27.没落令嬢、魔女を顕す

 庭園での騒乱の後、エルザはシャルフの寝室まで連れてこられた。


「フィンに食事を用意するように伝えてある。牢に向かう前に指示したからもうすぐ持ってくるはずだ」


 そのまま無理矢理ベッドに座らされ、膝の上に毛布を投げられる。


「君の荷物はフィンが預かっているはずだ。衣類は改めて持ってこさせよう。それまではそれにでも包まっておいてくれ」

「……あの、シャルフ様、これは一体……」


 グラオ地方から帰ってきているし、牢に向かう前に指示しておいただの、フィンが荷物を預かっているだの……。一体どういうことなのか、困惑のあまり動けずにいると、シャルフが目の前に膝をつく。


「え……」

「手錠を外そう」

「あ……、そう、でしたね……」


 この5日間ですっかり腕に馴染んでしまって外すという発想がなくなってしまっていた。しかし鍵はないのではと訝しむ前にシャルフが鍵を取り出す。どこまでも隙のない王子だ。

 ゴトリ、ゴトリと手錠が外され、そろりと手首を撫でる。鎖で少し肌が擦れ、赤くなっていた。


「ありがとうございました、シャルフ様――」


 その言葉を言い切るより先に、外套ごと抱きしめられた。


「……え? あの、え……?」


 困惑を声にしても、シャルフが口を開く様子はない。ただじっとエルザの体を抱きしめているだけだ。

 エルザは間抜けにパクパク口を開閉し、遅れて少し顔を赤くしながらその背中に手を回しそうになって――シャルフの背中越しに、温かい目を向けているクローネに気が付く。


「シャルフ様! その、これは一体どういうことなのか説明してもらわないと!」


 ぐいと無理矢理その体を引きはがすと露骨に不機嫌そうな顔をされた。どれほど鮮やかな剣技を見せようと子供っぽさは健在だ。


「これは、とは。どれのことだ?」


 出立前と同じくらいの機嫌の悪さだ……。特定のなにかを差して“これ”と言ったわけではないエルザは、何から聞こうかと悩みながらシャルフの代わりに毛布ごと体を抱きしめ縮こまった。

 そもそも、剣の実力だって隠していたどころの話ではない。エルザを背に守りながら数十人いた兵の半数を斬り伏せ、しかし誰も殺さずに済ませた。さすが“征服されざる者”という最強の祝福の持ち主、なんて感心する余裕などない、その鬼神のごとき強さには恐れを通り越して呆然とするしかなかった。

 そんな王子が不機嫌さを露わにしていて畏縮せずにいられるか、否。しかし黙っていて機嫌がよくなるほどこの王子は単純でもない。


「……グラオ地方は、どうしたのよ」

「残党なら一瞬で処理したが」

「……遠いじゃないのって話よ」

「君が投獄されたとフィンから早馬がきたため急ぎ帰還した。茶会まではフィンも見張れなかったらしい、すまないな」

「それは全く……」


 おそらくフィンは、クローネがいるから大丈夫と軽信した部分もあったのだろう。実際、他の王子妃とのお茶会にフィンが目を光らせることなど不可能だ。


「フィン様もおひとりだと限界があるし……あの、それより……婚約者様のことは非常に残念で……」


 もしかしてその不機嫌さは哀しみを隠すためではないだろうか。おそるおそる口にしたが、シャルフは表情を変えず「ああ、それか」などと投げやりな返事をした。


「道中で襲われたが、王都へ来ている最中だ。明日には着く」

「え……?」


 死んだわけでもなければ、乱暴されたわけでもない……? 目を丸くすると「アメティスト軍務卿補佐からそう聞いたか?」と言われ、頷く。


「まあ、分かってはいたことだがアメティスト軍務卿補佐の差し金だったな。君が証人になるとも考えずペラペラ話すところが小物なんだ――と言いたいところだが、今の君の発言には何の信用性もないからな」


