〜わらし転生編〜 第三話 年月はこんなにも人を変えてしまうものなのでしょうか

先日ご来店された、あの元気がなく少々心配なお客様。あれから頻繁に足を運んでくださるようになりました。

たくさんのお仕事を抱えていらっしゃるようで、いつも遅い時間に来られ、スマホを電卓にして計算したり、メモをとったりしていらっしゃいます。


仕事って、何のためにするのでしょう?

もちろん、お金を稼いで生計をたてるためですが、それが生活のすべてになってしまい、眠る時間も削って心身を壊してしまうようでは、本末転倒の気がします。

だってお金を稼ぐのは、働くのは、幸せになるため、大切な誰かを幸せにするためじゃないですか?

あのお客さんにご家族がいらっしゃるかはわかりませんが、わたしはあの方が幸せには見えません。

だって、書類を見ながらため息をついていらっしゃるもの。

だから、せめて遅いお夕食を召し上がっている時は、おいしいと感じてもらい、眉間のシワがなくなって口元がほころびれば、と願います。


「今日のお通しは鳥取産白ネギの味噌焼きです。身体を温めてくれるので、風邪の予防にもピッタリですよ。この季節は特にご自愛くださいね」

3月末、寒暖差で体調も崩しやすい頃。顔見知りになり、ちょっとした世間話もできるような間柄になっていました。

「いつもありがとう、体調気づかってくれて。この店はやさしいな…」

鳥取の地酒、日置桜とともにパクリ。

「うーん、うまいっ。薄皮の中のネギの甘いトロっとしたところが、濃厚な味噌と合わさって最高だね!鳥取のものなつかしいな…長らく帰ってないや」

「お客さん、鳥取の方なんですか?」

「祖父母がね。僕も生まれたのと小さい頃育ったのは向こうだし、昔は何度も行ってたけど…社会人になってからはサッパリで」

「そうなんですね。私も子どもの頃は鳥取にいたんですよ!」

「へぇー、奇遇だね」


優樹くん、どうしてるかな。

鳥取の話が出て、ふと思い出した。

今は34歳。オトナになった優樹くんは今どこで何をしているだろう。

会った瞬間わかるかな??

虹色の気持ち、きっと宝石みたいにキラキラ輝いているはず。

想像だけでウキウキ気分になれるわたしすごくない??

トレイを胸に抱えながら、わたしは厨房に入った。


「カウンター3番席さんあがったよっ」

「はーい」

ご注文の大山鶏の焼鳥モモタレ。

やっぱり鳥取のものが好きなのね。


「おまたせしました、大山鶏焼鳥です」

テーブルの上が散乱していたので、受け取ってくれる。こういうところさりげに優しくて気配りできる人だなー、と思います。

居酒屋あるあるだけど、こういう時手や指が触れてしまうこと、ありますよね。

お客さんの薬指と、わたしの薬指が触れた。



その瞬間!!




ブワーッ……



封印されていた感情が、その人の中からあふれだした。


キラキラ


     キラキラ



虹色に輝く美しい色。



えっ!?



まさか??



この人が優樹くんなの??




ええっ!?



こんなくたびれたおっさんが!?

(失礼)



だってだって、

今どきの34歳なんてテレビに出てる芸能人とかでももっと若々しくて、

仕事だってバリパリやってるイメージで。



でもでも目の前のこの人は、

顔色もくすんでて目も死んだ魚みたいで腐る寸前のサバみたいですべてをあきらめてる顔で(さらに失礼)


スーツもネクタイもよれよれで見た目も服装からも生気が感じられなくてドラクエウォークでいうところの敵キャラ腐った死体みたいなゾンビ感で(もっともっと失礼)



えっ


ええっ


工エエェェ(´д`)ェェエエ工


って思わず絶望の顔文字が頭の中を駆け巡る心境。



うっそ


うそうそうそうそっ


だってだって17才の頃の優樹くんは

爽やかで清潔感があって

声も高めで覇気があって、

アイドルになれそうなくらいだったのに。


年月は、こんなにも人を変えてしまうものなのですか??


声も低くなり(遅めの声変わり)

老け顔…。

いやっ、もちろん顔で優樹くんを選んだわけじゃないけど。

細身でスラッとしていた若かりし頃の彼の姿はどこへやら。

おそらく連日遅めの夕食晩酌、不規則な生活とストレスでお腹もちょっと出てしまい、中年体型になってると思うけど。


えーっ

正直ショック…。


それに。

もしかしたら優樹くんはわたしのこと気付いていないのかもしれない。


そりゃあわたしも見た目は随分変わってる。

子どもだったあの頃と比べ、背も伸びてオトナになった。

自分で言うのも何だけど、結構美人です!

でもでも、髪の毛はあの頃と同じ黒髪のボブだしっ。


さっき鳥取の話した時も反応薄い塩対応だった。

わたしはこんなにオーラから雰囲気からわらし感出してるのにっ。

優樹くんがわたしのことおぼえているなら、虹色の感情は封印されていなかった。

だから出会った瞬間おたがいに気づけたはず。


もしかして17年の間社会の荒波に揉まれ、あんなに廃れてしまったの!?

セブンティーンの純粋な心をどこかで置き去りにし、疲れたオトナになってしまったのか。


でもでも、虹色の感情がよみがえったのなら、きっとわたしのことも、17年前の約束も思い出してくれるはずっ。


よしっ


この日からわたしは、優樹くんにわたしの存在を再認知してもらうために、猛アピールすることを決めた。

17年も待って、やっとこさ再会したのだから。


俄然もえてきたっ。

わらしやるぞー!!



PS.今年もよろしくお願いします♡

わらしより

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