第二十六話 桜山女子校文化祭 カジノ!
桜山女子校の文化祭は、人も多く、男子高校生も、極わずかにいた。ほとんどがカップルで歩いていて、諒花と会う前の僕は一人で歩いていたから超目立って浮いていたけど。
2年D組、諒花のクラスはここか。
教室前にある張り紙には、Dカジノと書いてある。諒花のクラスの出し物は、カジノらしい。
カジノと言ってもお遊びのやつだろうけど。文化祭のカジノで現金賭けるわけないし。
とりあえず、教室内へ案内された。
僕が来たぜ……ぬるりと……
「あ、渡くん!いらっしゃい!」
カジノとは名ばかりで、僕は諒花のバニーガールなどのちょっとエッチなディーラー姿を期待したが、普通の制服のままだった。
「今、渡くん、変な妄想してた?」
やばいバレてた。顔に出てたかもしれない。
「い、いやいや、べ、別にしてないよ。そ!それより、カジノらしいけどなんのゲームやるの?」
「主にトランプかな。この卓ではポーカーだね」
ポーカーか。ポーカーにも色んな種類があるけど、これはフロップポーカーだった。
「ウチがディーラー役で、仕切って、お客さんは4人から6人くらいで対戦するの」
「なるほど、ちょうど6人いるね」
まあ僕以外全員女子だけど。
「じゃあまずルール説明するね」
と言って、諒花はポーカーの説明を始めた。
簡単に説明すると、ポーカーとは、まず掛け金をある程度持って、勝負し、その掛け金が無くなったら負けるというトランプを使ったギャンブルゲームだ。プレーヤーはまず、2枚のカードを手札として引く。そして、次にその手で勝負するか勝負しないかを決める。勝負になったら、場に、3枚のカードが出る。それをフロップという。そこでまた追加で賭けるのか降りるのかを決める。賭ける場合、勝負初月、次に1枚場に出る。これがターン、そして最後の1枚は、リバーだ。これで計5枚場に出たあと、それでも勝負が続いていたらショーダウン。その賭け金での勝負が決着する。基本的にA《エース》が最強だということを覚えておけばいい。
まぁ、僕はポーカーのスマホアプリでやり込んでいたのでポーカーはお手のものである。
まず僕は、CO《カットオフ》から始まった。
配られた手札は、ダイヤのK《キング》と8のスーテッド。
まず、フォールドかコールかレイズを選択する。賭け金を多くして勝負に出るならレイズだが、Kと8のスーテッドでは、さすがに弱い。しかも、HJ《ハイジャック》からレイズされている。
ここは降りる。フォールドだ。
ワタル、まずは慎重な滑り出し。
ポーカーは自分が降りてもゲームは続く。結局、このゲームは、フロップで、誰かが倍ベットし、他の人は全員フォールドして決着した。その場合はベット額が全てベットした人(最後まで降りなかった人)が貰える。
今度は僕がHJ。配られた手札の数字は、クローバーのAとハートのJ《ジャック》これは強い!3倍レイズだ!
さぁ、賭け狂ってこうじゃないか!
2人がコールをした。
フロップが先ず引かれていく。
引かれた数字は、4と6、 そしてJ
来たッ...!Jのペア!
「ベット」
よし、倍ベットだ。
僕は賭け金の倍額ベットをしたものの、他の二人はコールで、勝負に降りなかった。
そして、ターンに9が引かれ、そこでも僕はまたベットするものの、勝負は続き、リバーに6が引かれた。
6が場に2枚出たことによって、6のスリーカードを引かれている場合がある。
ただもう、これだけ賭けて引くに引けなかった。6が引かれてないことを信じるしかない。おせっ、、!おせっ、、!
しかし、そこは、相手の術中!底無し沼ツ...!!
「かかったわねぇ!」
一人の女子生徒がそう言った。
その女子生徒は、4と6のフルハウスを揃えていたのだ。
しかも、もう一人の女子生徒は、手札が99で、スリーカードを引いていた。
僕の完敗だった。
でも、賭け金は半分以上残っている。まだまだこれからだ。
勝負は続いていった。僕はあまりいい手が引けず、賭け金も少ないので、我慢のターンが続いた。その間、4と6のフルハウスで、勝った女子生徒がほとんどのチップを有していた。その女子生徒は既にもう、3人を退場させていた。
3位以内は決定したが、1位を目指さないと意味は無い。
僕はハートのJT《10》のスーテッドを引き、BB《ビックブラインド》の位置だったのでコールした。相手は今トップの女子生徒だ。
9、6、8、6
と、ターンまでチェックが続き、僕も相手も膠着状態だった。
僕は、7もしくはQ《クイーン》を引けば、ストレート、もしくは場の9と6がハートなので、ハートのカードが引けば、フラッシュだ。
僕はその可能性に賭けた。
そして、リバー、最後の一枚が引かれる。
それはダイヤのKだった。
引けなかった。ストレートも、フラッシュも視野だったのに。
「ベット」
でも、相手もチェックで引けてない状況だろう。ここであえて、ブラフベットだ。そして相手を降ろさせる!