 よかった――そう感じるあまり後半が耳に入ってこなかった。そんなエルザの様子にシャルフは眉を吊り上げる。


「なんだ、君が何をそう安心する」


 何をそう安心するのか、だって? 心外な物言いにエルザのほうが眉を吊り上げてしまった。


「私のことを血も涙もない魔女だとでも思ってるの? 安心するに決まってるわよ、貴方の大事な婚約者が生きてて、ちゃんと王都に向かってるんだから。……ほら、そうじゃなきゃ私が契約妃をした意味がないし」


 いや、さすがにそこまで思い入れるのは不自然だっただろうか? 慌てて付け加えたが、その眉間の皺は深くなる一方だった。似たようなことが出立前にもあったが、例によってシャルフの本心は分からない。


「あと――そうだ、私、ここにいていいの? 明日朝処刑される身なのにこんなところにいるなんて」

「君の投獄はアメティスト軍務卿補佐が独断でしたことで法的な効力はないし、王子の俺がヤツに従う理由はない。ゆえに君はまだ第四王子妃であり、俺の部屋にいて問題はない。もちろん、アメティスト軍務卿補佐は明日の朝には正式な令状を持ってくるだろうがな」


 そういえばそんなこともごちゃごちゃ言っていた。アメティスト軍務卿補佐もエルザを陥れるには仕事が雑だが、シャルフはぼんくらだし、誰に咎められるはずもないと手を抜いたのだろう。


「それより、俺も訊きたいんだが。これはどうした?」


 シャルフの手が改めてエルザに伸び、髪を一房すくう。


「月明かりで見間違えているかと思ったが、間違いないな。君の髪はこんな色ではなかっただろう」


 エルザの髪は、ダークブラウンからオレンジ色に変化していた。

 ベッドの反対側にある鏡に目を向けると、見慣れない自分が映っている。この姿を見るのは久しぶりだった。


「……加護の反動よ」

「加護の?」

「……ちょっと魔術を扱えるって話したでしょ。私の魔術はベルンシュタインの血由来で、加護を使うと髪の色が変わっちゃう――ベルシュタイン一族のご先祖様の色になっちゃうのよ、一時的なものだけれどね」

「いつ加護を使った」

「脱獄するときよ。女を買うより囚人のほうが手軽って考えた連中がいてね、ちょうどよく牢の鍵を開けて入ってきたのよ。松明を持っていたから――」

「君に手を出そうとした痴れ者がいるという話か?」


 急激にシャルフの目の温度が下がった。どの事実がその原因かは明らかだが、それがなぜシャルフを怒らせることになるのか分からない。エルザはおたおたと慌てながら「未遂も未遂よ! ていうか酔っぱらってたから本気じゃなかったのかも!」となぜか自分を犯そうとした男達を庇う羽目になる。


「それで、その松明の火を操って……多分少し火傷させちゃったわね。あとは鎖を床から抜くときもそうだったし……」

「どこを火傷したか分かるか」

「え……多分一人は顔ね、もう一人は背中でしょうけど……」

「昨晩顔と背中に火傷を負った者だな。見つけ次第首を落とそう」

「だから未遂だって言ってんでしょ! 貴方そういう感じなの、その……女性に乱暴を働く男を許せない、っていう?」


 今すぐにでもお触れを出しそうな勢いに気圧されそうになりながら訊ねたが、無視された。座り込んだエルザの前に立ったまま苛立たし気に腕を組んでいる。


「……あ、あの、分かると思うけど馬鹿にしてるわけじゃないのよ? 立派な心掛けだと思うし……」


 そのシャルフが口を開きかけたとき、扉がノックされ「殿下、食事をお持ちしました」とフィンが入ってきた。お盆の上にはスープが2人分載っている。しばらく食事を摂っていない体への配慮だろう。


「フィン様、申し訳ありません、例によってフィン様に食事を作っていただくなど……」

「その件は構わないと先日お伝えしたはずです。エルザ殿の部屋はアメティスト軍務卿補佐が封鎖しておりますので、これだけお持ちしました」


 相変わらず仕事なのでどうでもいいと言いたげに、しかしエルザが契約妃としてやってきたときの荷物はしっかり持ってきてくれている。それをありがたく受け取るエルザの隣で、シャルフは眉を吊り上げた。


