第三十一話 初めての夜
エミちゃんの母親の四十九日法要と納骨も秋のお彼岸前に終わり、僕らは結婚式の準備の大詰めに取り掛かっていた。
挙式は縁結び神社の神前式で行い、その後近くのホテルで披露宴。そして親しい仲間内で、あの居酒屋で二次会という流れだ。
エミちゃんは卒業するため単位をとるために合間をぬっては勉強に励み、バイトにも行ってる。
生活費の心配もいらないしバイトは減らしても…と僕が提案しても、それは彼女的にNOの返事。
「あの店の人達は家族みたいなものだから、最初に決めてた通り高校卒業までは勤めたい」
とのことだった。
こういうところ律儀というか、約束を果たそうとする意思の強さ、尊敬する。僕も見習わなくては。
佐藤家ではお色直しの着物やドレスのパンフレットをみて、女性たちが大興奮。
母と姉はもう一度着たいというし、姪っ子たちは将来こんなの着たい〜、とお姫様気分。
そりゃあ僕も頭の中で、エミちゃんにこんなの着てほしいなぁ〜とか、日々妄想が暴走中。
そんな中、ひとつ気がかりなことがあった。
鳥取の祖父母を招待し、当初は参列の予定だったが直前で祖母が体調を崩し、入院したので行けなくなった…と母から連絡が来た。
「おばあちゃん大丈夫かな」
エミちゃんは座敷わらし時代になじみのあるおばあちゃんのことがやはり気になるようで。
「お母さんに聞いたら、検査入院だからそんなに心配いらんから大丈夫、とは言ってたけど…」
挙式の数日後には退院予定らしい。
僕らはあいさつと写真などをみせるために、後日鳥取に行くことにした。
結婚式はつつがなく無事に終わった。
エミちゃんが18歳になった3月26日に婚姻届を提出し、その週末の土曜日に午前中神社挙式、午後披露宴、夜二次会と忙しい1日を終えた。
二次会で親友平岡さんは僕とエミちゃんのツーショットを見つめながら、号泣なのは大好きなエミちゃんを奪われたからか、それとも祝福のうれし泣きなのか。
僕自身、ひとつ己の約束を貫き通した。
本当に、ちゃんと結婚するまで、一緒に暮らしていてもエミちゃんに手出しをしなかったこと。
入籍した夜、お祝いにホテルのレストランを予約し、スイートルームに泊まった。
ドキドキドキドキ…
こういう時って男のほうが余裕あってリードして、女の子のほうが緊張するイメージなんだけど…。
僕は心臓が飛び出そうな心境だった。
できるのか!?
ちゃんとミスなくスムーズに!?
これから先未経験ゾーンだぞ!?
ドキドキドキドキ…
シャワーを浴びてエミちゃんが出てきた。
バスローブを羽織って。
なんとも艶めかしい。
こういう時何を言ったらいいんだろう。
気の利いた一言も出てこない。
「優樹くん…」
名前を呼ばれて、ハッとした。
「今日から佐藤恵三子です。よろしくね」
はうっ
ベッドに座る僕の隣に、寄り添う君。
頭の中に安室ちゃんの
CAN YOU CELEBRATE?が流れる。
あぁ、そうだ。
僕らは結ばれることを約束して、ここまで来たんだよね。
僕は何を動揺してたんだ。
頭で考えずとも、溢れんばかりの気持ちを素直に
愛しい君に捧げればいいんだ。
人として生まれ変わってから今日で18年。
途中苦しいことも悲しいこともあったよね。
だけど、それでも君が人として生きることを選んでくれたのは、
僕と生きていくことを望んでくれたから。
ありがとう
大好きなエミちゃん
「愛してるよ…一生側にいる…大切にする…」
「優樹くん…」
そのあとは無我夢中だった。
彼女の白い肌はやわらかく大人の丸みをおびており、僕は本能のままに彼女を抱きしめ、初めてひとつになった。
僕の中の情愛をすべて注ぎ、君がそれを受け入れてくれた。
あたたかい…
人の肌って、こんなにも温かく気持ちいいのか。
ふふっ
ベッドの中で、彼女は猫のように丸まり、僕にくっついてきた。
「今日は人間に生まれ変わって、1番幸せな日。大好きな優樹くんと、こうしていられるから」
ズッキュン!
その言葉に、僕は悶絶する。
愛おし過ぎるだろーっ。
彼女を抱きしめながら、髪を撫でる。
一緒に暮らすようになって、同じシャンプーをつかい同じ香りになった。
ボディソープも、洗濯の柔軟剤も。
香りが重なると、まるで別々の僕たちがひとつになれたよう。
彼女と出会わなければ、
もしくは彼女が人間になっていなければ
今頃僕はどうしていただろうね。
想像にかたくないけど。
「ねぇ優樹くん。どうして男と女、異性が存在するのか、今ならわかる気がする」
「ん?」
「きっと人間は、違いを認め互いを受け入れてこそ成長していけるんだわ。繁殖という意味での男女だけじゃなく、異なる性があるのは大きな意味で、この世の中相反するもの、陰と陽、光と影、それぞれが重なりあうことでひとつに、もっと大きくなれるんじゃないかな」
「…そうかもしれないね」
エミちゃんは時々哲学的なことを言う。
心は子どものままでも、魂は転生を繰り返し果てしなく磨かれているのを感じる。
そんな君もまた大好きだ。
やばい
愛がとまらない
きっと100万回言っても伝えきれない
チュッ
僕はいっぱいキスをした
言葉では伝えきれないから
「あっ、そんな…くすぐったい、ふふっ」
悶える姿もたまんない。
あぁ、どうしてこんなに
君のことが好きなんだろう。
好きで好きでたまらなくて、
裸の君の前で、
僕は心も裸になって
情けなくかっこ悪くみっともないくらい
君に夢中な姿をさらけ出している。
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