第十九話 動物園
「あーあれゾウだ。デカイね」
僕達は夏休みのある日、動物園に来ていた。
「ほんとだ!おっきー!」
ゾウは頭も良くてフィジカルも強いし可愛らしさもある。ある意味最強動物だなと個人的に思う。まるで古賀さんみたいだ。
「あ、飼育員の人いるよ?」
古賀さんはそう言って、ゾウの方を見ると、何やら飼育員とゾウで色々な芸をしていた。鼻を器用に使って、りんごでキャッチボールする芸を披露していた。
「すっご」
「ゾウは賢いからね。どこのゾウかは忘れたけど、絵を描くゾウとかいたよ」
「へぇ〜」
次に、僕達は百獣の王ライオンや、トラなどのえさやりシーンを見ていたが、まさに大迫力という感じだった。
「いやー凄かったねライオンとトラ」
「かっこよかったね」
「思うんだけど、肉を生で食べて美味しいのかな?」
「ライオンやトラにとっては美味しいんじゃない?」
「あははそっか」
次に僕達は、カンガルーを見ていた。
「あ、あのカンガルーたち喧嘩してる!」
二頭のカンガルーがファイティングポーズをとって、飛び蹴りしたり、パンチしたり、掴みかかったりしていた。
「うおっ、激しっ」
「激しいね、なんか見てて面白い」
そうやって喧嘩の様子をずっと見ていると、二頭のカンガルーは、どちらも疲れたのか仲直りしたように、健闘を称えあうかのように、仲良く一緒に並列して行動していた。
「仲直りしたのかな?」
「元から喧嘩じゃなくて、じゃれあっていたんじゃない?」
「なるほどね」
古賀さんは納得した様子だった。
カンガルーを見終わった後、僕らは猿山に行った。
その行く途中で、隣空いながら歩く、古賀さんの手が当たった。
そこで既視感を覚える。そうだ、波のプールで、古賀さんと初めて手を繋いだんだっけ。
初めてじゃないんだし、勇気をだして、手を繋いでみた。
すると、あの時と同じように彼女も繋ぎ返してきた。
それにドキッとして、彼女の方を思わず見てしまうと、何事もないように彼女はいつもの通りの真っ直ぐとした目で、端正な顔立ちで、表情に変わりはなかった。
猿山では、色々な猿がキーキー騒いでたり、くつろいでいたり、喧嘩しあっていたりなど色々な猿たちの動きを見ていて面白かった。ボスザルや母ザル、子ザルなどもいた。
「ねぇみて、あのサル、渡くんに似てない?」
「え?あのサルが?」
古賀さんがそう言って、指を指すサルを見ると、そのサルは、ひとり孤立していて、確かに僕っぽかった。
「似てない?ほらあのクールそうに見えて少し、ポンコツなところ」
「あはは...バカにしてる?」
「え?してないしてない!」
バカにしてない?さすがに。
そのサルは一人で佇んで
「じゃあ、古賀さんはあのサルかな」
僕はそう言って、サル山の頂点に立つサルを指さした。
「えぇー!あんな怖いサルがウチ?」
「だって、あのサルいちばん強そうだし」
「強そうだけど、絶対あのサルオスでしょ!」
「いや、あのサルおっぱいついてるからメスだよ」
「あっほんとだ!しかもあれ子ザルじゃない?」
そのボスザルの元へ、2匹の子ザル達は、駆け寄っていった。
「あんな、ボスオーラムンムンなのに、母親だったなんて」
僕は驚いてそう言った。
「母は強し。だなあ」
古賀さんもそう呟いた。
子ザルがその母ボスザルの元へ駆け寄ったあと、もう一匹のサルがボスザルの元へ駆け寄った。そのサルは、僕に似ているあのサルだった。
「えっ、あのサル、夫婦なのか?」
「渡くんとウチ夫婦じゃん!」
「えぇっ!」
思わず驚いた声を上げてしまった。
「ん?えっあのサルたちがね?」
「う、うん」
いや、まぁ頭では理解していたけどね。
ただ、急に夫婦とか言われるとびっくりしてしまう。
「でも、なんかああいう夫婦が一番理想だよね」
古賀さんはどこか遠い目でそう言う。
「ああいうって?」
