第十四話 探り合い心理戦
イヤーカフ耳たぶほくろ確認作戦は失敗したが、僕は新たな決意を固めた。
それはさり気なくカマをかけて、エミちゃんの反応をみて様子を探っていく作戦だ。
時間はかかるが、それが確実に真実を見出す近道だと思う。
気になるキーワードをとっさに聞いた時、人は思わず何かしらリアクションが出るだろう。
それを積み重ねたのち、話してみようと思うのだ。
それくらい見つめていたら、僕はわらしちゃんの生まれ変わりを探しているのか、それともエミちゃんというひとりの女の子を愛してしまったのか、自分自分の心とも向き合えるはずだ。
思いつくキーワードをスケジュール帳に書き出してみる。
前世、生まれ変わり、妖怪、座敷わらし…これはあまりにダイレクト過ぎるか。
「今日もおしごと持ち帰ってるんですか?」
仕事帰りいつものようになじみの居酒屋でメモっていると、エミちゃんがお通しを持ってきてくれた。
「あっ、いや。これは単なるスケジュール確認。最近仕事は持ち帰らないようにしてる。ここでおいしい食事をゆっくり楽しみたいから」
「それならよかった、働き過ぎだと身体こわしますから」
ジーン…
心配してくれる優しさに感涙。
「本日はロマネスコのフレンチドレッシング合えです」
「ロマネスコ?変わった野菜だね」
「ブロッコリーとカリフラワーの中間みたいな感じで、ホクホクしておいしいですよ。ビタミンとか栄養もたっぷりあるんですって」
一口ほおばってみる。
「ほんとだ!おいしい」
「でしょう?結構一度食べるとハマる方多いんですよ」
エミちゃんは、お客がおいしそうに食べる姿をみていつもうれしそうに微笑んでいる。なんかいいな、そういうの。こっちまでうれしくなる。
相変わらずポップな店内BGM。今日はRADWIMPSの名曲、前前前世が流れてきた。
なんてタイムリーな!
これはチャンス到来か??
「あっ、この曲。僕大好きなんだよね」
ちらっと話題をふってみる。
「いい曲ですよね。私も大好きです」
「…エミちゃんはさぁ、前世とか信じる?」
「えっ?」
いきなり唐突すぎたか??
「信じ…ますね。だって、人生が今の一度きりって、ちょっとさみしくないですか?今世は前世でやり残したことを行うためにプログラムされてるって、母も言ってました。それを成し遂げられなかったら、来世の宿題になってしまうって。だからいやなことや辛いことがあったら、そこから逃げないで与えられた試練をクリアさせたほうが、来世が幸せになるからいいんだって」
「なんか…深い言葉だね」
「きっと父が亡くなった時、その悲しみを受け止めきれなくてなんとか気持ちを奮いたたせようと、自分に言い聞かせてと思うんですけどね」
「ご、ごめんね。悲しいこと思い出させて。そんなつもりじゃ…」
「いいんです、こちらこそすみません。暗い話しちゃって。でも前世とか来世とか、今自分が生きている世界だけじゃなくて、過去も未来もかたちを変えても、つながってるって思ってたほうがやっぱりロマンチックですよね。例えば、前世で結婚の約束をした恋人が今世でも出会う、みたいな」
「えっ??」
「エミちゃーん、こっちおねがーい」
「はーい、今いきまーす。それじゃあごゆっくり」
厨房から呼ばれると、ふふふ、といつもの笑顔で立ち去っていった。
それにしても
今のは…
なんて意味深な。
僕はロマネスコを食べながら、ドキドキがとまらなかった。
ロマネスコ…君の響きもどこかロマンチックだね。
「はぁ、びっくりした」
まさか優樹くんがあんなこと言い出すなんて。
前世…それはわたしが座敷わらしだった時のことを指してるのかしら。
虹色のキラキラの感情も最近さらにパワーアップしてるし、絶対わたしのこと思い出したよね?
でもそれならどうして言ってくれないのかな。
君は再会を約束したわらしちゃんの生まれ変わりだよねって。
ずっと待ってたんだ、やっと会えたねって。
言ってほしーーーいっ。
わたしから声かければって?
うーん、それはできない。
こういうことは、男の人から言ってほしいの。
だから、優樹くんにチャンスを渡したわけ。
これだけアピってるんだから、もう絶対わかるよね??
ん?
でも待って。
優樹くんって子どもの頃からどこか抜けてるところがあるっていうか…
天然っていうか…
大丈夫かな
ちょっと心配になってきた。
ふぅ
もうちょっと、違うやり方でヒント出したほうがいいかもしれない。
なんか考えよう。
前世、座敷わらし…
いきなりそれ言ったら驚かれちゃうかしら。
約束?結婚?
まだおつきあいもしてないのにそんなこと話したらなんか重たい子だと思われそう(却下)
うーん
なやむ…
再会した時の合言葉みたいなの決めておけばよかったかな。
山といえば川
花といえば桜、みたいな。
転生するあの日は人間に生まれ変われるという喜びと希望で舞い上がっていて、いざその時が来たらどんな感じで出会うだろうとか、ビジョンがなかったし!
会ったその瞬間に目と目があって、あっ、もしかして君は…あなたは…みたいなドラマみたいな展開を期待してたけど、現実はそうあまくなかったわ。
そもそも優樹くん心閉ざして感情超絶暗黒色だったし。
でもきっと、こうして同じ街で過ごしてきたのは、わたしを人間にしてくれた山の大神様の優しさの気がする。
遠からず近からず、いつどこでどう出会ってもいいように、運命を感じられる自然な距離感において見守ってくれているような。
よし、優樹くんの心を揺さぶれるように
わらしパワーを発揮していこうっ。
おたがいがおたがいの心中を探っているとはつゆ知らず。
今夜もおいしい酒と食事に酔いしれながら、静かに時は過ぎていく。
今宵の逸品は、鰆の西京焼き。
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