第6話:不平等2
意識を取り戻したとき、一番最初に私を襲ったのは、安堵や安心などではなく無理だったという現実に対する焦燥感だった。
中途半端に死ぬこともできず、病室に横たわってる自分の状況にため息が出る。身じろぎたら手になにか当たった感触があることに気がついた。
目を向けると、弟がベッド脇で手を握って眠ってしまっているのが見えた。いつからこうしていてくれたのか、お互いの手は少し汗ばんでいるようだった。
しばらく眺めていると、目を覚ましたようで軽い唸り声をあげて目を開いた。
「ねぇさん。目を覚ましたんだ。もう目覚めないかもしれないって言われてたから。」
そう、軽い笑顔を浮かべて私に言う。続けて、
「今回、どんな理由があって自殺なんていう結論に至ったのか。それだけは聞かせてほしい。色々あるけれど、それは後回しにしよう・・・。」
どう話せば良いだろうか。自分の不甲斐なさに失望したとでも言えば良いのだろうか。あれだけうだうだ悩んでいたというのに、なんともちっぽけな理由だ。当事者からすればそんなの関係ないわけだが。
「不甲斐なかった。努力と言う名の報われない無駄な時間を過ごして、両親に負担をかけるのも。この先成人したあとも、こんなことになるんじゃないかと思うと生きていようなんて気にはなれなかった。」
話を聞いて弟は少し眉にシワを寄せた。
「言い分はわからなくもない。うまくいかない時、人ってのは逃げる手段の一つとして自殺も含めることもある。ねぇさんみたいに誰にも相談しないタイプの人は特にそうだ。ある意味それが一つの正解になり得ること自体は否定はしないよ?でも、それは人生で一度しか使えない最終手段なんだよ。死に物狂いで誰かにすがり付いて生き汚く這いずり回って、それでもどうしようもなかった時に考えれば良いんだよ。」
握っていた手の力を少し強めて、弟は続ける。
「僕はねぇさんみたいに、苦手なこととかに向かう努力をしないからその苦しみを理解できないと思う。だからこそ、ねぇさんのことを僕は尊敬している。でも、うまくいかない時に頭をかかえて逃げ出したいなんて一度も思わないほど能天気な人生を歩んできたとは、思ってないよ。ほら僕たち、一つしか違わないしさ。」
母さんたちは、僕がなんでも出来ると思ってるみたいだから秘密にしておいてね。そう言って弟は人差し指を口許に当てた。
「うまくいかない時は、僕に相談してよ。案外ねぇさんに出来ることは僕に出来なくて、僕に出来ることはねぇさんには出来なかったりするみたいだしさ。今回みたいな手を使うのは、それからで良いんじゃないかな?」
理想論だ。聞いてるだけで分かる。弟もきっとそれがわかっていて、言っているんだろう。理想がうまく行くことなんてほとんどない。人に相談できずにいた私が、今日から急に弟に悩みを打ち明けるなんてことしないだろう。まぁ、どうせ捨てようとした命だ。少し位延びたところで何ら変わりはしないだろう。いまは少しだけ、その理想と言うぬるま湯に浸かろうと思う。私が首を少し動かしたのを見て、肯定と受け取ったのだろう。弟は満面の笑みで、
「よし、それじゃあこれから母さんは達がくるからお説教だよ。最愛の子供がこんなことになってるんだから、それはそれは問い詰められると思うけれど、まぁ、そこは頑張ってね。」
そんな死刑宣告にも似たなにかを言ってくるのだった。・・・今からはいれる保険はないかしら。
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