第102話 きな臭いピンク頭
10月25日、金曜日。引き続きヴァイオレット嬢の尾行を続ける。
このループを引き起こしているであろう、アーカートの光属性の生徒。今回の彼女が、どんな攻略を進めているのか。まずその辺りを調査しなければならないだろう。
まず気になったのが、ウェズリー様の魅了だ。光属性には、そんな精神汚染系スキルはなかったはず。そして彼女のレベルは、まだ1のまま。どうやって魅了したのだろうか。
そしてそもそも、魅了で攻略していいんだろうか。それって、光属性ヒロインのすることなのか?最後はどうやってエンディングを迎えるのか分からないけど、1人目のヴィヴィちゃんの時みたいに、王子様が魅了されて断罪、みたいなことが起きないといいんだけど。あの時は、ヴィヴィちゃんとクエンティン様が魅了を解く役回りだったから、良かったけどさ。
そう考えると、1人目のヴィヴィちゃんがものすごくマトモに思えて来る。どういうことだ。
ヴァイオレット嬢は今日も元気にサロンに入り浸り、ウェズリー様と意見交換をするという
サロンの閉鎖時刻になって、ようやく退席。魅了されているウェズリー様とヴァイオレット嬢だけが上機嫌で、後のメンバー、従者に至るまで、ほとほとお疲れのご様子だ。みんな「おっかしいなぁ」って顔してるけど、当のウェズリー様が許可しているのだから異を唱えるわけには、って雰囲気。ヴァイオレット嬢はヴァイオレット嬢で光属性だし、ゲームを知らない人たちからは、卒業後は教会に入ると見られている。彼女に楯突いて、教会を敵に回すわけにはいかない。
ループ開始直後から、非常にきな臭い。僕、ヴァイオレット嬢のこと、あんまり応援したくないなぁ。
10月26日、土曜日。今日は朝から国中を飛び回り、転移地点の設置。王都に程近い火の超級と上級ゴーレムダンジョン。それから土の超級に、まだ隅々までちゃんと踏破してないダンジョンもある。例えば、クララックの爬虫類上級ダンジョンとか。
クララック。3周目はカバネル子爵家でお世話になって、途中からはウルリカの工房の隣に砦を建てて。ずっとループから抜け出したいと思って頑張って来たけど、その心の支えの一つが彼女だ。今はまだ、会いに行くべきじゃない。以前、彼女とご家族にループが終わることを告げられないままクララックを飛び立った日のことが、未だに忘れられない。もう同じ思いはしたくない。ループが終わったら、今度こそ会いに行こう。
さあ、一旦気持ちを切り替えて。今夜はリュカ様を、どこに連れて行ってあげようか。
前回、王都近くの火の超級とゴーレム上級。彼にはどちらも好評だった。しかし、彼の土属性を活かすなら、ゴーレムの方だろうか。
「わわっ、土を砂に変えただけで?!」
リュカ様のお目目がキラキラだ。今回は、敢えて火属性のスキルを使わずに、土属性で押して行く。最下層までは
ドカカカカ!ゴゴゴゴゴゴゴ!
金属で出来たゴーレムが、まるで空き缶のように蜂の巣になる。前回はファイアーボールを連打したけど、レールガンのが速かったかも知れない。
流石のリュカ様も、ちょっと真っ白になっていた。ゴーレムもレールガンも、「これ、土属性で出来ちゃうんですよ」っていうのは、ちょっと刺激が強かったかも知れない。だけどもう、これで「土属性の出来損ない」とは言わせない。リュカ様の目は、やる気に満ちていた。
秋の夜長とは言うけれど、夜は短い。今宵もこれでお別れだ。というより、もうこれ以上レベリングの必要はないだろう。彼には十分な実力も付いたし、模擬戦なんか恐るるに足りない。
「それではリュカ様。私はこれにて」
しかしリュカ様は、僕の上着の裾を掴んだ。
「嫌だよアレク。もう一緒に連れて行ってくれないの?」
そう言われると弱い。その上目遣いはやめてくれないかな。もうこれ以上、彼に介入する気はなかったのに、つい「またいつか」と答えてしまった。ヘタレな僕だ。
10月27日、日曜日。あれから仮眠を取り、今日も一人上空を漂う。ダンジョンは、ラシーヌだけじゃない。アーカートにもいっぱいあるし、両国に挟まれたアルノルト皇国にも。どうも積極的に周回する気になれず、とりあえず目ぼしい都市のギルドに立ち寄り、ダンジョン情報を買い込み、転移マーカーを
僕は今回、ヴァイオレット嬢の味方はしたくない。だけど彼女を何とかしないと、またこの3年がフイになってしまう。そしたら、次のピンク頭が善良な人物なのか御し難い人物なのか、分かったもんじゃない。まだ関係者の人となりや方向性も把握し切れていないし、引き続き調査を進めなければ。
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