第5話
「順を追いましょう」
13階に着くと、リンっとベルが鳴った。
キイっと柵を押し開けて先に降りたルーシーは、辺りを気にして靴音を忍ばせる。廊下の照明はどれも白く、靄がかかったように陰気だが、扉はどれも彩りが良くて異様さが際立つ。
傘と同じ藤色の扉の前でルーシーは立ち止まり、ダブルのジャケットの内ポケットから鍵を出すと、腰を折って鍵穴に刺す。
「
扉が開き中に促される。
先に俺が入ると、ルーシーは注意深く廊下の端から端へと視線を走らせ、静かに扉を閉めた。
「溌剌とした、愛らしいお嬢さんでしたね。
あの時、香港マフィアの真似事をしている子会社が、繁華街で銃を使いました。お二人はその流れ弾が当たったのです。
真矢子さんは大通りで胸に3発当たりました」
「ぁ」
項垂れる背中に優しく手が触れる。
「大丈夫、死ぬまでは恐怖であっても、死にゆく恐怖はありません。死は、誰しもがいずれいく道です」
傘を立て、革靴を脱いだルーシーは部屋の奥へ行く。俺も片一方しかない靴を脱ぎ、汚れた靴下も脱いで中に突っ込んだ。
「真谷子さんの占い内容は、恋愛についてで詳細は言えません。自分の悩みが解消するか?を問われたので、私は今日で全て解消する旨を伝えました。
死相が出ていたので言うまでもないです」
確かに、死んで仕舞えば悩みようがない。
「占いって死期も分かるものなの?」
「分かります」
しんとした答えに身震いがでる。
室内は狭く、全てが長方形の間取りで、大きなルーシーには不釣り合いだった。
土竜のようにごそごそと進み、突き当たりのダイニングの手前で脱いだジャケットを壁にかけ、白いシャツになる。
簡素だが生活感のあるキッチンと、二人用のダイニングセットがあり、椅子をすすめてくれた。
「気にせず寛いでください」
白いカッターの袖をまくって手袋をとり、ケトルで湯を沸かす。
「お二人とも死相が出ておりました。なのでいっそ楽しんでもらおうとお金を渡しました。美味しかったでしょう?あの店のソフトシェルクラブ」
洋風の装いのルーシーにこのアジアンな場所は不釣り合いすぎる。それに、全てのサイズが合っていない。
ここは本当に彼の家なのかすら怪しい。
でも、俺には今、この男しか頼るものがいない。
「じゃあ何で俺は生きてるの?」
白い肌には血管が青く浮き、体温はあるから生きてはいるが、魔物のように綺麗な男。
「周さんはね、死を誤魔化しているんです」
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