第110話 森人の里へ
しばらくして、ストーンウォールで作ったベッドでリュカ様が目覚められた頃には、工房の掃除はあらかた終わっていた。僕らはあらためて、片付いた工房の中で一緒にランチを食べた。一度ダンジョン攻略中に空腹でひもじい思いをした教訓から、食べ物は多めにインベントリに入れてある。
「む、この串焼きはなかなかぞ」
「それはマロールで人気の屋台のもので」
「このスイカ甘いね!こんな秋に食べられるなんて」
「そちらはアーカートのマーケットで」
リュカ様と初めてアーカート王都を散策した時に、気に入られたヤツだ。
それからやおら、錬金術談義。僕は30年前、ウルリカと一緒に開発した濃縮付与について実演した。
「はぁ、呆れてものも言えんわい。そりゃあ、同じ素材を1,000も2,000も揃えれば、そのような付与も可能じゃろうがの」
「30年前にも呆れられたよ」
「すごいよアレクシ、錬金術ってこうやるんだ!」
「割と単純でしょう?」
「リュカよ。このような馬鹿げた付与を行う者なぞ、世界広しといえどアレクシくらいじゃ」
失敬な。
自作魔道具にドッグタグ、そして濃縮に濃縮を重ねた宝石質の魔石。
「二人に1つずつあげる。今回は、まだ1個ずつしか出来てないけど」
ウルリカがプルプルしている。
「お主…国でも滅ぼすつもりかえ?」
「いや、いざとなったらこれさえあれば魔力切れしないから。あと、いくらでも作れるしさ」
ウルリカは「いくらでも…」とつぶやくなり、ストームドラゴンエメラルド+1を手にして白目を剥いている。一方リュカ様は、
「ありがとうアレクシ!綺麗だね!」
グランドドラゴントパーズ+1のペンダントトップを、ドッグタグのペンダントに加えてくれた。気に入ってもらえて何よりだ。
楽しい時間はあっという間。すぐにお
「また土曜日の夜、お迎えに上がります」
「うん。待ってるね」
いつまでも手を離してくれないリュカ様に、ちょっと困った。転移できないから!
王国歴358年12月9日、月曜日。もう今回はウルリカと
水曜日までには余裕で出来上がってしまったので、改めて水の超級を回って状態異常無効も作っておく。ついでに土も回って物理攻撃力守備力増加も作っておこうかと思ったが、時間切れ。来週にしよう。
「お主は一体何を目指しとるんじゃ!」
しかし、土曜日にウルリカの工房を訪ねてドッグタグネックレスを贈ると、お褒めの言葉どころか雷を喰らった。解せぬ。
「あああ…こんなの知れたらおばば様から大目玉じゃ…」
「まあ、秘術を漏らしたのはご主人だから、怒られるのは彼なんじゃ?」
「おばば様は、それはそれは怖いお方なのじゃ!」
「じゃあ、もう一組作ってあげたら喜ばれないかな」
「それじゃ!」
僕の来週の放課後のスケジュールはこれで埋まった。テスト期間中だし、余裕で作れるだろう。
さて、今日の用向きはそれではない。僕がウルリカの分のドッグタグを作ったのは、今日からちょっとずつ
「おお、本当に飛びよるわい」
「前は、
工房の上空で、軽く訓練飛行。風精を従える彼女は、難なく飛翔を身につけた。彼女によると、
「そうじゃな、空を飛ぶなら東回りの方が速かろうが、
彼女は海岸沿いに内海を渡ってラシーヌにやって来たそうだ。ということは、アーカートの方が近いみたい。
「さ、アーカートだよ。ここからもっと西なんだよね?」
「…ほんに一瞬。お主、やはりとんでもないのう…」
再会してから、ウルリカはずっとこの調子で遠い目をしている。僕に付与を教えてくれたのは、ウルリカなのに。解せぬ。
「あばばばば!!!」
彼女が、大陸を横断し、北の列島伝いに大洋を渡り、西の大陸に向かうというものだから。僕はルフのタリスマン×3に
「お主!儂を殺す気か!!!」
一旦着地したところで、ウルリカに激怒された。あれ?この子、こんなお笑い要員だったっけ?
「失礼なことを考えるでないわ!」
ズビシ。
「んがっ!」
———そんなわけで、土曜日のお昼過ぎ。僕たちは、森人の里のある大陸、大森林の手前まで着いてしまった。
大森林から向こうは、森人の領域。他種族が勝手に立ち入ってはならない。
「いや、そんなことはないぞえ?迷いやすいがな」
「えっ、そうなの?」
僕らが抱いている、
その後、工房では転移の魔道具を作成。ウルリカに使えそうかどうか尋ねたところ、どうにか行けそうだということだ。意外なことに、彼らは自属性以外の魔道具を積極的に使って来なかったらしい。「転移なんぞ失敗したら目も当てられんでな」とのことだ。僕は相変わらず彼女のステータスを鑑定することは出来ないが、彼女らの持つ鑑定眼は、スキル取得に必要なステータスや数値が見られる僕のそれとは違うようだ。
夜、リュカ様を迎えに行くと、「もう森人の里まで行っちゃったの?ズルい!」と膨れられた。しかしウルリカに、「一緒じゃなくて良かった」としみじみと諭されると、何かを理解したようだ。その夜僕らは、手持ちの素材で魔道具作りと付与を延々と楽しんだ。3人ともみんな、研究馬鹿だ。
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