第三十話 夏祭り
「きれい…」
ゆかたを着たエミちゃん。
かわいいっ
すっごく似合うっ
もう鼻血出そうにコーフンレベルだっ
母がさらにハイテンションで僕を呼びに来たのもわかる。
座敷わらしの時も着物姿だけど、子どもの姿と大人になってからはまた違う。
あでやか艷やか。
17歳の女の子っていうのは、大人でもなく子どもでもなく、一番あやうくて繊細な美しさがあるようだ。
特にあやかしの心を持つエミちゃんはそうなのかもしれない。
人間離れした透き通る優美さに心奪われる。
盆踊りは夜からだが、僕もゆかたに着替えて一緒に出かけた。
ちなみに僕のゆかたは既製品のポリエステル。
何この違い?
「このゆかた上質な木綿で、サラサラしてスゴく着心地いいの。夏でも快適で涼しい」
そうか、エミちゃんが涼しいならよかった。
おたがいゆかた姿で手をつないで歩くと、見慣れた街も全く新しい風景にみえる。
まるでエミちゃんが生きてた、遠い昔にタイムスリップしたみたいだ。
なんでだろう
人間になった君と出会ってから、僕の世界は驚くほど変わっていった。
そういえば仕事もうまくいくようになり、業務の効率を上げるシステム改変を担当したところ大幅な改善となり、社長賞とって賞金も出たね。
それから周りにも一目置かれるようになり、あんなに居心地悪かった職場が、楽しいと思える場所になった。
居場所ができるって、幸せなことだね。
今まで敵視してた後輩とも一緒に飲みにいけるくらいの関係になって、皆僕らの結婚式を心待ちにしてくれてる。
結婚式に参列してくれる人も増えそうで、二次会の会場は僕らが出会ったあの居酒屋を貸し切りするつもりだけど、人増え過ぎたらいざとなれば外にテーブル出してガーデンパーティだってご主人はりきってるし。
ありがたいことだね、たくさんの人に祝福してもらえて。
これらすべて、やっぱりエミちゃんの座敷わらしパワーだと思うよ。
僕に幸福を与えてくれる。
「お祭り!屋台!優樹くんおいしそうなのいっぱいあるよっ。りんごあめでかいっ、あっ金魚すくいやりたいっ」
コケッ
しんみりと君と出会ってからの時間を振り返る僕とは裏腹に、無邪気なエミちゃん。
あぁ、そうか。
君の心の中にはずっと、座敷わらしちゃんがいるんだね。
明るくて、楽しくて、優しくて、でもさみしがりやで、一途で純粋な座敷わらしちゃん。
ずっと僕だけをみて、ついてきてくれる。
最高の彼女だ。
僕は君が喜ぶなら、りんごあめだってたいやきだってかき氷だって、好きなだけ買ってしまいそう。
いや、かき氷は冷えるから1個にしよう。
それくらい、君のことが大好きなんだ。
きっと君に再会するために、僕の高校時代はあんな苦い大失恋があったんだ。
人生に、無駄なことはひとつもないね。
日が暮れて、ぼんぼり提灯が灯りだす。
ドドンドドン
踊れや踊れ、輪になって。
「盆踊りってどんなのだっけ」
「周りの人のまねしてとりあえず手と足動かしてたらいいよ」
「んー、こんな感じ?」
1日早い迎え火が炊かれ、キャンプファイヤーのよう。
適当でも身体を動かすと、なんか楽しくなってくる。
「なつかしいなー、座敷わらし時代は近所の妖怪ちゃんたちとこっそり人間のお祭りに混じって踊ってたなー」
「そうなの??」
「うん、猫又ちゃんとはよく夜の集会で顔合わせて仲良しだったし、あと川のほうに行くと小豆洗いさんが豆洗ってたわ。あのおじいちゃん人間とって食べようとするけど、作るおはぎは最高においしかったわ」
「そうなんだ…(怖)」
人間が気づいていないだけで、実は妖怪の世界って意外と身近にあるのかもしれない。
何周かまわったら結構いい運動になり、隣の神社の境内でひと休みする。
「はい、どうぞ」
僕はソーダフロートを渡した。
「ありがとう」
ストローを加える口元が、グロスで輝いていてドキッとする。ふっくらとした、色っぽい唇。
「んー、おいしいっ。優樹くんも飲む?」
そのストローを渡されてドギマギ。
この歳で間接キスでこんなに意識するなんて…フゥ。
この先僕は老人になっても、こうして君にときめき続けるんだろうな。心臓きたえておかなきゃだ。
「盆踊りってそもそもは亡くなった人達への供養の仏教行事だよね?お父さんもお母さんも、天国からみていてくれるかな…」
「そうだね。飛行機から街の灯りを眺めるみたいに、きっと空の上からこの灯りを見てると思うよ。そしてこれを目印に、お盆の間降りてくるはずだ」
「わたし飛行機乗ったことないや」
「そうなんだ、じゃあ今度旅行いこう。飛行機なら海外でもいいし」
「わー、うれしいっ。新婚旅行でもいいね♪」
新婚旅行、国内なら沖縄、北海道。海外なら定番のハワイや近場なら韓国、香港。
エミちゃんが好きそうなスイーツや、お魚がおいしいところがいいね。
「ねぇ優樹くん、ひとつお願いがあるの」
「? なんだい」
「わたしより先に死なないで」
「えっ?」
「大切な人を、もう見送りたくはないから。優樹くん長生きして100歳まで生きて。そしたらわたし83歳だもん。いけるいける♪」
いけるいけるって…
そんな軽く言われてもね。
「んー、こればっかりは誰にもわからないけど…わかった。できるだけ長生きできるように健康に気をつけるから、大丈夫」
迎え火をみて何か思うところがあったのだろうか。
そんな事を言い出すなんて。
よし、ならば本気で僕は100歳を目指すよ。
でもね、エミちゃん。
僕だって愛する人に先立たれるのはいやだから、できたら同時に息耐えたいくらいだよ。
でもね、人間誰しも平等に死が訪れる。
いつ来るかわからないものを恐れるより、
目の前の大事な君との時間を、日々大切に過ごしていくよ。
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