第二十話 朝日の中で

結局…少し眠れたのは外が白み始めた頃だった。


こ、このシチュエーションは想像以上に過酷だった。僕の理性、よく頑張った。


だけど…


レースのカーテン越し、やわらかな朝日に包まれスヤスヤ眠るその表情。


愛しい


無防備に安心しきっているその姿。


スゥ…スゥ…


静かな寝息。


これは…あれだ。


犬とか猫とか、動物が側にいる時の、心安らぐ感じと似ている。


ただ側にいてくれるだけでいい。


それだけで、こんなにも幸せを感じる。


そっと、髪を撫でる。


何回も、いいこいいこ、と。


気持ちいいのかな。

口元が少しほころんだ。


今さら必要ないけど、髪をかき分け左耳の耳たぶをみてみた。


「あった…!」


やっぱりあったよ。おばあちゃんが言った通り、ピアスのようなほくろと、耳下の首筋のほくろ。


「これは、君がミエちゃんとして生きていた頃の名残りなんだね」


佐藤家の何代も前のご先祖様(ミエ 六歳)

    ↓

  座敷わらし(通称わらしちゃん)

    ↓

若一恵三子(エミちゃん 17歳)


僕が知る限りそんな流れか。


なんかすごいな。

前世の証が身体に残ってるなんて。


ふあぁ…


あんまり寝てないからか、ほっとして僕は再び睡魔に襲われた。

「エミちゃんもまだ寝てるし…もう少しいいか…」

布団に入ると、すぐに意識は夢の中へ。




チチッ、チッ



窓の外、小鳥のさえずりが聞こえる。


うーん、


まぶしいーい、


よく寝たーーーっ。


このベッド寝心地良過ぎ!


回復力半端ないっ。


短時間でHP回復だゎ。


(エミちゃん、現代ではゲームにはまっているようです。特にドラクエウォーク)


んー、と伸びをして、隣で眠る優樹に気づく。


「ふわぁ!びっくりしたっ」


そうだった…昨日初めてお泊りしたんだ…。


「で何!? この格好??」


自分で着替えた記憶はない。


ということは…

「優樹くんと…」


何かあったのかな??

あぁは言ってたけど、優樹くんも立派な男だしっ(汗)

「あっ、でも…」

下着はちゃんと付けてるし、乱れた様子はない。

着ていた服はきれいに畳んで、サイドテーブルの上に置いてある。

「几帳面だな…優樹くんらしい」


きっとシワにならないように着替えさせてくれたんだ。

ほんとに、優しさのかたまりみたいな人だね。


朝日の中、寝顔を見つめる。

「こうしてみると、やっぱりあの頃の名残りがあるね」

やわらかな表情。タレ気味のやさしい眉と目。


17歳の優樹くん、爽やかで穏やかな少年だった。

お店で初めて会った時は当時の面影なんかなかったけど、今は時折あの頃の名残りが感じられる。

何より、わたしを大切に想ってくれるところは全く変わらない。


「数日前までおたがい探り合いしてたのにね。距離が縮まるとと一気に近くなったね」


ちょっと思いきったことしちゃおっかな…


わらしのイタズラセンサーが反応しました!


ぐっすり眠っている優樹くんのほっぺに、

チューしたいと思いますっ。


グゥグゥ…


寝てますね。

爆睡です。


わたしはそっと優樹くんに近づいて、唇を口元近くのほっぺにチュッ、としてみました。


「!? いたーい、なにこれ」


チクッとしました。

ヒゲ生えてます。

しかも結構濃いかも。


「こ、これが現実…」


そして17歳と34歳の違い。

少年は大人になり、男性ホルモンの活性化とともに身体も変化していく。


「朝になるとこんなにヒゲ生えるんだ」

びっくりした。


ふっ、ふふっ


「これから先一緒に暮らすようになったら、他にもいろんな発見があるのかなぁ」


楽しみで仕方ないかも。うふふ


笑いがとまりません。


「ちょっとシャワーとかお借りしまーす…」

彼を起こさないように、そーっとバスルームへ。


「どれどれ、どんなシャンプー使ってるのかな」

なんか高級なのが置いてある。

「すっごいいい香りっ」

リンスもボディソープも、上質で夢心地。

足拭きのバスマットも、バスタオルもふかふか。


「ここは高級ホテルですか?」

思わずツッコミたくなるほど、上品な暮らしぶり。

「すごいなー、優樹くん。おしゃれだなー」


父が亡くなってから爪に火を灯すような暮らしをしていたわたしには、すべてがゴージャスな世界です。

ドライヤーも大きくてナノイオンで髪ツヤツヤになるやつ。


「おぉ…」

まとまりと潤いがすごい。

「今時の美容家電は機能がいいですねー」

昔は髪にいいものなんて椿油くらいしかなかったから、驚きです。

とまぁこんなふうに、前世の記憶を持っているとついつい今昔のものを比較してしまいます。


着替えて身支度もできたし、朝ご飯の準備をしておきましょうか。

「あー、テーブルの上にランチョンマット敷きたいな♪」

色違いのやつ。そんなのも一緒に見に行きたいな。

キッチン雑貨や食器。ふたりで使うものを揃えていきたい。


「このお部屋日当たりがいいから、ガラスの花瓶にお花飾るときれいだろうな」

毎日、お花のある暮らしをしたい。

色とりどり、季節の花でお部屋を飾って。

今の時期ならバラがいいな。

甘い香りの。

あっ、正式なプロポーズの時は年齢の数だけ赤いバラプレゼントしてほしーい。


朝日はいいですね。

なんか、考えることがとてもポジティブです。

明るい太陽の下では、人はあまり深く悩めないもの。

1日30分日光浴しながら歩くと、鬱の予防になるとお医者さんも言ってました。


そして…朝日の中健やかに眠る優樹くんを見ながら朝食の準備をするのが、こんなにも幸せなんだと今日知りました。



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