幻冬



雨上がり

明けるのが遅い冬の朝

私は前日に用意しておいた荷物を二輪に積み

山の麓へと向かえば

既に朝日が顔を出しているものの

山には霧が立ち込めていた


山道を登って行けば

やがて霧は濃霧となり

視界を遮りだすと


「どうも雲の中へ入ったようだ」


 と友が言う


 私も


「雲の中に入ったようだね」


 と答える


 わずか数メートル先も見えなくなれば


「こういうときは一休みするのが良い」


 と友が言へば


「一休みするのが良いね」


 と私は答える


 友はリュックを探り

携帯ラジオを出して

周波数を合わせようとするが

電波状態がよくないようだ


「雲のせいかな」


 と友が言えば私も


「雲のせいだね」


 と返す


 すると友はラジオをリュックに入れて

ヘッドランプを取り出し


「この霧じゃ意味もないかもしれないけどね」


 友が言葉を続けると


「多分、意味もないだろうね」


 と私も続ける


 友は先頭に立ち歩き出すが

霧白と同化したようで見えなくなり

ヘッドランプだけがチラチラと見え隠れする

私はその光だけを頼りに着いていくが

霧の中から声がする


「この霧を越えれば頂上だ」


「この霧を越えればね」


 と友の声に私は反応する


 暫く歩けば霧は晴れ

頂上でお湯を沸かし珈琲を飲む

一息つけば来た道とは違う林道を越え下山する


 麓の村落で振り返れば

魔白な厚い雲に覆われた山が見えた


 晴れ間から落ちてくる水滴を見上げ

どうして此処にいるのかと

辿り着いた下界から

再び雨に煙り出した山に尋ねてみた

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