第二十二話 カラオケ
夏休みが終わり、新学期が始まった。
今日は始業式で、早く帰れるものの、僕はとてもとても眠くて、体育館で校長の話を立って聞いたまま寝そうだった。
それもそのはず、僕は昨日、一夜漬けで、夏休みの課題を終わらせた。
諒花と遊んで、浮かれて全く課題を終わらせていなかったのだ。
眠るか眠らないかのはざまで、僕は混濁した意識の中、いつの間にか始業式は終わっていた。
ピロリリン。
下校中、RISEの通知音がなる。この音を聞くと、毎回僕は胸を掴まれたように、ドキッとする。それは、決して悪い緊張ではなく、
RISEの相手はやっぱり、諒花だった。
そうそう、RISEの名前も古賀さんにしてたけど、諒花にした。
今でもやっぱり違和感が半端ない。でも、優越感も半端なかった。
『今さ、みんなとカラオケ行くって話してるんだけど、渡くんも来る?』
カラオケか。みんなというのはギャル友だろう。
僕は正直歌に自信が無かった。とはいえ、諒花が行くなら絶対に行きたいし、最悪僕は歌わず、みんなの歌を聞けばいいだろう。
『行きたい』
『じゃあ、大島田駅近のカラオケ屋にするね』
『あそこね。おっけい』
大島田駅のカラオケ屋か、あそこは何回か行ったことあるな。
◇
「あ、渡くんこっちこっち!」
カラオケ屋の前では、諒花とギャル友達がいた。
「お待たせ」
「おー、中森っち!お久!」
「ワタルじゃん、久しぶり」
「よし渡くんも来たしじゃあ入ろっか」
諒花の一声で僕らはカラオケ屋に入っていった。
「ひっさしぶりだなーカラオケ来るの」
菜々子さんはそう言った。それに続き
天子さんも同じくと言った。
僕も小学生の頃、家族と行ったきりで、久しぶりのカラオケだった。
「えーそうなの?理子は、週二くらいで通ってるけど」
「理子凄いね、ウチは月一くらいだけど」
一方、諒花と理子さんは、結構通ってるらしい。歌上手そうだな二人とも。
「それじゃあ!アタシ一番行かせてもらっていいっすか!」
天子さんはそう言って、曲を転送し、カラオケは始まった。
天子さんの選曲は、何かの女性組アイドルグループの曲で、明るくポップな曲調で、ノリノリな曲だった。
それに合わせて諒花や理子さんは手拍子をしていたので僕もした。
「いぇーい!盛り上がってるー?」
「「いぇーい!」」
お前が言うなスレはここですかと言われるかもしれないけど、天子さんはそこまで歌は上手くなくて、少し安心した。上手さで魅せるより、エンターテイメントで魅せる感じで、何も魅せられない僕よりは全然マシだけど。
「じゃあ次、あーしが歌おうかな」
続く菜々子さんは、倖○來未や安室○美恵、○崎あゆみ系の曲を歌った。
「菜々子上手いね~」
諒花の言う通り、菜々子さんは結構上手かった。点数も90点付近をさまよってたし。
「渡くん、次歌う?」
諒花は気を使ってくれるように、そう僕に聞いた。
「いやー僕は歌わなくていいかな」
「えぇ、なんで!?」
「いや、僕は歌下手だから歌いたくない」
「そっか...まぁ歌いたくないなら無理強いは出来ないね」
「諒花は次歌うの?」
「うん!」
「ブフッ!」
諒花が返事をした瞬間に、理子さんは飲んでいたジュースを吹き出した。
「え?中森っち!今...!」
「ふーん、、、あんた達そこまで」
そこで僕は、気づいた。
ギャル友のみんなは、僕が古賀さんじゃなくて、諒花と言ったことに反応しているのだ。
「もう、何。みんな、今から歌うから!聞いてて!」
彼女は、めちゃめちゃ照れながらそう言って、歌い始めた。
諒花が歌う曲は、洋楽が多く、発音も綺麗で今まで歌った人の中では一番うまかった。流石は、諒花だなと思った。
「諒花は日本の曲歌わないの?」
僕は聞いた。
「うーん、歌えるけど、歌って欲しい?」
「うん、聞いてみたい」
「よしじゃあ、シャミーのシング エブリイで」
「「シャミーのシング エブリイ!?」」
僕とギャル友は驚いた。シャミーの シング エブリイはとても難度の高い曲だ。
「流石諒花!シャミーのシング エブリイとはやるねえ」
理子さんはそう
みんなの注目が上がる中、イントロが流れ始め、諒花が歌い始めた。
「シング エブリイー シングエブリイ~」
おぉ上手い。上手すぎる。日本語の曲だからやっぱり上手さがわかりやすいし、この曲は聞き慣れてるから諒花どれほどの技量か分かる。
「私が~願えば、叶うー、強い瞳が全てを奪い、あなたを求める~」
