第九話 キーワードはナンバー3

お正月明け、冬休み終了を前に僕は自宅に戻った。

家族には随分心配されたが、年末より元気そうな姿を見て姉も母も安心していた。

姉からは

「ほんとに死にそうな顔してたから、生きててよかった」

と少々辛口のお出迎え。

「お母さん、お姉ちゃん、心配かけてごめん。ありがと」

「なぁに、この子はあらたまって」

母の目にはうっすら涙が浮かんでいた。無事に息子が立ち直って帰宅したことのうれし泣きか。

鳥取での不思議な出来事は、まだ僕の心の中に秘めておいた。いつかわらしちゃんが本当に人間になって紹介する時、こっそり打ち明けようと思う。


僕が今目指すことは3つ。

不思議なことに、やっぱり3という数字と縁があるらしい。

第一に、わらしちゃんのファイナルミッションをクリアする。

第二に、来年の受験の準備。

第三が、一番気が重い。元カノ元トモと新学期からどう接するべきか。

戦いの日々となりそうだ。


過去を断ち切り気分も変えようと思い、ケータイも新調した。そうすればあいつらに何か聞かれても、番号変わったから連絡つかなかったって言っておけばいいし。


僕はわりとメンタルが弱い。

気が小さく、常に周りの顔色を伺っていた。

だから基本人とぶつかりたくないし、そういうところがいい人と呼ばれ、軽く扱われる所以なんだと思う。

だけど、僕には守るべき大事な人(?)ができた。

だから、これまでのような強いものに言いなりの情けない自分でいたくない。

その覚悟をもって、新学期に挑んだ。


以前何かの本で読んだことがある。

人生いろんなことが起こるが、自分がゲームの主人公になったつもりでどうやったら目の前の敵(問題)を攻略できるか、その気持ちでいればストレスも軽減されるし、アクシデントもワクワクしながら乗り越えられると。


よしっ

僕はわらし姫を助けるサムライだ。

(和風なわらしちゃんに合わせるとイメージが時代劇になるね)

腰に刀を身に着けている気持ちで、いざ出陣。


最初のザコな敵キャラ、悪女元カノ。

下駄箱のところで待ち伏せしていた。

「ちょっとこっちきて」

呼び出しでは定番の、人気のない体育館裏に連行された。

「いきなり別れるってどういうつもり!?クリスマス楽しみにしてたのにっ。おまけにその後電話も繋がらないし」


フゥ

いきなりこれだもん、いやになっちゃうね。

「楽しみにしてたのは僕からのプレゼントだけだろ。それとクリスマスにふられたっていうのが自分のプライド的に許せないだけ」

「なっ!!」

図星だろう。顔を真っ赤にして怒りだした。

「知ってるんだよ。イブの日、僕の友達と部室で何してたか」

「あっ…」

今度は恥ずかしさで顔を赤面。

「君なら他にも貢いでくれるやついっぱいいるんだろ?せいぜい本性バレないようにね」

言うだけいって、僕はその場を立ち去った。

「スッキリした…」

今まであの子に、あんなにハッキリ物を言ったことはなかった。惚れた弱みもあり、笑ってわがままも全部聞いてた。

バイバイ、シャ乱Qの『ズルい女』が頭に流れた。


次は少々ボス級か。

ヘタにつきあいが長いだけに、ちょっと面倒。

「おはよ」

教室の前で、ヘラヘラと笑っている元親友。

何事もなかったかのように声をかけてくる。明らかにごきげんとりの作り笑いだ。

「ケータイ変えた?番号変わってるみたいだしさー。冬休みどっか行ってたの??部活も全然来なかったし」

「…部活はやめる。受験勉強に専念したいし。何よりお前となんか一緒にやりたくないから。人の彼女と浮気して部室であんなことするようなヤツだと思わなかったよ」

サーッと、血の気が引いていくのが見ててわかった。

「僕がお前なんか友達じゃないって伝えた時点で、心当たりあっただろう?」

「ちがっ、あれはアイツに誘惑されて…なぁ俺達長いつきあいの親友だろ??悪いのはあの女なんだから、頼むから友達じゃないとか言うなよ」

「僕が友達やめたら他に友達いないもんね。ノート貸してくれる人も、弁当食うヤツもいないもんね。性格悪い者同士であの子と仲良くすれば?ほら、さっさと自分のクラス戻れよ」

「そんな…」

全く納得していない表情。そうなんだ、コイツは自分を正当化して悪いことも認めず、義理とか人情とかで人を縛る。そこが友達の時は許せるが、今となってはちょっと厄介。

「しばらく様子見かな…」

ガムテープのように粘着質なコイツが、これで引き下がるとは思えない。クラスが違うことは幸いだが、卒業するまであと一年。気が抜けなかった。


「とりあえずなんとか初日を乗り切った…」

弓道部には退部届を提出してケジメをつけた。

全国大会出場の経験もあるし、先輩達には引き止められたし理由も聞かれたが、勉強に専念するため、とだけ伝えた。

弓道場では縁を切ったアイツがいて聞き耳をたてていたし、本当の理由は話さなかった。

でもそれでいいと思った。

僕自身がつきあいをやめればいいだけだし、あえて大騒ぎしてあのふたりを悪者扱いする必要はないと判断した。

証拠もないし(叩けば埃はいくらでも出ると思うけど)僕自身も被害者意識を持ちたくなかったし。

接点を減らせば3学期もあとわずか。たった3ヶ月の辛抱。

(やっぱり3という数字がまとわりついてくる)

この意味を、僕は後々知ることとなる。





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