第十八話 未来へ手を繋ごう
「えっと、あの…最初に言っとくけど、うちに連れていっても僕エミちゃんにその…手を出したりしないからね」
デートの帰り道、自分で言ってて恥ずかしくなった。
当の彼女は目を丸くしてきょとーんとしている。
やばいっ、墓穴掘ったか??
僕だけがなんか先走ってたかな??
最近エミちゃんのことになると暴走気味だし!?
「プッ、フフッ」
「へっ?」
「焦っちゃって、優樹くんかわいいなぁ」
エミちゃんはどこか余裕の笑み。
僕のほうがなんか軽くあしらわれてるかもしれない。年上なのに。
いや、わらし時代を考えたらそりゃエミちゃんのほうが人生(?)経験は上か。
「そういうことは、自然の流れに任せましょう」
「い、いやっ。そういうわけにはっ。僕はその…ちゃんと籍を入れて結婚式を挙げるまではその…無責任なことはしたくないから」
「フフッ、優樹くんて今時珍しく真面目だね。でもそこがいいかな」
これじゃ恋愛偏差値の無さを露呈するだけだ。
「えっと…ちょっとお母さんに電話するね」
母親の話になると、急に身構えたようになる。
「僕離れておこうか?」
「ううん、側にいて」
ギュッと、僕の服の裾をつかむ。外泊を言い出し辛いのかもしれない。
「わかった」
プルルルル…
何回かのコール音で繋がる。
「…はい」
「お母さん、わたし。体調どお?」
「うん、朝よりはいいよ」
「…今日さ。友達と出かけてくるって言ったじゃない。…泊まりでもいいかな」
「…あー、そうなの。いいよ、恵三子もたまには息抜き必要よね」
肩の力が抜け、ほっとする表情。
「ありがとう。夜ご飯温めて食べてね。それじゃ」
プツッ
電話を切ると、大きく息を吐く。
「よかった〜ちょうど具合がいい時だった。あれが気分落ちてる時だったら絶対許可おりなかった」
「そうなの?」
なんか、振り回されて想像以上に大変そうだ。
これは早急に何とかしないと。
「いろいろ買い物して帰ろう。お泊り道具とかも用意したいし。夜ご飯、何か作ろうか?」
エミちゃんの手料理…それはとてもそそられるが、今日はその申し出を断った。
「今日はエミちゃんのお休みの日にしたいんだ。だからおいしいものテイクアウトして、うちでゆっくり食べよう」
「ありがとう…じゃあお言葉にあまえて」
家の近くにある24時間スーパー。
広くて品揃えが良い。
手押しのガラガラカートにカゴをセットすると、エミちゃんの目が輝きだした。
「これこれっ。買い物カートでオトナ買いしてみたかったんだ〜」
はしゃぐ後ろ姿をみていると、なんだか小さな座敷わらしちゃんがひょいひょい宙に浮かんでいるようにみえた。
あの頃と変わらない。
エミちゃんは今でも、座敷わらしのように純粋な心の持ち主で、人の幸せを願い、自分を大事にしてくれる人には幸福をもたらしてくれる。
僕もそうだし、あの居酒屋も。
だけど現代の世の中は、競争社会というか妬みや悪口、周りを蹴落としてまで這い上がろうとマウント取る低俗なやつらもいるし、きっと心のきれいな人には生きづらい世の中だよね。
だけどね、エミちゃん。
世界はそれだけじゃないから。
確かに腐った輩もいるし、許しがたい事件や犯罪が連日ニュースで報道される。
戦争というむごたらしい惨事も、まだ鎮火してはいない。
けれど、優しさや愛情をもっている人はたくさんいるし、困った時救いの手を差し伸べてくれる人もいる。
僕の両親や鳥取の祖父母、平岡さん、温かい心の人身近にもいっぱいいるから。
紹介するね、僕の大事な人達を。
あっ、忘れてた姉ちゃんも。
そんな人達とふれて、エミちゃんが癒やされるといいな。
ふとそんなことを思った。
夜ご飯は、お魚屋さんコーナーのお寿司を買った。特大エビも入ったパーティサイズ。
「えっ、こんな豪華なのいいの??」
数の子や大トロの入ったゴージャスなやつ。
「全然いいよ。ちょっといいお店行ったと思ったらかなりお得だし。それにここのお寿司なかなかうまいんだ」
パンコーナーでは明日の朝食用のホテル食パンを買い、パンに塗るバターとかヨーグルト、サラダなどをカゴに入れていく。
スイーツコーナーでは100円ケーキ&カップスイーツが販売されていて、おたがいかなりのハイテンションで好きなケーキを入れていった。
モンブラン
ティラミス
スフレチーズ
レアチーズ
いちごショート
あんみつ
杏仁豆腐
プリンアラモード
抹茶プリン
ショコラ…
レジに持っていって初めて我にかえる。
「これ自宅でケーキバイキングだね」
よく食料品のお買い物をするエミちゃんは、カバンの中にエコバッグを用意していた。えらい。
手際良く買ったものを袋に詰めていく。
「こんなにたくさんありがとう!買ってもらって」
エミちゃんは律儀に割り勘で…と朝から言うのだが、そこは遠慮しないで僕に出させてくれ、と逆に頼みこんだ。社会人で収入あるんだから僕が出して当然だから、と。
あまえてほしい
もっともっと
僕を頼って
ずっしり詰まった買い物袋を担ぐように、
君の抱えている重荷は、これからは僕が引き受けたい。
…とは恥ずかしくて言えず、心に留め置いた。
スーパーから自宅マンションまでは歩いて5分もかからない。
惜しいな。もっと距離があれば、この幸せな時間が長く続くのに。
僕が買い物袋を持って、左側にいるエミちゃんと手を繋いで帰る。
西日が、僕たちの背中に長い影を落とす。
今はドキドキするこのシチュエーションが、これからは日常になるんだ。
ずっとずっと、何年経っても
手を繋いで出かけようね。
そんな気持ちでは、僕は彼女の小さな手を握りしめた。
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