第111話 里、来訪
さて、無事に中間考査も終え、次の土曜日。リュカ様にも家を空けていただき、3人で
あれからウルリカは、自身で転移をテストしてくれたようだ。一応水の超級の素材で
今度は彼女の先導で、森林を中央に向けて飛んで行く。途中、高度な結界がいくつも張られているのが分かる。「来るのはどうぞご自由に」という
一見何の変哲もない、どこまでも続く深い森林。その一点を目指し、ウルリカは滑らかに降下して行く。僕らは彼女に続いた。すると、ある「壁」を通り過ぎた途端、眼下に幻想的な樹上都市が現れた。
「お帰り、ウルリカ。ようこそ、お客人」
わずかに
「この間この子が帰ってから、意味の分からないことばかり。しかしお客人を連れて来たということは、荒唐無稽な話ではなかったのですね」
「す、すみません、マダム」
彼女は、この間ウルリカが言っていた高祖母、オルガ・オブロフスカー。ウルリカやご主人、他のみんな揃ってオブロフスキー姓なのは、ここがオブロフスクの里だかららしい。なお、これらの姓名は他種族に名乗るためのもので、個体識別は魔力波や守護精霊に依存。
そして僕たちが通されているのは、巨大なツリーハウスの立派な客間。ツリーハウスというべきか、巨木のウロが彼らの棲家。まるで高層マンションだ。そして調度品は全て、流木のように磨き上げられた優雅な木製品。キノコのような形の幻想的なランプに照らされ、窓から差し込む木漏れ日と共に、とてもこの世のものとは思えない洗練された空間だ。
こんな場所で、素人仕事が相応しいか分からなかったけど、僕は自作のショートケーキをお納めした。
「ふむ。人間族の食べ物は何百年ぶりでしょうか。いいでしょう、頂きましょう…ウマッ!」
「じゃろうおばば様!アレクシのスイーツは、まこと絶品じゃ!」
さっきまでの気品はどうした。森人の重鎮が威厳をかなぐり捨てて、ケーキをガッ付いている。呆れて隣を振り返ると、リュカ様が瞳を輝かせてお行儀良くケーキを口に運んでいる。彼を見習え。
「はぁ、はぁ。人間族とは恐ろしいものですね。いいでしょう、話を聞きましょう」
僕は、ここに足を運んだ経緯を話した。
「なるほど、そういうことでしたか。それならば、ウルリカの突拍子のない話も頷けるというものです」
「そういうわけで、僕が作ったタリスマンですが、良かったらお一つ」
じゃらじゃらと連なるドッグタグを手に取り、オルガ師が白目を剥いている。その姿まで、ウルリカと瓜二つだった。
それからの出来事は、かいつまんで話そう。
オルガ師が指摘されたのは、僕がこの世界のようなゲームをプレイしていた前世。僕のような落ち
「そなたならば、使いこなすのは造作もないはず。ですが、世界を跨ぐことで、そなたの存在は希薄になります。お早くお帰りなさい」
界渡りの聖句は知っている。これも、誰も使ったことがない伝説のスキルと化していたが、取得条件のみならず、消費MPが莫大なのだから仕方ない。しかし、聖句から魔道具を作り出し、取得レベルとステータスを満たし、濃縮魔石を持っている僕なら可能だ。これまでのループで積み上げて来たこと、そしてループに気付いたのが僕だったこと。全て意味はあったんだ。
リュカ様やウルリカ、ごく一部の里の皆さんが不安そうに見守る中、僕はさっさと魔道具を作り終え、下の広場から世界を渡ることにした。
僕の前世の記憶は曖昧だ。もう名前も思い出せないし、どんな人生を送り、どんな最期だったかも分からない。分かっているのは、日本で普通に社畜をしていたということと、こういうゲームやラノベに慣れ親しんでいた、ということくらい。あちらにいた記憶、時代、場所、全てが朦朧としているが、思い出せる場所のうち、きっと時代が前後しても場所や様子が変わらないだろうと思われたのが、大学の構内の銀杏並木。
「行ってくるね!」
最後に目にしたのは、目に涙を溜めて飛び出して来ようとするリュカ様を制するウルリカ。さっさと終わらせて来るよ。待っててね。
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