第二十七話 当たり前の幸せは決して当たり前ではないこと

エミちゃんの母親の初七日法要も終わり、季節は8月。夏まっしぐらだ。

すぐに初盆が来る。その頃はあちこちの地域で盆踊り大会が行われる。


「盆踊り夏祭りに行こうか」

うちの実家近くの公園で、コロナ禍明け久しぶりに大々的なお祭りが行われるのだ。

何気なくエミちゃんに声をかけたが、しまった。

母親が亡くなったばかりでそんな気分では…


「えっ!? お祭り?? 行きたいいきたいっ」

思いのほか乗り気だった。ホッ

「もしよかったらその…僕の実家にも行かないかい?その、家族に紹介したくて…」


忘れっぽい僕は大事なことをしていなかった。

自分の親に紹介するということを。


なんだろう

自分の親にはいつでも話せると思い、

油断してた。


だけど、既に一緒に暮らしてるし

約半年後には入籍するつもりなんだから、

早目に知らせておいたほうがいいと思って。

結婚式の相談もしたいし。


「わっ、うれしい!やっとごあいさつできるねっ」


突然の母親の死、エミちゃんの精神的ショックを考えると一時はどうなることかと思ったけれど、葬儀が終わるとすぐに落ち着きを取り戻した。

エミちゃん曰く

「なんとなくこうなることがわかっていた」

とのことだった。


それは座敷わらしの能力とかというよりは、やはり前世の影響らしい。

「あの時代は生まれてきても生きることが大変な時代だったし…お母さんも苦しかったと思う。潜在意識に擦り込まれていた母の罪悪感を払拭するために、わたしはお母さんの元へやってきた。そしてわたしはお母さんに見捨てられたという想いから解き放たれた。運命ってうまくまわってるよね」

そして最期、わが子にしたのと同じように、溺れてこの世を去ってしまったのか。

因果応報という言葉が浮かんだ。

「じゃあ僕とエミちゃんも、また別の時代で出会ってるかな」

「そうかもしれないね。その時も絶対恋人同士だね」


久しぶりに実家に電話を入れ、

「紹介したい人がいる」

と伝えると、電話の向こうで大騒ぎ。

「ちょっと!優樹が彼女連れてくるって!」

「えっ!? うそっ、これは佐藤家の一大事!」

「いついつ!? ごちそう奮発しなきゃ!

「ゆーきおじちゃんやるねー。ひゅーひゅー」

唯一声の聞こえないのは父親。婿養子の父はいつも静かで存在感が薄い。

うちはとにかく女系が強いので、姉もその子どもも賑やかしい。

スピーカーをオンにしているので、その様子を聞いてエミちゃんが爆笑している。

「あははっ、優樹くんのご家族ほんとおもしろいね〜」

僕は苦笑いしかない。

「ウェルカム感が半端ない。あの人達基本人間好きなんだ」

だから客商売で成功できるんだろう。

「覚悟しといて。絶対エミちゃんのことがかわいすぎて気に入ってずっと離さないと思う」

「うふふ、楽しみです」


その後の佐藤家グループラインがすごかった。


ピコン

母『彼女何歳?』

一番答えにくいところからダイレクトに来る。

僕『17…』

ピコン

母『はっ!? 高校生?あんたの半分の年齢?』

姉『マジか!?』

母『騙されてない?美人局とかじゃなくて??』

姉『お母さんその言葉は古いわー(汗)』

ピコン

姉『写真送れ』


命令系かよ

しかし姉には昔から逆らえない。

→送付

ピコン

姉『めちゃくちゃかわいいー』

母『お人形さんみたいー』

ハートマークスタンプ連打

ピコン

母『食べ物何が好き?逆に苦手なものある?』

僕『おかずは魚系。甘いもの好き。苦手なもの無し』

姉『お寿司出前決定☆』

姪『おすしだいすきー』

ピコン

すし屋のスタンプでちびっこ乱入


ププッ

それをみてエミちゃん笑顔

破顔一笑


その後もたわいもない話で盛り上がる。

「これいつまで続くんだろう…」

ピコン

ずっと静かだった父親からの一言。

『お父さんは優樹が選んだ子だから信じてるよ』

「お父さん…」


ジーンときた。

なんだろう。普段もの静かなのに、ここぞという時に存在感を放つ。

これが父親のあるべき姿か。


ピコン

姉『私達も信じてるけど優樹お人好しだから高校の時も騙されて…』

ピコン

母『そんな昔のこと掘り起こさんでいいのよ!ほんにあんたはへらず口で…』


くそっ

苦々しい青春の黒歴史を掘り起こしやがって。

苦笑い通り越してもう笑うしかないや。


「とりあえず佐藤家はこんな感じだから、気楽にいこうね」

「ふふっ、優樹くんがこんなにやさしくて愛情深い性格になったのがわかった。温かい家族にかこまれていたからだね。鳥取のおじいちゃんおばあちゃんもとっても温かい人達だもんね。優しさの連鎖が、離れて暮らしていても続いてるってすてきね」

「…そうだね」


何気ない幸せを、思いやりを、知らずしらず僕は幼い頃からもらっていたのかな。

「その愛情のリレーを、今度は僕とエミちゃんでつなげていこうね」

「…うん」


僕が当たり前だと思っていた、家族の愛。それはミエちゃんも、わらしちゃんも、父親を亡くしてからのエミちゃんも、きっと欲していたものだと思うから。

当たり前が当たり前でないことに感謝して、今僕はここにいる。

愛する彼女の肩を抱いて、幸福なひと時を味わっている。


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