第十一話 アフタヌーンティー

南高校の文化祭が無事終わり、普通の学校生活が戻ってきていた。


キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り、体育の時間が始まった。


「今日は雨だから、体育館で卓球だ。さあペアを作れ!」


体育教師がそう大声で言った。はぁ、また僕は一人溢れて、体育教師とラリーか。そう思った時、一人の男子生徒が声をかけてきた。


「おい、中森!俺と卓球やろうぜ」

と声をかけてきたのは、文化祭で古賀さんに怒られていた陽キャ生徒の一人だった。


ん?いつもと違う流れだぞ?


「あぁ、うんいいよ」


まぁ、いいか。卓球なら多分クラスで一番上手い自信はある。だから陽キャにバカにされる心配は無いだろう。教師とずっとやってたから僕の卓球の実力は知らずに舐めてきたのかもしれないが。僕は卓球と水泳ならある程度自信はあるのだ。他のスポーツは壊滅的だけど。


「なぁなぁ、文化祭に来ていたギャル、あれ、お前の知り合い?」


手始めに、そう呟いて陽キャはサーブを打ってくる。なるほどこの陽キャは古賀さん目当てで話しかけてきたのか。


「さ、さぁ、誰のこと?」


僕は、そう答えてレシーブを返した。


「とぼけても無駄だぞ。渡ってお前の名前だろ?ギャルがそう呼んでたんだよ」


「はぁ、まぁ知り合いだよ」


「やっぱりか!おい、俺に紹介してくれよ」


「ごめんだけど、、それは無理かな」


「なんでだよ!」


「なんでって、古賀さんは、僕の彼女だから」


僕は、そう言って、強烈なスマッシュを打った。


「うおっ!」


陽キャはそのスマッシュに反応出来ず、ピンポン玉は、胸に当たって、弾いていた。陽キャは驚いた顔をして、その後古賀さんとどう付き合ったのかとか古賀さんはどういう人なのかとか色々なことを聞いてきてめんどくさかった。



掃除の時間が来た。ササッとほうきで掃いていって、ゴミがまとまり、あとはちりとりで掃くだけだった。


僕はいつも通りに、掃除道具入れから、ちりとりを取り出そうとすると、もうそこにはちりとりが無かった。


「中森、えーっと、ちりとり俺やっとくから、もう帰ってていいぞ」

と陽キャが後ろから声をかけてきた。振り返ると今日の体育の卓球の相手だった。

「え?でも」


「いいから早く帰れよ」


「じゃ、じゃあ、帰るけどいいの?」


「いいつってんだろ。お前は早く帰って彼女のとこ行ってやれよ」


「あ、う、うん...」


驚いた。陽キャがこんなこと言うなんて。


「どうしたよ?俺の顔、鳩が豆鉄砲食らったように見つめて」


「いや、やけに優しいし、古賀さんのこと素直に諦めるんだなって」


「お前の話とか、文化祭でのお前らを見て、俺の入る余地はねぇなって思ったんだよ。悔しいけど、お前ら、傍から見て、相当仲良く見えたぜ」


「そ、そんなに!?」


「あんな美人で性格も良さそうな女なかなかいないからな。大切にしてやれよ」


「えっと、うん。それじゃあ、ちりとり宜しく」


そう言って僕は、初めてちりとりをせず、下校するのだった。



「中森くーん、今日は約束したあの秘密の場所、行く予定だよね!」


帰り道、僕と古賀さんは今日も下校デートすることになっていた。行く場所は、文化祭の射的で貰った謎の割引券が使える店だ。


「うん。でも不安だなぁ」


「不安?どうして?歯医者とかに行くわけじゃないんだよ?」


そう言って彼女は軽く笑うが、僕にとっては歯医者より苦痛かもしれないのだ。嫌悪感が潜在意識に埋め込まれている。あの秘密の場所が僕の想像した通りの場所なら雰囲気が合わないのだ。


「ここ潜るのも久しぶりだなぁ」


「僕たちが付き合った時以来だね」


緑のフェンスの穴を潜り、茂みを抜けた先にある、神秘的な世界。そこには、僕がたまたま発見したあの隠れ家カフェがある。文化祭で貰った割引券は、このカフェのものだった。