「なんか、一件、全然違う二匹で合わなそうだけど、だからこそ、二匹の良い所悪い所を補い合う関係みたいな」
「なるほど」
確かにあの二匹のサルの夫婦は、真逆の性格に見えて、ちゃんと釣り合っているように見えた。
「僕もああいう風になりたいな」
「ふふっ...もうなってるかもなんてね」
「え?」
何か彼女が呟いたとき、風が強く吹いて聞こえなかった。
「なんでもない」
何かを彼女は誤魔化した。それについて聞いても、古賀さんはとぼけるばかりで何も答えなかった。何か大事なことを聞き逃したんじゃ、、と思う僕だった。
◇
僕達は、サル山を後にして、動物のふれあい広場なるところに来ていた。
ここは動物を直接触れる広場で、子供連れが多い。
羊やアヒル、モルモットを触れる中、僕達は、モルモットを触ることにした。
「この中から好きなコを触っていいんだよね」
「うん、僕はこのコにしようかな」
と言って僕は白黒のモルモットを抱えた。
「じゃあウチはこのコ、あっ!」
古賀さんが抱えようとしたモルモットは逃げてしまった。
「臆病なコなのかな。じゃあ、違うコにしよっかな」
古賀さんは、そう言って別の茶色のモルモットをつかみあげた。
「おっとと、ああ暴れないで」
古賀さんのモルモットは、暴れて古賀さんの手から逃れようとしていた。
「怖がってるのかな?」
「なんでぇ、ウチは何も怖くないよ~」
と言って古賀さんは撫ぜるけど、やはり、モルモットは怯えたような感じだった。
「ここ撫でるといいよ?」
僕は、安心させる撫で方を古賀さんに教えた。どこかで読んだ動物の扱い方に関する本に書いてあった。
「なるほど。すごい渡くんのコ良い子にしてる」
「うん。安心させるように声をかければ落ち着くと思うよ」
「よしよーし」
動物も意外と敏感だからな。古賀さんの鋭い視線とかを感じとって本能で恐怖心を持っているのかもしれない。
普通に古賀さんいい人なのに。
でもそれが伝わったようか、僕のヨシヨシの方法が良かったのかモルモットは大人しくなった。
「お、すごーい!このあやしかたで大人しくなった。いい子いい子~」
「良かった」
「ウチ、結構犬とか飼ってても、避けられたり吠えられたりすること多かったからな~」
「そうなんだ。動物たち怖がってるのかな」
「もう、渡くんったら、また冗談を」
冗談じゃないんだけどな。まあいいか。
だって古賀さんはこんなにも満面の笑みで嬉しそうなんだから。
「ありがとう、渡くん。渡くんのおかげだよ。めっちゃ嬉しい」
「いえいえどういたしまして」
◇
閉園時間が近づき、人々が、動物園の門へと帰ろうとする中、僕達も流れに乗って門へ向かっていた。
「ワンワンッ!!」
その時、他のお客さんが連れた犬が、古賀さん目掛けて吠えた。
「ひぇぇっ!」
「おおっ」
それに驚く僕ら。
「すみません、ウチの子が!コラ!ポチ!ダメでしょ!」
古賀さんはやっぱり、動物に嫌われてしまうのだろうか。
やはり古賀さんは特殊なオーラを放っていて、犬が古賀さんを嫌っているというよりかは怖がっている感じだった。
「ウチ、やっぱり動物に嫌われるのかな、、、」
そう、本気で落ち込んだトーンで言う。そんな彼女を僕は励ましたくなった。
「そんな事ないよ。確かに古賀さんは、オーラ放ってるから怖がられてるかもしれないけど、あの時のモルモットは完全に懐いてたし、絶対にもっと接したら好かれるタイプだよ」
「ほんとに?」
「うん。絶対!」
「あ、ありがとう」
古賀さんは髪をいじりながら、そう言った。
「いや、全然」
古賀さんの素直な感謝に、僕は照れた。
それを悟られたくなくて、素っ気ないようにそう答えたが、ニヤつきを隠せてはいなかったかもしれない。
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