諒花の歌声は、力強くありながらも、透き通るような声で、澄み渡ってもいた。
点数の方も、安定して90点代以上を出した。
「凄い上手かった。諒花」
「へへん、ありがとう!じゃあ次は、理子かな?」
「じゃあ行かせてもらうわね」
次に理子さんが歌い始めた。
静まり返り、そして、イントロが流れ始める。そのイントロはとても激しく、僕が聞いたことのあるアニメのオープニングテーマだった。
「これ、Destiny move morningのオープニングだ」
「お、渡くん知ってるの?」
「もちろん。この曲激しくて、リズムも早いし音程も難しいんだよ」
それにもかかわらず、理子さんは、速いリズムも難しい音程も苦にするどころか、気持ちよく自分の歌かのように歌う。その風貌は、大物歌手だ。まるで、理子さんは神で、この世の全てを支配するかのような、そんな威圧感のある歌いっぷり。そのような迫力のある声量と技術。歌のことは詳しくは無いが、加点の欄が埋め尽くされ、ビブラート、フォール、しゃくり、こぶしだらけだった。
「ふぅ!ざっとこんなもんよ!」
と言って、採点を見ると、99.768点を叩き出していた。
「す、凄すぎる...」
僕は思わずそう呟いた。
「おぉー!流石は理子」
「りーこ!りーこ!」
「んじゃあ、大トリと行こうよ。これまで一向に歌わずあったまってるみたいだし、理子を超えてくれるよね?中森君?」
菜々子さんは僕に期待の目を向けてそう言った。
え?菜々子さん?ちょっと、待って?
「ちょ、菜々子!渡くんは、歌が苦手で...」
そう言って諒花は庇ってくれた。
「カラオケに来てそれはないっしょ~。やっぱ歌ってなんぼだし」
しかし!菜々子さんはそれで屈しない!
「そうだよ!中森っち!」
しかも!天子さんまで何故か菜々子さんの味方に!
「ワタル!男なんだから、音痴とか気にしなくていいのよ、勇気出して歌いなさい!」
えぇ、理子さんも!?
「ちょっ、ちょっとみんな!まぁでも確かに、渡くんの歌、ウチも聞いてみたいかも...」
ちょっ、えっ、諒花まで!?
結局、菜々子さんから始まった無茶振りのせいで僕は、歌うことになった。
選曲は、今流行りのJ-POPの本格系のOfficialハゲ団rhythmの曲。
よし、やるぞ!
「僕は、何度だって、君をー助けに行く~」
『ボゲェ~ボエ~ボエェ~』←《諒花&ギャル友にはこう聞こえる》
「何、、この酷い歌...」
「うぅ頭が~っ!」
「ワタル、流石にこれは音痴すぎるわ...」
「えぇ、、、」
僕自身は気持ちよく勇気を出して歌ったのに、まさかこんなにも犠牲者を出しているなんて。ギャル友達は全員撃沈していた。
「あははっ!渡くん!良かったよ!!最高!」
「ほ、ほんと!?」
しかし、諒花だけは、笑って褒めてくれた。
「諒花!マジで言ってんの?ワタルの今の歌やばかったじゃん」
「まぁたしかにある意味やばかったかも」
「えぇ!?」
「でも、声は出てたし上手くなるよ何より面白かったからOKなんだよ」
ギャル友たちは、諒花のその言葉にひきつり笑いしていたが、諒花はお構い無しと言った感じだ。
「よし、渡くん!一緒に歌おう?」
「え」
「ウチと一緒に練習すれば上手くなるよ!」
と言って諒花と一緒にもう一度、ハゲ団の、Tomorrowを歌うことにした。
「ウチの声聞いて、音程合わせてみて」
「あぁ~」
諒花の綺麗な声が響き渡る。それを記憶にインプットして、真似る。
「あ、あぁ~」
「もうちょい上!」
「あぁぁ〜」
「そうそう!」
「え、諒花となら歌えてんじゃん」
「おお、中森っち!いい感じだよ!」
「ワタルもやれば出来るじゃんか」
「よしじゃあ、次は1人で歌ってみなよ」
またも菜々子さんは悪巧みするような顔で、無茶振りをかましてくる。
「さ、流石にそれは...」
「いいからいいから」
菜々子さんに強引に促され、またも、ハゲ団のTomorrowは流れ始め、そして、
「あぁ~」『ボェ~』
僕は歌い始め、歌いきった。
「ど、どうだった?」
歌い終わり、僕はみんなに聞いた。
気持ちよく歌ってゾーンに入ってみんなの様子を見てなかったけど、諒花以外、ギャル友全員倒れていた。
「あ、えっとー、うーん、良かったよ!」
諒花はそう言って笑った。
あっやっぱりダメっぽい。
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