〜わらし転生編〜 第一話 前世の記憶を持つ少女

こんにちは!わらしですっ。

ここまでお読みくださりありがとうございます(ペコリ)

優樹くんと再会を誓ったあの日から17年、わらしは無事、まさに産まれようとしている人間の魂の中に吸い込まれ、元気な女の子の赤ん坊としてこの世に生を受けました。


物心つく頃には、自分は生まれる前、座敷わらしと呼ばれる子どもの妖怪だった記憶を自覚していました。

だけどそのことを両親に話しても、子どものたわいもない夢物語と笑って流されていました。

むしろそれが正常な反応ですよねー。

逆にテレビとかに投稿されて、前世の検証とか神秘の子どもとか騒がれてもいやですもん。

わらし奥ゆかしい大和撫子なので。。。うふふ

そして子ども心に、使命感を感じていました。

結婚の約束をした人と、必ず再会を果たすこと。


わたしには幼い頃から特別な力がありました。

それは妖怪だった頃の名残なのでしょう。

人の感情が、色で見えることがありました。

怒っている人は赤い色、落ちこんでいる人は青い色、喜んでいる人はオレンジ色。

その能力があるおかげで、わたしは優樹くんを見つけることができるのです。

彼はわたしの大切な人。特別な約束を交わした人だから、わらしへの感情をこめた色は、他の誰も持っていないもの。

わたしが5歳の頃、ショッピングモールで迷子になっていた時、インフォメーションセンターに連れていってくれた優しい大学生のおにいさんがいました。

その人は今までみたことのない、キラキラと虹色に輝く感情を持っていました。

つないでくれた手が温かくて、どこかなつかしくて、とても安心できたのを今でもおぼえています。

あとにして思えば、あの人が約束の相手なのだと気付きました。その時はまだ幼すぎて、すべてを理解するのは難しかったので。

運命というのは、時に思わぬ回り道や、じれったいすれ違いが多いものです。

それはきっと、まだその時じゃない、気は熟していないよと、知らせてくれているのでしょう。


人間になったというか、人間に戻ったわたしは、自分の使命を抱きながらも、それなりに現世を楽しんでいました。

ランドセルを背負い、小学校に行って友達もできて、成長し、昔できなかった体験をたくさん積み重ねました。

なんせ生きていたのが随分古い時代ですから、こんなパステルカラーのかわいいランドセルや、ブレザーの制服なんてなかったですもん。

今のお洋服ってとってもすてき!

着物ももちろん好きなんだけど、風に揺れるプリーツのチェックのスカートや、軽快に動ける体操服のショートパンツなんて、こんなに足を出すなんて大昔の日本では考えられないことでしたから。

伸び伸びと動けるって、自分も風になったようで気持ちいいです。

そんなわけで小学生の時は体育が大好きな、活発な女の子でした。

背も伸びて、モデル体型って言われました。

小6の時は実際街を歩いているとスカウトされることもあったけど、そういうのは恥ずかしくて断っていました。


地元の公立中学校に進学すると、制服がセーラー服になりました。

これもあこがれの制服だったので、毎日がうきうき気分でした。

何不自由ない生活を送っていましたが、そんな時悲劇が訪れました。

お父さんが、病気を患い他界したのがわたしが14歳の時でした。

この時のお母さんは、今まで見たことないくらいの深い暗い黒に近い、群青色の気持ちに包まれていました。

遠い昔、優樹くんも感じていた、絶望という名の色でした。


不幸中の幸いというか、お父さんの死亡保険金がまとまって入ったので当面の生活に困ることはなかったのですが、元々身体が丈夫ではなかった母はショックでふさぎ込み家で寝てばかりいるようになり、学校から帰ると家のことをするのはわたしの役割になっていました。

高校進学を控え家事と勉強の両立、なかなかヘビーな毎日でした…。

こういうのをヤングケアラーって言い社会問題になっていると、夕方のニュースでやっていたね。

決して楽ではないけれど、わたしはおかげで料理から掃除洗濯何でもできるようになったので、これも嫁入り修行にはちょうどいいかなぁ、くらいに思っていたの。

愛の力ってすごいわねぇ、うふふ。


元々成績はよかったので勉強ですごく遅れをとることはなく、でも志望校はランクを下げて、無理せず入れる学校を選びました。

加えて私学の授業料無償化という制度もできたので、スベリ止めで受けておくような入りやすい学校に無事入学。

ひとり親家庭向けなどに、卒業生が寄付した制服をリユースできるサービスもあったのであまりお金をかけることなく、わたしは晴れて女子高生になりました。


女子高生〜♪

わらしおとなに近づきました!

世間ではJKと言われる、アオハル真っ盛りのお年頃ですね。


ここまで来たら、あと数年で結婚もできる!

待っててね、優樹くんっ。

子どもの頃会ってるから、きっと近くにいるはず。

わらしセンサー発動中ですっ。


運命の赤い糸というのがあるのなら、きっとわたしと優樹くんの、ゆびきりげんまんした小指と小指に繋がっているのでしょう。

何かを感じとるように、小指の爪がほんのり桜色に染まり始めたのは、16歳の春でした。

来年の春、17才の春がふたりの新しい門出からまる17年。

世の中は変わり、あの頃は携帯電話という端末だったものはスマホに変わり、平成から令和へ。

数年前、世の中を襲ったコロナも治まりつつあり、マスク無しの日常も普通のものになっていた。


優樹くん、どんな大人になっているかな。

みんながみんなマスクしていると顔もわかりづらいから、そこは解消されてよかった。

わたしは居酒屋でアルバイトを始め、家計の足しにしていました。

学校近くの、ご家族で営むアットホームなお店。

家庭的なお料理が多く、余り物をもらって帰ったりしてとても助かってます。

わたしには座敷わらしパワーが残っているようで、わたしが働き始めてから売上うなぎのぼりで大繁盛と、とても喜ばれているの。うふふ

近隣はオフィス街で、仕事帰りのサラリーマンの人達にも人気のお店です。


バイトを始めて一年。

あの日のように桜もほころぶ、日差しの明るい春の日。

いよいよ、運命の歯車が噛み合い、動き出しました。


さぁ、新しい物語が始まります!

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