第四話 真夜中のクイズ大会

寝起きということで僕はまだ頭がうまく働いておらず、この不思議な現状も半分夢だと思っている。

10年前は子どもだったのであるがままを受け止め対して気にも止めなかったが、普通に考えてこれは普通じゃない。


「あの、えっと…そもそも君は何者なの?」

これでほんまもんの人間と言われてもそれはそれで怖いが。

それに10年前から姿かたちが変わっていないなんてまず生身の人間ならありえない。

「えーっと、それじゃあここでクイズタイムーっ。いぇーい」

「いぇーいって…」

謎のハイテンションに思わず苦笑い。

「優樹くんはわらしに何でも聞いてください。その答えをこの◯✕で示します」

どこから持ってきたのか、いきなりその子の手にはクイズ番組でよく使われるような◯✕の札が出てきた。

「それじゃあまず第一問、ジャジャン」

なんだかとっても楽しそう。

つられて僕もさっきまでのブルーな気持ちがかき消されていった。

「ええっと、それじゃあまず…あなたは人間ですか?」

「ううーん、その答えはむずかしいなぁ。ずっと昔は人間だったような…でも今はちょっと違うし…その答えはさんかく△!」

いつの間にか手札がもうひとつ増えている。

「えっ、ずるいっ。三角△とかあり??」

「世の中にはね、イエス・ノーでは割り切れないグレーゾーンってものがあるのよ」

子どものわりになんか世間を知っているような大人びたことを言う。

「では次に第二問!ででん♪」


プッ

その言い方がおもしろくて思わず吹いてしまう。

「よかったー。優樹くん笑ってくれたー。ここに来た時からずっとずっと悲しそうだったから、なんとか元気になってほしくて…」

ほろっと涙組む姿に胸打たれる。

家族でも人間でもない(多分)自分以外の誰かが、こんなにも僕のことを心配してくれるなんて。

「それじゃあふたつめの質問。君はどうしてそんなに僕のことを気にかけてくれるの?」

「その質問だと◯✕で答えられないから、どうしよっかなー」

うふふ、とその子は着物の袖で口元を隠して意味深な笑いを浮かべる。気のせいかほんのり顔が赤い。

「いろいろ聞きたいことあるから、◯✕は一旦やめようか」

「うん、それじゃあないないっ」

お手玉のように空中に放り投げると、◯△✕の手札は一瞬で消えてしまった。まるで手品のように。

「それは…魔法なの?」

「えーとねー、まぁ大まかに言うとそうなんだけど、ざっくばらんに言うと違う次元の世界に出し入れしてるだけー。ドラえもんの四次元ポケットみたいなもんかな」

あぁ、その例えはわかりやすい。

「改めて、君のこと何て呼んだらいいかな?わらしわらしって言ってるけど」

「わらしでいいよ。本当の名前は、いつかわかるから」

フフッ、といたずらな笑み。

この子はきっと何でも見通してる。

僕はまだ、すべてを思い出していない。

10年前の、この子との思い出を。

「ずっと昔…何か君と約束したような…」

「そう、そうなのよ!」

わらしちゃんはグイグイ迫ってきた。

けれど頭の中にモヤがかかったようで、何も思い出せない。

そして深夜ということもあってか、急に眠気が襲ってきた。

「なんだろう…この猛烈な睡魔…」

「あー、優樹くんはまだ免疫がないから、わらしといると力消耗しちゃうんだね」


どういうこと…?


薄れゆく意識の中、僕はわらしちゃんの声を聞いた。


このクイズの答えは、宿題ね…


クスクスと笑いながら、暗闇に光る人影は消えていき、僕は深い眠りに落ちていった。



翌朝、午前7時。

やっと外が明るくなってきた。

雨戸を開けると、新雪が積もった庭の木々に小鳥が実をついばんでいる。

目覚めても深夜の出来事をはっきりと覚えていた。

「夢…じゃないよな…」

夢ならあんなに生々しい会話のひとつひとつまで記憶してはいないだろう。

第一夢の中でクイズ大会してるなんて、そんな明るい気分ではなかったのに。

だけど突然来たあのわらしちゃんのおかけで、悲しみもショックも癒え、何だか気持ちが軽くなれた。

それくらい、人を明るく楽しくさせる天才だ。あの子は。

頭の中に残っている言葉、キーワードを反復してみる。

とりあえず僕には宿題が課せられた。

10年前、あの子とした約束を思い出さなくては。


火鉢の炭は消え、冷え切っていた。

服を着替え、僕は朝食と替えの炭をもらうために、台所へ向かった。



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