「俺のぶんの食事は要らないが」

「殿下のものではありませんが」

「……お前が食べるのか?」

「え? いえ……」


 ちらとフィンの目を向けられたクローネは「あ、私の分ですか!?」と跳び上がる勢いで驚き、エルザも「あ」と声を上げてしまった。


「私は……私は食べなくても大丈夫なのですが、どうしましょう……せっかくですからいただきましょうか、でも……」

「……殿下はまだご存知ではないのですか?」

「俺?」


 フィンに悪気はなかったのだろうが、シャルフの不機嫌レベルが上がった。しまった、とエルザがクローネに目配せすると、目敏くそれを捕らえたシャルフの眼光が鋭く光る。


「俺に何か隠し事か?」

「誤解よ誤解! 別に隠してるわけじゃ……いえ隠していたといえばそうかしら……あ、でも違うの、これには色々と事情が」

「何の事情だ」


 今すぐ白状しろと言わんばかりに顎を捕らえられ、エルザは手元も見ずに慌てて荷物の中身を漁る。


「ちょ、ちょっと待って、すぐに話すから。クローネ!」

「よろしいんですか?」

「クローネ?」


 ますます眉間の皺を深くされながら、エルザは放り投げる勢いでクローネに琥珀石の首飾りを手渡した。宮殿に来る際に持ってきた数少ない私物であり、なおかつベルンシュタインの血を引いていた母から受け継いだ遺品だ。クローネはそれを受け取り身に着けた後、うやうやしくシャルフにお辞儀をする。

 さすがに、そのときの唖然としたシャルフは見ものであった。


、私、クローネ・ベルンシュタインと申します。エルザ様がお生まれのときより、ベルンシュタインの魔女としてエルザ様をお守りしております」


 初めてシャルフの前に顕現したクローネは、少女のように可愛らしく微笑んだ。


「どうぞ、お見知りおきを、シャルフ殿下」 庭園での騒乱の後、エルザはシャルフの寝室まで連れてこられた。


「フィンに食事を用意するように伝えてある。牢に向かう前に指示したからもうすぐ持ってくるはずだ」


 そのまま無理矢理ベッドに座らされ、膝の上に毛布を投げられる。


「君の荷物はフィンが預かっているはずだ。衣類は改めて持ってこさせよう。それまではそれにでも包まっておいてくれ」

「……あの、シャルフ様、これは一体……」


 グラオ地方から帰ってきているし、牢に向かう前に指示しておいただの、フィンが荷物を預かっているだの……。一体どういうことなのか、困惑のあまり動けずにいると、シャルフが目の前に膝をつく。


「え……」

「手錠を外そう」

「あ……、そう、でしたね……」


 この5日間ですっかり腕に馴染んでしまって外すという発想がなくなってしまっていた。しかし鍵はないのではと訝しむ前にシャルフが鍵を取り出す。どこまでも隙のない王子だ。

 ゴトリ、ゴトリと手錠が外され、そろりと手首を撫でる。鎖で少し肌が擦れ、赤くなっていた。


「ありがとうございました、シャルフ様――」


 その言葉を言い切るより先に、外套ごと抱きしめられた。


「……え? あの、え……?」


 困惑を声にしても、シャルフが口を開く様子はない。ただじっとエルザの体を抱きしめているだけだ。

 エルザは間抜けにパクパク口を開閉し、遅れて少し顔を赤くしながらその背中に手を回しそうになって――シャルフの背中越しに、温かい目を向けているクローネに気が付く。


「シャルフ様! その、これは一体どういうことなのか説明してもらわないと!」


 ぐいと無理矢理その体を引きはがすと露骨に不機嫌そうな顔をされた。どれほど鮮やかな剣技を見せようと子供っぽさは健在だ。


「これは、とは。どれのことだ?」


 出立前と同じくらいの機嫌の悪さだ……。特定のなにかを差して“これ”と言ったわけではないエルザは、何から聞こうかと悩みながらシャルフの代わりに毛布ごと体を抱きしめ縮こまった。

