第104話 一方その頃

 11月1日、土曜日。日中は、攻略対象やその周囲を調べて回った。4周目、ヴィヴィちゃんをサポートしながらアーカートに2年在籍していたので、彼らのことは少しは存じ上げている。


 まず、ヴィヴィちゃんが狙っていたのがクエンティン・クイグリー。彼は騎士爵家の三男で、こういうのに必ず1人はいる脳筋キャラ。声は低くて快活、どっかで聞いたことがある良い声だ。ヴィヴィちゃんが声優さんとスチルの美しさで攻略を決めたっていうのも納得。


 彼については、ヴァイオレット嬢のノートには「ヘタレ大型犬」と書いてあった。物理戦闘力の強い女子に惹かれるタイプなので、レベルを上げてから攻略とのこと。どういう趣味だ。なお、彼のルートのライバルキャラ、いわゆる悪役令嬢は、故郷の領地の幼馴染だそうなので、一番良心が痛まないキャラでもある。


 次に、ウェズリー・ウォーディントン。現在ヴァイオレット嬢にロックオンされ中。彼は辺境伯家の次男で、氷の魔剣士。ヴァイオレット嬢によると、クーデレらしい。悪役令嬢は、言わずもがなリゼット・ラクール伯爵令嬢。2人とも水属性で、ゆくゆくは辺境伯家の軍事力の中枢として期待されているようだ。


 それから、宰相の息子、宮廷魔導士の息子、暗殺者。それぞれ、クエンティン様が火、ウェズリー様が水、宰相んとこが風、魔導士が土、暗殺者が闇。そして1人攻略後に解放されるユリシーズ殿下が、光。これは隠し要素で、彼のトゥルーエンドでのみ明かされるらしい。


 てか、ヴァイオレット嬢。全員攻略したことあるんだ。いやいやいや、じゃあ、僕やリュカ様も、知らない間に籠絡されてた可能性があるってこと?嫌だなぁ。てか、それじゃあもうこのゲームプレイする必要ないじゃん。帰れよ、現実世界あっちに。


 彼らを一通り観察して分かったことは、ヴァイオレット嬢が攻略に乗り出さなければ、安穏あんのんと学園生活を送っていることだ。クエンティン様は、王都で騎士団に就職を目指して日々体を鍛え中。ユリシーズ殿下は、普段生徒会で活躍しながら、お妃教育で忙しいアーシュラ嬢と時折お茶会。宰相のご子息も、宮廷魔導士のご子息も似たような感じ。暗殺者、いわゆる王家の「闇」って人は、普通にちょいワル生徒として学園に紛れてて、何かと主人公を気に掛ける役回り。実は、光属性の主人公をそれとなく監視・警護しているらしい。


 「闇」の彼も含めて、みんな大してレベル高くないんだよな。ゲームの都合上、一緒にダンジョンに潜って親密度を上げるイベントがあるみたいだから、最初からバカ高いってのはゲーム的によろしくないんだろう。




 そういうわけで、全てはウェズリー様待ちってことになった。彼の態度によって、ヴァイオレット嬢の行動も変わって来るだろうし、ヴァイオレット嬢が関わらなければ、他の攻略対象は平穏そのものだ。僕はモヤモヤしたまま、ラシーヌに戻った。


 マロールの寮には、外泊届を出してある。今日もどこかのダンジョン近くに砦を建て、明日は攻略でもしよう。そう思っていたけど、どうにもリュカ様が気になって仕方ない。先週、「また今度」って別れたけど、次はいつ誘おうか。


 王都に転移して、チラッと様子を伺って帰るつもりだったのに。彼はパジャマも着ないで、普段着のまま窓辺にたたずんでいた。そして、僕の姿を見つけるとパアアっと表情を輝かせた。


「アレク、来てくれたんだね!」


 ダメだ。こんなの、連れ出すしかないだろう。僕はてんでリュカ様に弱い。てか、こんな子犬のようなつぶらな瞳に抗える人類が、世界にどれだけ存在するだろうか。




 今夜は、クララックの爬虫類上級ダンジョンにした。ここは踏破されているものの、隅々まで攻略された迷宮ではない。僕らは搭乗型のゴーレムに乗り込み、慎重に調査を進めた。


「ふぅん。マッピングって、こうやるんだね」


 リュカ様は、僕の手元を興味深げに覗き込んでいる。


 搭乗型ゴーレムは、乗り心地の悪さが玉に瑕だったんだけど、僕は前世のロボットアニメを思い出した。別にゴーレムだからって、歩行する必要なんかない。足が車輪でも構わないし、ロケットブースターで飛んでも良い。「足なんかお飾り」だって、有名なセリフもあるくらいだしね。


 ロックウォールで作る建造物がある程度自由に変えられるなら、ゴーレムだって改造してもいいはずだ。中級以上の迷宮には、大抵足元に罠があるものだし、僕はゴーレムの足を取っ払って、ゴーレム自体に飛翔フライを掛けた。もはやこうなっては、腕の生えたドローンでしかない。そして、中でマッピングしながら酔わないほどの姿勢制御。DEXきようさって大事だ。


 ゴーレムの腕や手指は、僕の操作通りに動く。素手ほどじゃないけど、かなり緻密な操作が可能だ。僕は斥候術で罠の解除、開錠なんかをこなしつつ、どんどんマップを埋めていった。群がる大型爬虫類は、全く歯が立たないにも関わらず、ゴーレムのツルツル金属ボディに果敢にアタックして来るが、時折リュカ様が石礫ストーンバレットの的にして倒している。3Dシューティングゲームみたいだ。存分に楽しんで頂きたい。




 11月2日、日曜日。リュカ様を送り届けてから、改めてダンジョンの攻略を再開。別にソロでも楽しいんだけど、ああやって道連れがいると、また楽しさも格別だ。リュカ様が僕のことを待ってくれるのは嬉しいものだけど、もしかしたら僕の方がリュカ様を手放せないのかも知れない。ループが終わったら、改めてウルリカに会って、お友達からお願いする予定だけど、リュカ様とも何らかの形で友好関係が続けばいいな、と思う。


 そして11月3日、月曜日。事態は動いた。ちょっと良くない方向へ。

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