第十一話 共通項を探せ

休日になると、僕はネットや本を駆使して生まれ変わりについての文献や記事を調べ始めた。

その中の記述で多かったのは、生まれ変わった後も前世の時と同じような身体的特徴がみられるということ。

ほくろやあざだったり、特徴的な瞳の色だったり。


「なんかあったっけな…」

ためしにチラシの裏にボールペンで記憶の中の座敷わらしちゃんを描いてみた。

我ながら…

「僕美術苦手だったっけ」

下手くそ。

絵心がなさ過ぎ。

アメトークの絵心ない芸人にも勝てるレベル。

小学生のほうがもちっとマシな絵を描けると思う。

あのかわいらしいわらしちゃんが、僕の手にかかると何ともピカソ的な芸術的姿に…。


エミちゃんとわらしちゃん、似ているところは確かにある。

サラサラ艷やかな黒髪のボブもそうだけど、キラキラ輝くつぶらな黒い瞳とか、陶器のような白い肌とか。

だけどそれはあまりに抽象的だ。

もっとなんか決定打がほしい。

「決めた」

有休をとって、僕は鳥取のおばあちゃん家を訪れることにした。あの蔵を調べたら、何か手がかりが見つかるかもしれない。



「ゆうき〜、久しぶりだがー。生きてるうちに会えてほんとに良かったよ」

大学卒業してからだから、実に12年ぶり。気付けば干支が一周まわってしまった。

「ごめんね、社会人になってからすっかりご無沙汰してしまって」

「別にいいが〜そんなこと。忙しくしとっただろうけん」

かなり高齢になってしまったが、祖父母はまだまだ自分で歩けるほどに元気なのが何より。

さすがにおじいちゃんはあまり車の運転はしないようだが、今なら僕が代わりに運転できる。

ペーパードライバーだけどね。

「せっかくだから買い物一緒に行こうか?必要なものまとめて買い足しておいたほうが楽でしょう?」

「それはありがたいわ」

久しぶりの運転だが、雪のない季節だし行き交う車もまばらなので、容易いものだ。

よっぽど何かあればおじいちゃんにサポートしてもらうこともできるし。


町の方まで出て、大きなスーパーで食料品や、ホームセンターで園芸用品を買い揃える。

重たいお米や、日持ちする調味料などもどんどん買って車に積んでいく。

「なんか悪いねぇ、お金まで全部払ってもらって」

「何いってんの、僕そこそこ稼げるようになってるんだから。今までの恩返しだよ。子どもの頃はお年玉くれたり、誕生日やクリスマスプレゼントも買ってもらってたんだから」

「そんなのたいしたことじゃないけん」

孫の成長に、おばあちゃん目を潤ませている。

もっと早く来たらよかったね。


「今夜は優樹の好きなカレー作ろうね」

「本当!?やったぁ、おばあちゃんのカレー大好き」

年老いた夫婦ではカレーなど洋食を作ることもあまりないのだろう。久々に腕をふるう気合いが感じられた。

相変わらず広く手入れされた庭、代々この家が大事に守られてきたのがわかる。

手土産を大きな仏壇に備え、線香とロウソクを供え手を合わせる。

今まであまり注意深く見ていなかったが、下棚引き出しの中に過去帳というものがあった。

要はご先祖様達の記録であり、亡くなった方の法要をいつやったのか、などが書かれている。

「随分前からあるんだな…」

昭和を通り越し、大正初期、驚くことに明治まで記載されている。

おじいちゃんの両親や祖父母曾祖父母、おばあちゃんの家の両親と祖父母曾祖父母。

こうして見ると、枝葉のように広がってたくさんの見知らぬご先祖様の血を受け継いで、僕はここにいるんだ。

その中の誰かひとり欠けていても、僕は今ここにいなかった。

いのちって、当たり前じゃない。

改めて、自分がたくさんのひとのいのちをわけてもらい、存在していることに気付く。

だからかな。仏壇に手を合わせると、宗教的観念だけじゃなく、素直に感謝の気持ちが生まれる。


過去帳をパラパラめくっていると、最後のほうに一枚の古い写真が挟まっていた。

「こ、これは!?」

そこに写っていたのは、着物を着たおかっぱ頭の女の子。

座敷わらしちゃんにそっくりだった。


「この子は…誰?」

裏には走り書きがされていた。

『ミエ 六歳』

「ミエ…エミ…」

名前が反転してるだけなのも、なんだか意味ありげだ。

「それじゃあやっぱりエミちゃんはわらしちゃん…?」

「あら、いっつもありがとうね。ご先祖様も優樹が来てくれてうれしそうだが」

「おばあちゃん、過去帳の中にこんな写真あったけど…」

「あぁ…この子は私のおばあちゃんの妹にあたる子らしいよ。かわいそうに、まだ六、七歳くらいの時に病気で亡くなったそうだけど。流行り病の結核だったって。病気がうつらないように、あの蔵の中に隔離されていたんだって。だからその子が亡くなった後、神棚をつくりその子の魂をお祀りしたそうよ。すると家は商売をしてたんだけど、繁盛して店はどんどん大きくなって。だけんその子が座敷わらしになって、子孫を見守ってくれてるとみんな思って大事にしちょったんよ」

「そうなんだ…」

「優樹は、その座敷わらしちゃんに会ったことあるげな?」

「えっ!?なんでそんな??」

「ふふっ、優樹は心の優しい子だけんねぇ。きっとわらしちゃんと仲良くなれると思っちゃったよ」

「おばあちゃんは?座敷わらしに会ったことあるの?」

「あるある。人懐っこい子でね、私が子どもの頃はよく一緒に遊んどったよ。人間でないと知ったのは、私が大きくなってからだね」

「そうなんだ…」

「それにおもしろいことがあってね」

「何?」

「優樹が高校生の頃来た時よ。夜中私が寝てたらその子が来てね、わたしは優樹くんと結婚するから人間として生まれ変わるので、この家を去ります。今までお世話になりありがとうございました。離れはするけどもすっとこの家が栄えるように祈ってますから安心してください、ってご挨拶に来たのよ。夢にしてはあまりにリアルだけん、律儀なわらしさんだわー、って思って」

「そ、そうなの??」

「だけん私は優樹が結婚の挨拶に気てくれる時は、きっとお相手は座敷わらしちゃんの生まれ変わりだと思って、楽しみに待っちょうよ。でどうなん、その子と出会えたかね??」

「あー、それは今リサーチ中で…」

「そうそう、その写真は古いからわかりにくいけど、その子左耳の耳たぶと耳下にほくろがあったわ。普段は髪の毛で隠れて見えないけど、もしかしたら生まれ変わっても目印としてあるかもしれんね」


お茶いれるから後でおいで、おばあちゃんはそう言ってうれしそうにその場を後にした。

「いい情報をゲットしたっ」

やっぱり来て良かった。

手がかりが見つかった。

それにしても、わらしちゃんが見えていたのは僕だけじゃないのか。


礼儀正しくおしゃべりな座敷わらしちゃん、僕には居酒屋で明るく働くエミちゃんそのままに思えた。


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