第二十話 夏祭り1
夏休みはもう、残すところあと一週間になった。
古賀さんと過ごす夏もあと僅か。
ユニズニーランドに行ったり、プールに行ったり、動物園に行ったりしたけどまだまだ遊び足りない。
もっともっと、僕は古賀さんと夏休みを満喫したかった。まぁ時間は有限だから仕方ないけど。
そう思っていたら、古賀さんからRISEが来た。
『夏休みももう終わるねー』
『そうだね』
『28日にさ、夏祭りあるんだけど、行かない?』
『どこの祭り?』
『港の方の祭り。あそこの祭り一番大きいんだよ』
『お!いいね。行きたい』
『OK!じゃあ28日ね!』
古賀さんと夏祭りに行くことになった。
プールとか夏パレードとかよりも、一番夏らしい感じだ。夏祭りこそ、夏休みを飾る最高のイベントに違いなかった。
◇
「ごめん、待った?」
「い、いや今来たとこ」
いつも通り古賀さんが、時間ちょうどにやってきて、僕は30分前に着いて、それを誤魔化していた。
「どうこれ?似合う?」
古賀さんは、黒とピンクの花柄をあしらった浴衣を着ていた。
彼女の金髪と、黒い浴衣が、良いコントラストになっていて、美しかったし、凄く目立っていて、
また、髪型も水色の花の髪留めで後ろ髪をまとめ、うなじが目立つ、浴衣ヘアーになっていた。
「めっちゃ、似合う」
僕は噛み締めるようにそう言った。
「よし、それじゃあ行こ!」
古賀さんはそれに満足したように笑い、屋台が立ち並ぶ通りを指さしてそう言った。そして、僕らは手を繋ぎ、その通りへ入っていった。
◇
立ち並ぶお祭りの出店には、りんご飴やら、チョコバナナ、ベビーカステラなどのよく見かける暖簾が並んでいた。
「うわぁ、りんご飴食べたいなぁ」
「いいね。僕も買おうかな」
「うんうん、あ!あれ見て!」
古賀さんが何かを指さして、その方向を見ると、カラフルでインスタ映えするような綿菓子を売っている出店があった。
「おお、レインボーわたがし」
「これ、欲しいな!」
「買おう買おう」
このような調子で、りんご飴やベビーカステラなど色々な食べ物を買っていった。
「うーん美味しい」
綿菓子をパクパクと食べ、喜んでいる古賀さんは無邪気で可愛らしかった。
「あ、射的ある」
食べながら出店の並んだ道を歩いていると、射的を見つけた。
「おー、渡くんお得意の!やってみたら?」
「よーし」
文化祭以来の、射的。銃も違うし、勝手は違うだろうけど、ルールは変わらない。弾を放ち、的に当てるだけだ。
僕は狙いを定めて、そしてトリガーを引いた。
パンと乾いた軽い音が出て、放たれた弾は、お菓子のチョコ棒の箱に当たり、その箱が倒れた。
「はーい、お兄さんこれ景品ね」
「おぉ!渡くん!マジで百発百中じゃん?」
「いや、それほどでも」
と取り繕うも、自分でも驚いて、出来すぎだと思った。
素直に嬉しかった。
その後も、射的で無双して、古賀さんの好きなお菓子(カリカリ梅の詰め合わせなど)をゲット出来たのでよかった。
「あれ何?」
射的を終え、出店の並んだ道を歩いていると、古賀さんは何かを見つけたようだった。
「金魚すくいのこと?」
「いや、違う違う。その隣の、あれひよこ?」
「あーひよこ売りか」
金魚すくいの隣には、ひよこが売られていた。
「すごくない?初めて見たよ」
「昔は多かったみたいだね。母親から聞いた事があるんだけど、カラーひよことかひよこ釣りとかがあったみたい」
「えー!何それ初耳!」
「まぁ、色々問題になったみたいだからもう無くなったと思う」
僕と古賀さんはそう会話しながら、ひよこを見つめていた。ピヨピヨと鳴いてちょこちょこと動いている。その姿は可愛かった。
「ひよこ可愛いなぁ」
「買うの?ひよこ」
「流石に買わないかなぁ。パパとママに怒られるよ」
「まぁ、そうだよね」
「隣の金魚すくいやらない?」
