第94話 マロールへ帰還
さて、もうすぐ期末考査。いつまでもプレオベールでのんびりするわけにはいかない。僕たちは、一旦マロールに引き上げることになった。
「しかし、どうも馬車の乗り心地が良いと思っていたら、走るそばから街道に石畳を敷いていたとはな」
「君は本当に規格外だね、アレクシ君」
「僕、往路でずっと見てました!」
ラクール先生とリシャール殿下に引っ張り込まれ、僕は馬車の中で大人しくしていた。本当はプレオベールくらい、秋津装備でフワッと飛んで行きたかったんだもの。馬車でのんびり二泊三日とか、もう今更耐えられない。そういえば、兄と王都を目指した時には10日かかったな。あれは地獄だった。彼らと上京することがあれば、何としてでも同行を避けなければ。
「しかしこのレポートだがな、アレクシ君」
ラクール先生は、提出したレポートを何度も読み返しているようだ。紙がかなりくたびれている。魔道士の育成に関しては、この案で王宮に提出しよう、という話になったのだが(王宮に?)、一つ引っかかる点が風属性の
「
「大佐の言いたいことは分かる。空からの攻撃が可能になれば、城壁や地形での守備が無意味に」
ああ、そうか。空軍が出来ると、今度は制空権の戦いになっちゃうのか。我が国だけが飛翔を使えるのはいいけど、どうやって風属性魔道士を育成したのか、そのうち情報が漏れるだろう。どんだけ情報統制を敷いたって、ある程度の規模でダンジョンアタックをしていれば、いつかはバレる。そしたら、今度は空爆の時代が来ちゃうだろうな。歴史的には遅かれ早かれ、そうなるだろうけど。
「では風属性の育成と取り扱いには、慎重にならざるを得ませんね…」
ぐぬぬ。話の分かるメンツなら、秋津装備を提供しようかと思ってたのに。その上、そろそろ転移が使えますなんて、余計に口外出来ないじゃないか。馬車移動不可避。「こんな話、僕が聞いてていいの?」って顔してるリュカ様と共に、僕らはちんまりと大人しくしていた。
マロールに帰って間もなく、期末テスト。僕は約束通り、飛び級で卒業した。だけど表向きは殿下付きの従者見習いということで、引き続きマロールの学園で「勤務」。両親は、「殿下付きってお前、一体何やったんだ」とガクブルに震え、折角帰省したのに門前払い。まあ帰省と言っても、徒歩30分程度だけど。
クララックの酒造業と兄の活動、そしてバラティエ商会との連携は順調。それだけは朗報と言えた。しかし、「困ったことがあれば何でも言ってくれ」って言ってくれたブリュノも、流石に相手が第三王子ではどうしようもない。前ループ、寸でのところで掻い潜った殿下の包囲網。しかし気が付けば、今回は何故かガッチリ捕まっている。僕は一体どこでしくじったのか。やっぱり、ラクール先生を頼ったのがいけなかったのか。
「さあ、新年からはバリバリ働いてもらうぞ」
これまでも、散々バリバリ働きましたがね。僕がリュカ様とアーカートの地を踏める日は、いつになるのか。
しかし、それならそれで、ただ手を
超級なので、レベルもサクサク上がる。そしてここで落ちる素材も素晴らしい。3周目、ウルリカたちと散々錬金を楽しんだものだけど、やっぱりここのが一番アツかった。あの時はもうループの終盤で、それほど錬金を試す時間はなかったけど。そして前ループでは、リュカ様と火属性はいっぱい回ったけど、エンチャント装備が活躍する日は、ついぞ来なかった。結局後半の二年は、アーカートであたおか…ちょっとお茶目なヴィヴィアン嬢のお世話で終わってしまったから。
だけど、諦めたらそこで試合終了だ。マロールから動けないなら、マロールで活動しながら攻略すればいい。もうすぐ闇属性の転移スキルの取得条件、「レベル100、INT300、DEX300」がクリア出来る。そうすれば、訪れた場所で座標を把握しておけば、いつでも転移可能。僕はマロールに居ながらにして、秘密裏にアーカートで暗躍する。今回は、ひとまずこれで行こう。
飛んで、飛んで、飛んで、周回して、周回して、周回する。この冬休み、僕は記憶を取り戻してから一番忙しく過ごした。
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