「コール」
「まじか」
クソ、ブラフがバレたっ!!
「ブラフバレバレよ」
またも、大事な賭け金が減った...
残りのチップは、3分の1程度。
そして、次のカードが配られる。
手札は、スペードのQとTのスーテッド。
それほど強い手では無い。勝負できるか出来ないかギリギリのラインだった。
でも、攻めるしかない。
「レイズ」
ほとんどの賭け金を使ってレイズした。
「ふふ、やる気ね。コール」
トップを走る女子生徒がニヤつきながらそういった。
僕は覚悟を決めたのでそれに動じなかった。
プロップは、K、2、A
ターンが7。
まだハイカードで、ワンペアすら揃っていない。しかし、圧倒的閃きッ...!
僕にはブレイブメンロードという名の勝ち筋が見えていた。
このリバーで、Jを引ければいいのだ!
そのリバーに、Jは引かれた。
きたっ...!きたっ...!圧倒的...僥倖ッ...!!
命は金よりも重い。誰かが言った。ならその命、賭けてやるよ...僕の人生をレイズしてやるッ...!オールインだッ...!!!!
「オールイン」
「またどうせブラフなんでしょ?」
トップの女子生徒はそう言ってコールした。
ショーダウンになった。
「Aと3のスートで、ワンペアよ」
「A、K、Q、J、Tのストレート」
「なっ!」
「おお!渡くんすごっ!あ、ゔ、うん。では、次のカードを配りますね」
諒花も思わず反応する下剋上勝利だった。
ただ、これで勝ってもまだ振り出しに戻ったばかり。
本当の戦いはこれからだったのだが、その流れのまま、運が味方になり、強い手を引きまくって、連勝し続け、僕は勝った!
結局、ポーカーは、運ゲーなのである。
「トップは、渡くんか。さすがだね」
「まぁ、運が良かっただけだよ」
「一応景品あるからね。これをあげます」
諒花がそう言って景品としてくれたものは、絵が書いてあるオリジナルカードと、恐らく高校の自販機で買った冷えたオレンジジュースだった。
「あんまりなんかそういう豪華なものは用意できなかったから」
「このカード、諒花が作ったの?」
「そのカードは一応」
「よく出来てるね。すごい、これは」
「あ、ありがと、、」
「あと、ジュースも美味しいよ」
「今、飲んでいい?」
「いいけど、、、今?」
「うん」
僕は、オレンジジュースを、喉越しよくゴクゴクと飲み干した。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙キンッキンに冷えてやがるうぅぅぅぅぅぅ......悪魔的だァァァァァァ……」
これがやりたかっただけである。
◇
「いやー仕事終わったー」
「お疲れ様」
諒花はカジノのディーラーを終え、自由時間タイムとなった。
「どこ行く?」
「うーん、ウチはもうゆっくりしたいかなぁ」
「なら、劇、見に行く?今、3年生がやってるらしいけど」
「お、いいね、行こう行こう」
体育館に到着した。
劇は、王とか姫とか騎士とかそういう西洋を舞台にしたものだった。
「女性が男性役やってる。なんか宝塚みたいだな」
「まぁ、女子校だからね」
女子校なので、王も騎士もみんな女性だ。今は、王子役の女子生徒が、低い声で熱演をしているところだった。
「諒花、ああいう役似合いそう」
「演技なんてしたことないから、あんな大役無理だよ」
諒花は謙遜してそう言った。
「ウチは脇役で十分かな。確か、渡くんも3年生では演劇が出し物なんでしょ?どういう役やりたいとかある?」
「僕は脇役どころか裏方でいいかな」
「えー、それはつまんないよ」
「えぇ。なら木の役で」
「ふふふ。それは似合いそう」
「ちょっ!」
「あはは、冗談冗談」
「でもやっぱり、諒花は、脇役より主役が似合うよ」
「主役かぁ、例えば?」
「お姫様、、役、とか?」
僕は諒花のお姫様役姿を想像して言った。
「えぇ!?似合うかな、ウチがお姫様」
「似合うよ、絶対似合う」
「ほんと?ならいいけど」
正直、諒花ならなんの役でも似合うと思った。
「じゃあ、ウチがお姫様役をやるとして、渡くんは、王子様役、練習しといてね? 」
「えっ!!!」
思わぬ一言に、僕はたじろぎ声を上げて、赤面してしまった。
女子校の劇はいつの間にかクライマックスで、よくある、お姫様を眠りから覚ますために、王子がキスをするシーンだった。
さっきの諒花の言葉が脳内で繰り返される。
隣にいる諒花の唇を、僕は自然と見つめていて、心臓の鼓動は早くなっていった。
そして僕は色々な想像をして、顔に血が上った。
僕はまだこんなことで真っ赤っかになってしまう。それくらい諒花とは、進んでいない。仕方ないかもしれない。そもそも僕は、女子と話すことすらままならなかったのだから。
でも、意識すれば、やはり進みたいと思う。天子さんの言葉から諒花も初心であるのは知っている。だから、僕が、勇気をだして、踏み出さなきゃいけないんだ。
人目があるので流石にここでは出来ないけど、いつか、その一歩を────。
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