「いいけど、僕は金魚飼えないよ?」
「大丈夫!パパとママも金魚くらいなら許してくれるからもし取れたらウチが飼うよ」
彼女は心強くそう言って、金魚すくいを始めることになった。
「なるべく水につけないように、、」
古賀さんが真剣な眼差しでポイを構えながら言った。どの金魚を狙うか決めているようだった。
「渡くんは、どの金魚狙い?」
「うーん、自信ないから無難に赤い小さいヤツかな」
「へ~弱気だなぁ!ウチはデメちゃんかランちゃん狙いだよ!」
「デメキンとランチュウ?流石だなぁ古賀さん」
「任せといて!」
と言って、古賀さんは、華麗な手さばきで、デメキンを
「おぉ!」
「よしっ!」
デメキンは、古賀さんのポイの上に乗り、容器へ移そうとした瞬間、暴れ、ポイは破れてしまった。
「えぇ!せっかく掬ったのに!」
「うわぁ惜しかったね」
「渡くん、ウチの分をリベンジして!」
「わ、分かった。よぉーし...金魚掬うぞ!」
僕は赤い小さな金魚に狙いを定め、なるべく水に付けないように、、素早く掬う!そして、容器へ移す。
「よしっ!」
「おぉ!すごい!」
「じゃあ次は、デメちゃんかランちゃんだね」
「えぇ!?」
さすがにデメキンとランチュウは普通の金魚とはレベルが違う。
「渡くんならいけるよ」
「やれるだけやってみるよ」
そう言って僕は、ランチュウに狙いを定める。ポイの端を利用して、掬う作戦だ。
よし、捉えた!と思った瞬間、ランチュウは、勢いよく、暴れ、ポイの網の真ん中に突進して破けてしまった。
「うわあ、ダメか」
僕は肩を落とし落胆した。
「あーあ、まじか〜惜しかったけどなぁ...」
古賀さんも同じ様子だった。
でも、、直ぐに顔を上げて言った。
「これはまたリベンジしたいよね!」
「うん。またいつかやれたらいいな」
また、来年も古賀さんと夏祭りで金魚すくいをして、今度こそは。そんな妄想をした。
◇
金魚すくいの後、僕達は、千本くじまたの名を紐引きくじを見つけた。
千本くじ(紐引きくじ)とは、何本もの紐のうち、どれかの紐を選んで引くくじだ。あたりの紐であれば、景品と繋がっている仕組みで、ハズレは何も繋がっておらず、それで当たり外れがわかる。
「やってみよ!あれ!」
「いいね!」
「おばさん、2回やります!」
古賀さんがそう言ってお金を手渡した。
「はいよ、じゃあお好きな紐引きな」
「どれにする?渡くん」
「うーん、これかな」
僕は、何本もある中から、一際何かありそうなオーラを感じる紐を選んだ。
「じゃあウチはこれ、いっせーのでで引こ」
「いっせーのー」
「で!」
「お、なにこれ、なんか紙が引っ付いてる」
「あ、ウチはおまい棒詰め合わせだ!」
「おおいいね!」
「その紙はなんなの?」
「さぁ?」
紙というよりも、何かに包まれている手紙のようなもので、それは二枚のチケットのようだった。
「あーそれね、プールの入場無料券だよ、ちょうど良かったねえ。あんたら二人恋人じゃろ?行ってらっしゃい」
「あはは、良かったです!」
「はは...」
おばちゃんの言葉に、古賀さんは元気よく答え、僕は少し照れた。
「じゃあ、次の店いこっ!」
そう言って駆け出す古賀さん。
僕もそれに続こうとした時、後ろから肩を叩かれた。
「お兄チャン、この紐持ち帰ってくんないかい?」
突然、千本くじの屋台のおばさんは僕に向けて、そう言った。
「これ捨てるとこないからお客さんに持ち帰って貰ってんだよ。悪いねえ」
おばちゃんは、悪いねえと言いながら、僕に有無を言わさず、僕の胸へ二本の紐を押し付けた。
「渡くーん?何してるのー?」
「ごめんごめん、今行くよ!」
そう言って、古賀さんの元へ向かった。祭りの本番はまだまだこれからだった。
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