 そもそも、剣の実力だって隠していたどころの話ではない。エルザを背に守りながら数十人いた兵の半数を斬り伏せ、しかし誰も殺さずに済ませた。さすが“征服されざる者”という最強の祝福の持ち主、なんて感心する余裕などない、その鬼神のごとき強さには恐れを通り越して呆然とするしかなかった。

 そんな王子が不機嫌さを露わにしていて畏縮せずにいられるか、否。しかし黙っていて機嫌がよくなるほどこの王子は単純でもない。


「……グラオ地方は、どうしたのよ」

「残党なら一瞬で処理したが」

「……遠いじゃないのって話よ」

「君が投獄されたとフィンから早馬がきたため急ぎ帰還した。茶会まではフィンも見張れなかったらしい、すまないな」

「それは全く……」


 おそらくフィンは、クローネがいるから大丈夫と軽信した部分もあったのだろう。実際、他の王子妃とのお茶会にフィンが目を光らせることなど不可能だ。


「フィン様もおひとりだと限界があるし……あの、それより……婚約者様のことは非常に残念で……」


 もしかしてその不機嫌さは哀しみを隠すためではないだろうか。おそるおそる口にしたが、シャルフは表情を変えず「ああ、それか」などと投げやりな返事をした。


「道中で襲われたが、王都へ来ている最中だ。明日には着く」

「え……?」


 死んだわけでもなければ、乱暴されたわけでもない……? 目を丸くすると「アメティスト軍務卿補佐からそう聞いたか?」と言われ、頷く。


「まあ、分かってはいたことだがアメティスト軍務卿補佐の差し金だったな。君が証人になるとも考えずペラペラ話すところが小物なんだ――と言いたいところだが、今の君の発言には何の信用性もないからな」


 よかった――そう感じるあまり後半が耳に入ってこなかった。そんなエルザの様子にシャルフは眉を吊り上げる。


「なんだ、君が何をそう安心する」


 何をそう安心するのか、だって? 心外な物言いにエルザのほうが眉を吊り上げてしまった。


「私のことを血も涙もない魔女だとでも思ってるの? 安心するに決まってるわよ、貴方の大事な婚約者が生きてて、ちゃんと王都に向かってるんだから。……ほら、そうじゃなきゃ私が契約妃をした意味がないし」


 いや、さすがにそこまで思い入れるのは不自然だっただろうか? 慌てて付け加えたが、その眉間の皺は深くなる一方だった。似たようなことが出立前にもあったが、例によってシャルフの本心は分からない。


「あと――そうだ、私、ここにいていいの? 明日朝処刑される身なのにこんなところにいるなんて」

「君の投獄はアメティスト軍務卿補佐が独断でしたことで法的な効力はないし、王子の俺がヤツに従う理由はない。ゆえに君はまだ第四王子妃であり、俺の部屋にいて問題はない。もちろん、アメティスト軍務卿補佐は明日の朝には正式な令状を持ってくるだろうがな」


 そういえばそんなこともごちゃごちゃ言っていた。アメティスト軍務卿補佐もエルザを陥れるには仕事が雑だが、シャルフはぼんくらだし、誰に咎められるはずもないと手を抜いたのだろう。


「それより、俺も訊きたいんだが。これはどうした?」


 シャルフの手が改めてエルザに伸び、髪を一房すくう。


「月明かりで見間違えているかと思ったが、間違いないな。君の髪はこんな色ではなかっただろう」


 エルザの髪は、ダークブラウンからオレンジ色に変化していた。

 ベッドの反対側にある鏡に目を向けると、見慣れない自分が映っている。この姿を見るのは久しぶりだった。


「……加護の反動よ」

「加護の?」

「……ちょっと魔術を扱えるって話したでしょ。私の魔術はベルンシュタインの血由来で、加護を使うと髪の色が変わっちゃう――ベルシュタイン一族のご先祖様の色になっちゃうのよ、一時的なものだけれどね」

