第121話 祖霊の加護
おかしいな。こっち側の僕の人生、どこからこんなスピリチュアルに。こんなはずでは。
しかし、昨日の出来事と昨夜見た夢が幻じゃないことを、視界の端のアラートが教えてくれていた。
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「祖霊の加護」を獲得しました
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これまで、キュアーのLv5アンチカースやLv10アンチエリアカースを使ったことは何度もある。普通に「呪い」の状態異常を使ってくるモンスターはいるし、迷宮のドロップ品や露天で手に入れた掘り出し品、時には実家で扱う商品の中に曰く付きのものが紛れていることもある。そして何より、アンデッドに効果
アンデッドは山ほど倒したことがあるが、加護を獲得したのは初めてだ。ご先祖様を含むお墓に働きかけたからだろうか。加護の内容は、状態異常半減だそうだ。マジックアイテムならば、結構な業物。上級のボスの素材を濃縮するか超級の素材を惜しみなく投入しないと、こんな効果は付与できないだろう。
しかしこんなことで良いのなら、割と簡単に取れる加護だ。いや、普通に取得するならキュアーが使える高レベルの光属性か水属性限定、もしくは高価な聖水を大盤振る舞いしないと無理かな。魔道具と魔石を自前で用意できる僕ならではのチートかもしれない。
そういえば、昨日はあんなに混乱してたのに、今日はこんなふうに冷静に事態を受け止める余裕がある。これが状態異常半減ってことなのか。有り難いといえば有り難い。有効に使わせてもらおう。だけど、割と霊的な存在が身近にいるんだと理解したから、次回からは魔除けとか精神干渉無効のタリスマンとか作って来た方がいいかもしれない。
ちょっと現実逃避して、無駄なことを考えてしまった。
しかしこれで、当面の課題は決まった。今回はLove & Kühn社に最短距離で関わるルートを避け、敢えて今後のことをじっくり考える方針に決めたのだ。そこで岡林くんのお婆ちゃんと出会い、こうして「祖霊の加護」を得ることになった。
バイト先でチラッと見たきりだけど、岡林くんはどう見ても調子が悪そうだった。お婆ちゃんは、そんな彼が心配だったんじゃないか。ということは、今度岡林くんに会うことがあれば、回復スキルで元気にしてあげる。これだ。
とりあえず、岡林くんの消息を探ってみよう。中学時代の彼とは、正直良い思い出がない。だけど、小さい頃はそこそこ仲が良かったんだ。よく遊びに行ったし、お婆ちゃんにはお世話になったしね。どこまで出来るか分からないけど、とりあえず出来る範囲で。
そしてその日。僕はちょっと調子に乗って、浮かれていた。
まず、帰省から帰る前に祖父母の家に寄って、仏壇に手を合わせていたんだ。そこでつい、エリアアンチカースをやってしまった。すると、室内にも関わらず突風が吹いて、「ズオオオオ」という音とともに
それに気を良くして、今度は実家でエリアアンチカースをやってみた。すると、家の中では何も起こらなかったのに、庭の石が一つ割れていた。「
これまでこっちの世界で、向こうのスキルを積極的に使うことはなかった。せいぜいインベントリとか生活魔法の
強力なアンデッドを浄化するなら、キュアーのLv5アンチカースが効く。だけどもっと弱いのなら、
試しにこれらをブッパしてみたら、どうなるだろう。
結論から言おう。家中のあらゆるものが、いろいろダメになった。まずサニティ。僕のパソコンと携帯の中のお宝データがぶっ壊れた。本棚の奥に仕舞い込んであった薄い本も。僕は自分の浅慮を、これほど悔いたことはない。
デトキシフィケーションは、冷蔵庫で発揮された。賞味期限の怪しいものが、全て灰になって粉々に。逆に良かったのは、リカバリーかな。庭木や観葉植物が生き生きした。一番劇的だったのが、クレンズ。レンジ回りやお風呂を含め、家中がピッッッカピカになった。
ヤバい。言い逃れできない。いつもの
僕はサニティとデトキシフィケーションで生まれた灰で、こっそりと家中を汚して回った。家の外壁までピカピカになってしまったが、そこはホースで水を撒いて「外壁も綺麗にしておきました」とご近所様にアピール。ごまかせたかは分からない。
夕方、パートから帰った母が「キッチンが綺麗になってる!」と喜んだ。そして僕は家族の目を逸らすため、夕飯はホットプレート焼き肉にした。これで少しは、異様な綺麗さがマシになるだろう。
翌日、僕はパート前の母に駅まで送ってもらい、首都圏に帰ることにした。母が車で去った後、僕は物陰からアパートまで跳んだ。春休みはまだ残っている。岡林くんを探そう。
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