カランコロン。


隠れ家カフェのドアを開けると、何処どこか聞き覚えのある心地の良いドアベルの音が鳴る。隠れ家カフェに入ると、まずレジとケーキがならんだショーケースが出迎え、奥にカウンターやテーブル席があった。レトロでオシャレな内装であり、置物や時計、照明や木のテーブルなどに、ノスタルジックなものを感じた。やはりこういうオシャレな雰囲気の場所は苦手だなと僕は思った。


より一層、そんな雰囲気を強めているのは、カウンターにいるマスターかもしれない。白ひげを蓄え、タキシードがバッチリ決まっている。彼はそこにいるだけで、独特なオーラを放っていた。


「お客様、2名様ですか?」


レジから、女性店員が出てきてそう言った。


「はいそうです」


「ではこちらへどうぞ」


僕達は女性店員に案内され、テーブル席に座った。


「なんか凄いねここ!タイムスリップした感じ」


「昭和のレトロな喫茶店って感じがするよね。昭和の時代、知らないけど」


テーブルに置かれたメニューを見ると、結構お高いケーキが紹介されていた。一番安いのはショートケーキでそれでも1000円位する。他のケーキはフルーツが盛りだくさんだったり、様々な創作がなされた手の込んだケーキだったりしてショートケーキ以上に値段が高いものばかりだった。飲み物もそこそこ高い。少なくとも高校生にとっては破格の高さだ。


「ぼ、僕は、ショートケーキと紅茶でいいかな、古賀さんは?」


「う、ウチも同じので、いいかな。流石に」


僕達は、メニューの値段を見て、お互いに少し戸惑っていた。そして、店員さんを呼び、同じショートケーキと紅茶を頼んだ。


「お待たせ致しました、こちら白苺のショートケーキと紅茶でございます」


「おぉ~これはインスタ映えだあ!」


「うわぁ凄いね」


頼んで出てきた白苺のショートケーキはその名の通りに、白いイチゴと赤いイチゴが交互に乗った色のコントラストが美しい綺麗な装飾品のようなケーキだった。


古賀さんはまず、その白いイチゴを一口で食べて美味しっ!と言った。

僕は、まず、紅茶を飲んだ。香りが良く、程よいハーブが効いていた。


そして僕達はショートケーキに手をつけて食べた。


「お、美味しい!」


「うん。美味い」


「生クリームの甘さもちょうど良くていちごの酸味と合うねー!」


「うん。あと、紅茶とも合うね」


「そうだね~流石あれだけ値段が張るだけあるね」


古賀さんはうんうんと頷きながらそう言った。


「僕、アフタヌーンティー嫌いだったけど、悪くないかもって思えたよ」


「なんでアフタヌーンティー嫌いだったの?」


「キラキラしてて、僕とは似つかわないで、抵抗があって。あとやってる人がオシャレ気取ってると言うか。まあ実際オシャレなのかもだけど...ごめん。結局、これを楽しめる人に嫉妬してただけなのかも」


嫉妬もあるかもしれないし、ひねくれすぎた考えかもしれない。


「うーん、話を聞く限りだと、アフタヌーンティーっていう言葉とかそれをやってる人が嫌いなだけで、こうやって紅茶を飲みながらケーキを食べる行為には嫌悪感は無いんじゃない?」


「まぁ、そうなのかな」


「どう?今は。ウチとアフタヌーンティーしてて楽しい?それとも楽しくない?」


「いや、今は楽しいかな」


古賀さんと話しながら美味しいものを食べる。楽しくないわけが無い。それに古賀さんとならこういう場でも何とか浮かなくて済む。


「それなら、君もアフタヌーンティーを楽しめる人になれたってことだよ!」


「そ、そうかなぁ。正直一人で入るのはキツいと思う」


「ならウチと一緒に行って克服してこうよ。一応、その彼女なんだし。何時でも付き合ってあげるよ?」


「ありがとう、古賀さん」


僕は、彼女の瞳に引き寄せられて、彼女の強く輝いた目を見つめながらそう言った。


やっぱり、彼女は、いつだって前向きに、僕を励ましてくれる。最強の彼女だ。

その無類の前向きさは本当に太陽みたいに明るくて、僕の陰った心をも、明るく照らして救ってくれる。


僕はそんな、無類の明るさの象徴である、彼女の輝く目を見ると毎回こう思うのだ。


彼女のように、前向きになりたいと。

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