「いつ加護を使った」

「脱獄するときよ。女を買うより囚人のほうが手軽って考えた連中がいてね、ちょうどよく牢の鍵を開けて入ってきたのよ。松明を持っていたから――」

「君に手を出そうとした痴れ者がいるという話か?」


 急激にシャルフの目の温度が下がった。どの事実がその原因かは明らかだが、それがなぜシャルフを怒らせることになるのか分からない。エルザはおたおたと慌てながら「未遂も未遂よ! ていうか酔っぱらってたから本気じゃなかったのかも!」となぜか自分を犯そうとした男達を庇う羽目になる。


「それで、その松明の火を操って……多分少し火傷させちゃったわね。あとは鎖を床から抜くときもそうだったし……」

「どこを火傷したか分かるか」

「え……多分一人は顔ね、もう一人は背中でしょうけど……」

「昨晩顔と背中に火傷を負った者だな。見つけ次第首を落とそう」

「だから未遂だって言ってんでしょ! 貴方そういう感じなの、その……女性に乱暴を働く男を許せない、っていう?」


 今すぐにでもお触れを出しそうな勢いに気圧されそうになりながら訊ねたが、無視された。座り込んだエルザの前に立ったまま苛立たし気に腕を組んでいる。


「……あ、あの、分かると思うけど馬鹿にしてるわけじゃないのよ? 立派な心掛けだと思うし……」


 そのシャルフが口を開きかけたとき、扉がノックされ「殿下、食事をお持ちしました」とフィンが入ってきた。お盆の上にはスープが2人分載っている。しばらく食事を摂っていない体への配慮だろう。


「フィン様、申し訳ありません、例によってフィン様に食事を作っていただくなど……」

「その件は構わないと先日お伝えしたはずです。エルザ殿の部屋はアメティスト軍務卿補佐が封鎖しておりますので、これだけお持ちしました」


 相変わらず仕事なのでどうでもいいと言いたげに、しかしエルザが契約妃としてやってきたときの荷物はしっかり持ってきてくれている。それをありがたく受け取るエルザの隣で、シャルフは眉を吊り上げた。


「俺のぶんの食事は要らないが」

「殿下のものではありませんが」

「……お前が食べるのか?」

「え? いえ……」


 ちらとフィンの目を向けられたクローネは「あ、私の分ですか!?」と跳び上がる勢いで驚き、エルザも「あ」と声を上げてしまった。


「私は……私は食べなくても大丈夫なのですが、どうしましょう……せっかくですからいただきましょうか、でも……」

「……殿下はまだご存知ではないのですか?」

「俺?」


 フィンに悪気はなかったのだろうが、シャルフの不機嫌レベルが上がった。しまった、とエルザがクローネに目配せすると、目敏くそれを捕らえたシャルフの眼光が鋭く光る。


「俺に何か隠し事か?」

「誤解よ誤解! 別に隠してるわけじゃ……いえ隠していたといえばそうかしら……あ、でも違うの、これには色々と事情が」

「何の事情だ」


 今すぐ白状しろと言わんばかりに顎を捕らえられ、エルザは手元も見ずに慌てて荷物の中身を漁る。


「ちょ、ちょっと待って、すぐに話すから。クローネ!」

「よろしいんですか?」

「クローネ?」


 ますます眉間の皺を深くされながら、エルザは放り投げる勢いでクローネに琥珀石の首飾りを手渡した。宮殿に来る際に持ってきた数少ない私物であり、なおかつベルンシュタインの血を引いていた母から受け継いだ遺品だ。クローネはそれを受け取り身に着けた後、うやうやしくシャルフにお辞儀をする。

 さすがに、そのときの唖然としたシャルフは見ものであった。


、私、クローネ・ベルンシュタインと申します。エルザ様がお生まれのときより、ベルンシュタインの魔女としてエルザ様をお守りしております」


 初めてシャルフの前に顕現したクローネは、少女のように可愛らしく微笑んだ。


「どうぞ、お見知りおきを、シャルフ殿下」

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