第十三話 コーディネートはこーでーねーと

『突然だけど!渡くん!ウチ好みの格好やってみない?』


ある休日の朝、古賀さんからRISEが届いた。


『えぇ、急に何!?』


『渡くんをもっともっと、オシャレにしたいんだよ!!!』


『だから急に何事!?』


『とりあえず服屋へGO!』


といった流れで、僕は、古賀さんに色々な服屋が立ち並ぶ、大盛駅に呼び出された。


「やあやあ、お待たせ渡くん!」


「突然でびっくりしたよ」


「ごめんごめん。ウチやりたい事結構突発的なこと多いから」


と舌を出して手を顔の前で合わせられて謝られる。古賀さんにこうされたら、許すしかない。別に、僕は休日ずっと暇なんだし。


「じゃあ気を取り直して、早速行こっかー!」


僕達はオシャレな服屋を巡ることになった。


「取り敢えずウチがコーディネートしてあげるから、渡くんはちょいと待ってて」


「うん、分かった」


服屋に入った途端に古賀さんはそう言って、店内をあちこち回って服を吟味し始めたので、僕は試着室前で待つことにした。


そして、数十分後、古賀さんは服を手にいっぱい抱えて僕の元へ来た。


「と、とりあえずこれ着て!」


「これ全部!?おぉ、多いなぁ」


「ウチが選んだやつだから、どれも気に入るはずだから!」


「わ、わかったよ。じゃあまずこれから」


手に取ったのは、えぇと、何だこの服。


ファスナーポケットがいっぱい着いたジャケットとジーンズだった。


まあいいや、取り敢えず、着てみよう。


そう思って僕は、テキトーに母親が買ってきた服を脱ぎ、黒いTシャツを着て、先程のジャケットとジーンズを着た。


「おぉ~」

試着室から出ると、試着室から出ると古賀さんからいい感じの歓声が上がった。


「これどんなコーデなの?」


「ズバリ!ミリタリーコーデ!戦場でもオシャレなかっこよさ!」


「ぼ、僕、戦場に行くの?」


「いや、行かない。けど行ったら尚更かっこいい」


かっこいいか。僕は少し妄想をした。


僕は、アメリカの治安の悪い地域に住んでいる一人の孤高の警察官。そんな僕は、普段から警戒を怠らず、至る所で起きる事件に自ら巻き込まれに行く。ある事件で悪い奴らに人質に取られているのが古賀さんで、僕は見事な銃さばきで、悪い奴らを倒し、人質である古賀さんを助けた僕に惚れるといった感じだ。


「渡くん?おーい渡くーん」


「え?あ、はいはい」


いかんいかんついつい別世界へ行くとこだった。


「次着るの、この服ね」


「え、この服は、さすがに」


「え、ダメかな?」


「い、いや、一応着るよ」


次僕が手にした服は、何が書かれているか全く分からない筆記体の英字が沢山書かれた英字Tシャツと結構ピチピチのレザーパンツ。


流石にこれは、と思ったが、古賀さんの言うことだ。僕は極わずかな可能性に賭けてその服を着た。


「ど、どうかな?」


「おぉー似合ってる似合ってる!」


「ほんとぉ?」


鏡で見てわかる漂う厨二病中学生感。この、よく分からない厨二心擽くすぐる筆記体の英字が、それを醸し出していた。ここにドクロのネックレスやらなんやらを合わせたらもっと厨二力がアップしそうだなんて考える。


まずいまずい。この流れは、あの僕の黒歴史を思い出してしまう。


今でもまだ捨てきれていない、部屋の机の二番の引き出しにある漆黒のノートの存在を。


ほ、本当に古賀さんのセンスはいいのだろうか。それを僕は疑い始めた。


「じゃ、次これ着てみて!」


次僕が手渡された服は、アメリカの若い金持ち著名人、例えば若いイカした歌手とかハリウッド俳優がオフに着ていそうなオシャレでフレッシュな服だった。


白いTシャツに黒いジャケット青いデニムを着る。なんともシンプルかつかっこいい。僕に似合うかと言われたら分からないけど。


「ど、どうかな?」


試着室から出て、古賀さんにその姿を見せると、古賀さんはグッと拳を握った。


「いいね!最高だよ!!」


古賀さんは食い気味にそう言う。


「あ、ありがとう」


素直な反応とその率直な言葉が、僕の心を貫いて、僕は照れざるおえなかった。


「そこに、ネックレスとサングラスと、オシャレなキャップを被ればマジでニューヨーク歩けるよ」


おだてるような古賀さんの言葉に僕は、またも妄想をしてしまう。


次の妄想はこんなもんだ。


僕は、最近ハリウッドデビューしたばかりの、若手俳優でオフにニューヨークのブロードウェイを歩く、そこで何人もの俳優スカウトにスカウトされそれを断りながら歩いていく。多くのスカウトを連れ、歩いた先には、今全く僕と同じ状況の人間と出くわす。それがゴージャスな服装を着たハリウッドスターの古賀さんだ。そして僕達は、こうセリフを交わす。

『凄いね、君、ハリウッド女優?』

『それは貴方もでしょ?』

『まぁ。君の方がスカウト多いみたいだけど』

『あなたも直ぐにこうなるわ』

『それにしても同じ状況で出会えるなんてね』

『本当に、まるで運命ね』

うん。映画のワンシーンみたいでいいなぁ。こういうのはちょっと憧れる。


「おーい、お~い。渡くーん?渡くん?」


「あ、はいはい。ごめんごめん」


あーあーあー、また別のパラレルワールドへ行こうとしていた。危ない危ない。


「最後に、この服着て!」


「分かった」


古賀さんが最後に渡してきた服は、独特な模様や、左右非対称のマーク、派手で目立つコントラストの色合いの服であり、本当にただ、一周まわってオシャレなのかもしれない。


上の服は、右半身と左半身で色合いと模様が全く違い、コントラストになっていて、下の服は、右足と、左足非対称のラインが斜めに入っている。


着てみた感想としては、かなり独特でオシャレなのかやはり分からない。僕の美的センスでは到底理解に及ばない。


「おぉー~!!!それが一番似合ってる!」


しかし、古賀さんに見せると一番の反応を見せた。


そこで僕はまたもや、妄想する。


この服を着た僕は、デザイナーで、同社で働く先輩デザイナーの古賀さんと、、


「渡くん!!!」


「えっ!?あっはい!」


「それ買おう!!」


「えぇ!?」


半ば強引に、レジに行かされ、僕はそれを買う事になった


「上下合わせて、4万円になります」


「ちょっえっ...?」


高、高くない?高すぎない?


「渡くん、、」


「なに、、古賀さん?」


「大丈夫!絶対似合うから!」


「ち、違う!そ、そういう問題じゃなーいっ!」


僕は叫んだが、もう後戻りは出来なかった。


僕の財布はHP0になり、戦闘不能になった。


その日から僕の無一文生活は幕を開けたのだった⎯⎯⎯.~完~←※終わりません。【次回、無一文生活編、開始!】←※始まりません。


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