、僕はネガティブな妄想、空想を発展させてしまう。ああだめだ。こうなると、僕自身でも手が付けられない。やめろ、、やめてくれ。早く悪いことでもいいから言って欲しかった。


「ウチさ、、」


鼓動が早まり、体中に、毒素のたっぷりのおりが溜まっていき、それが循環していく。


その毒素が、身体中に循環し、僕の身体を満たして、腐らせ、殺す前に、彼女の言葉で僕を殺して欲しかった。


「明日から、海外に行くことになったの」


「え?」


「親の仕事の都合で、海外出張する事になって、それが長期になるみたいで」


「ちょ、ちょっと待って。古賀塾は個人経営じゃないの?」


「ウチ、実は共働きなの。ママがエンジニア関係の仕事をしてて、その都合でなんだ」


「そ、そんな...」


「だから、別れよう」


心臓が、鋭い刃物にグサリと刺される感覚を受ける。


その痛みに耐えられず、僕はポトリとボールを落とした。


声が出なかった。


毒素が、体全体に渡る。体が悲鳴をあげる。


落ち着け、深呼吸しろ。これは、きっと悪い夢だ。


「唐突に本当にごめん。私の一方的な都合で、ほんとにごめんなさい」


俯いて、物悲しく、彼女はそう謝り続けた。


僕は、


「全然大丈夫だよ。僕は待ってるから」


無理にそう取り繕った。引きつった笑顔で。その笑顔は偽物で、仮面かもしくは、誰かに頬をつねられて、作らされた笑顔だ。


「いつ帰れるかも分からないし、もう会えるかすら分からない。それなのに待ってもらうなんて出来ないよ」


「それでも、僕は待つよ。絶対に」


僕は、悲しい別れなんて嫌だったから。


「それは嫌だよ」


でも、彼女はそう言った。


「へ...?」


「私は、苦しんでる渡くんを想像してしまう。だから嫌なの。それくらいだったら、キッパリ別れて、新しい恋を見つけて欲しい」


彼女は顔を上げてそう言った。

諒花の顔は、涙で濡れていた。

初めて見る、彼女の弱い顔だった。


「でも、、、僕は、、それでも、、いや、その方が苦しむんだよ!!!」


「どうして..?」


「だって...僕はほんとに、諒花の事が好きだから。別れても、絶対他の相手を好きになることなんてないし、別れた方が僕は本当の孤独だ。心だけでも諒花と繋がってたいんだ」


「渡、、、くん」


「だから、、だから、、、、別れて欲しくな」


僕は心の本音を振り絞って諒花にそう伝えた。


それが伝わったのか、彼女は声を上げて泣き出した。泣き崩れた。


その泣き姿を見て、僕も涙を零した。


僕は、ゆっくりと足を運び、彼女を抱きしめた。


こんなにも暖かいのに、こんなにも距離は近いのに、、触れることが出来なくなる。


そんな境遇は悲しかった。



僕らは散々泣いたあと、シーソーに揺られた。


「これまで、色んなことがあったね」


「うん...色々あったね」


「諒花は、楽しかった?僕と、、その付き合えて」


「もちろん楽しかったよ」


「渡くんは、、どうだった?」


「僕は、、本当に、、初めてでこんなこと。だから、、とても楽しかった」


「そっか」


「本当に、ありがとう諒花」


「こちらこそ、渡くん」


もう涙は零れなかった。


シーソーに揺られながら僕らは笑みを交わした。


もしかしたら、これで最後になるかもしれない日を、時を思う存分過ごした。


ただ、この時は、思いもしなかった。


諒花とあっさりと、また再会することになるとは...(笑)


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読んでくださった方、ハート、星、コメントやレビュー、フォローをしてくださった方に本当に感謝しています!ありがとうございます。


とても、私の励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します!


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