第5話:弟
ねぇちゃんが自殺未遂をした。
母さんからその報告を受けたのは、僕が普段どおり部活から帰ってきた夜のことだった。
ねぇさんの部屋の方で、大きな音がして様子を見に言ったら、首をつって意識の無いねぇさんを発見したそうだ。
世間一般で言う、明るい人という印象はない人だったけれど、人として姉としてはとても出来た人だったと思っていた。
辛いことや自分の苦手なこと、結果のでないことでも取り敢えずやりきる。周りを思いやってくれ、僕が悩んでいるときなんか相談を受けてくれるような人だった。とてもじゃないけど、自殺なんて考えるとは思えなかった。
入院するための衣服などを持っていって、疲弊して帰ってきた母さんは、
「あの子が何に悩んでるのかもわからなかった。死ぬまで追い詰めてしまったのだとしたなら、申し訳ないことをした。」
そう言って、リビングで頭を抱えていき消沈していた。
父さんも仕事を切り上げて急いで戻ってきた。ねぇさんの容態が落ち着いていることを知ると、ほっとしたのかその場に崩れ落ちるかのように座り込んでいた。
何時だったか、ねぇさんが自分は才能がないと弱音を吐いていたのを思い出した。諦めず投げ出さないねぇさんにしては珍しいと思って話を聞いたのを覚えている。自分に向いてないと思うものはすぐに投げ出してしまう僕にはかける言葉がなかったが。
次の日、僕は部活を休んでねぇさんの入院している病院に顔を出した。穏やかにも無表情にも見えるどっち付かずな顔でねぇさんは寝ていた。
目を覚まさない方が幸せなのだろうか。このまま、死ぬまで死んだと勘違いして眠っている方が、ねぇちゃんにとっては。
頭に浮かんできたそんな、演技でもない言葉を忘れるためとでも言うように、僕はねぇちゃんに一言
「早く起きてね。」
と呼び掛けるのだった。
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