第2話
「あれ?もう10分?」
ポケットの3万円を見せ、とりあえず行こう?と顎をしゃくる。
「え?お金?」
狭い通路を抜けて騒がしい大通りに出ると、俺達は歩調を緩めた。一部始終を話すと「どうゆうこと?」と真谷子の眉間に皺が入る。
「わかんない・・・」
「勿体無いわ!なかなか無いチャンスよ?!・・・ねぇ、戻ろう」
腕を掴まれ戻ったが、テントはもう無い。
「うそ、早すぎない?」
「なんか、関わらない方が良いかもしれない」
「私は普通に占ってもらったし、
「わかんないけど、とりあえず、忘れよう?それに気持ち悪いしこの金も使ってしまいたい」
唇を尖らせ文句の止まらない真谷子を引っ張りながら、俺は貰った名刺の中華飯店に入った。
席に着くと真谷子も少し落ち着き、俺達は言われた通り一番高い蟹のコース料理と、真谷子には礼も兼ねて店で一番高い酒を頼んだ。
きっちり3万円を使い切り、少し足が出た分は俺が払って、日付が変わる前に店を出る。
『上手くいかない日、忠告には耳を傾けて』
今朝の占いは当たっている。項垂れて電車に乗る気力もない。
「真谷子、タクシーで帰ろう」
飲み慣れない酒に足元をふらつかせる真谷子を支え、タクシーをつかまえようと大通りに出た。
流しのタクシーを探していると、突然背後のビルの上からガラスが割れる音がし、身を竦めた。
すぐにパラパラと、頭に何か降りかかる。
「なに?雨かしら?」
降ってきたモノを確かめようと俺は足元に視線を落とし、同時にビルを見上げた真谷子が「ひぃッ!」と声をあげた。
「ちょ、ヤバイ・・・ヤバイヤバイッて!」
みるみるうちに、自分で自分の両腕を掴んで、胸の前で組むと身を強張らせる。
「え?何?」
「に、逃げよう・・・」
「は?」
「いいからッ!早く!」
真谷子は辺りを見渡し、俺の腕を掴むと、テントがあった隙間を目掛けて走り出した。数人の通行人が異変に気付き早足になり、徐々にビルの上からは派手に物が壊れる音と罵声が混ざって聞こえだした。
「お願い走って!」
パンッツ!!!
真谷子の声に混ざって発砲音が響き、俺達は咄嗟に頭を抱えてしゃがんだ。
慌てて混乱した人が大通りを逃げ惑い、そこに、ビルから飛び出した数人の男が混ざって発砲した。
今度は俺が真谷子の腕を掴んで立ち上がる。
響く銃声に気を取られぶつかる人を必死に押し退けて、真谷子を引っ張りながら、やっとの思いで隙間に逃げ込んだ。
狭い通路をずるずると歩き、テントがあった辺りで止まると息を整える。
酒はすっかり抜けていた。
「真谷子、ここでしばらく・・・」
返事がない。
「なぁ?・・・ッ!!」
壁と俺の間に挟まって、なんとか立っている状態の真谷子は俯いたままガクガクと震えていた。その振動で口からブッ、ブブッッと泡を喰った血が吹き出す。
ブレザーの胸元がじっとりと黒い。
視線を落とすと、パンプスが脱げて裸足になった足元の黒い影が、どんどんその面積を広げていく。
血だ。
「おぇぇ・・・ぅッ、うお、ぉええ・・・!」
堪らずさっき食ったものを吐きかけて、なんとか飲み込み、真谷子を避けて大通りに逃げようとした。恐怖で顎はガクガクと震え、激しい鼓動の血の巡る音が耳中いっぱいになっていく。
「!」
大通りの騒ぎは激しさを増し、逃げ道を探せず慌ててテントの側まで後ずさった。
突然、隙間に男が逃げ込んできた、派手なシャツをはだけさせ、異国の言葉で大通りに喚いた後、俺に「助けて」と言いながらにじり寄る。
「・・・もう無理、なにこれ!!」
頭を抱えて耳を塞いだ。その時
シュパァン・・・っ!!
視界が一気に暗転し、キーーーンと耳が痛んだ。
眉間が熱い。
意外と痛みはなく衝撃と、熱さ。そして臭い。
そっと手で触れると血は出ていないが、人差し指の腹がぽこっとした穴に埋まる。
俺は眉間を銃で撃ち抜かれている。
俺は不意に理解した。
あの占い師がなぜ途中で占いをやめたのか?
先を知る必要がなかったのか。
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