第93話 プレオベールブートキャンプ

 僕らがプレオベールの飛行モンスターダンジョンに到着してから3日。


「ははは!当たる!当たるぞ!ストーンブラスト!」


「落ちろ羽虫ども!ロックバレット!」


「私も負けてはおらんぞ!火嵐ファイアストーム!」


 殿下、リュカ様、ラクール先生がヒャッハーしている。ちなみに従者さんは治療班の水属性なので、風属性の飛行モンスターには劣性だ。じっと我慢の子。しかし、彼も撃ちたそうにウズウズしている。気持ちは分かる。どんどんレベルが上がって、強いスキルがバンバン撃てるようになるもんね。


 ここは上級ダンジョン、しかもフロア全体が見渡せるタイプ。出現した敵はサクサク倒していかないと、あっという間に援軍を呼ばれて取り囲まれる、怖いところ。しかも敵は飛行型だから、集まるのが速い。無策で挑むと結構怖いのだ。そもそも空飛ぶ敵は倒し辛い。前衛職ではリーチが足りないし、弓は矢を消費する。魔法スキルでゴリ押しすると、MP切れが心配だ。だけど「優性属性」で「全体攻撃スキル」、しかも十分なDEXきようさで命中率を確保する。最後のはレベルを上げないとどうしようもないけど、とにかく複数攻撃スキルで押せ押せで行くのが、僕のセオリー。


 帰りのMPを計算しながら行けるところまで行って、帰って、一休み。回復したら再アタック。いやあ、稼いだ稼いだ。なお、みんなで散らばったアイテムやコインを適当に拾い、後は放置して先に進むふりをして、僕は殿しんがりでちゃっかり取りこぼしを収納している。


 殿下は石礫ストーンバレットのLv4、ストーンブラスト。これが石礫系初めての全体攻撃スキルになる。リュカ様は、ストーンブラストで刺し切れなかったタフな個体を、Lv5のロックバレットで。これは石礫ストーンバレットの強化版。さらに取りこぼしを、ラクール先生が爆炎Lv5の火嵐ファイアストームで。彼も全体攻撃を覚えてご機嫌だ。彼らは無詠唱もマスターしたはずなんだけど、どうしても技名は言いたいらしい。ここでは僕ら以外誰もいないので、みんなで厨二病炸裂だ。


「皆さん楽しそうですね…」


 従者のルネさんは、羨ましそうに連接棍フレイルを握りしめている。てか、モーニングスタージャンキーのカロルさんといい、何でヒーラーって、みんな前に出て殴りたがるの。水属性って、優しい人たちってイメージだったんだけどな。




 今日も一通りアタックを終え、ダンジョンのほとり、ベースキャンプたるフォートの中で。


「殿下。当初殿下から頂いたご依頼ですが。1つ目、ラクール先生に提出したレポートについては、学園の訓練場で再現致しました。2つ目、殿下とリュカ様がロックウォールとランドスケイプの魔導書を読み込まれ、再びこのダンジョンで訓練を積み重ねられますと、間もなく私が訓練場で行ったことと同じことが出来るようになるでしょう。3つ目、魔法省の土属性魔導士の方々、および他の土属性の方々も同様です」


「うむ。まさか1週間も経たずこれだけの修練が積めるとは、私も予想していなかった」


「アレクシ君。君が飛び級を言い出した時には、正直驚いたものだが。今は君がこんな能力を隠し持っていた事に驚いている」


「僕、土属性で良かったよ。アレクシ、ありがとう」


 皆さんからは口々にお礼を言われた。さあこれでお役御免だ。前期期末テストで飛び級したら、アーカートに向けてレッツラゴー。これから晴れやかな表情ではにかむリュカ様を、口説き落とさなけばならない。アーカートには土属性への差別がない。そしてラシーヌの貴族学園の画一的なカリキュラムと違い、出来る子はどんどん学べる自由な校風だ。前ループのリュカ様はご学友たちと随分楽しそうだった。もうとっとと留学しちゃうしか!


「というわけで、次の依頼だが」


 ちょっと?!




 殿下の依頼は、他の土属性だけではなく、他の属性も同様に育てて欲しいということだ。贅沢な王子め。平民なんか使い捨てと思ってやしねぇか。僕がポーカーフェイスを崩して、苦々しい表情をしていると。


「当然、これだけの実績を挙げた君にはちゃんと褒賞を与えなければならない。何か希望があるなら、言ってみるといい」


「本当ですか?!実は私、すぐにでもリュカ様とご一緒にアーカートへ留学したいと」


「えっ、僕?!」


 ヤバい!最速アーカート行きチケット来た!


 僕は、アーカートが身分に関わらず、望む者にはどんどん高度な学びが用意されていること。そしてこうして一緒にダンジョンアタックをしていて分かったリュカ様の頭脳明晰さ。きっと伸び代がすごい。年齢を考えると、留学は早い方がいい。ビジネストークよろしく、そう畳み掛けた。営業職のクロージングトークを舐めんなよ。


 しかしリュカ様は、浮かない顔だ。


「アレクシ君。リュカのことを考えてくれるのは嬉しいが、この子の姉がアーカートに留学しておってな。ちと家庭の事情が良くないのだ」


 そういえば、前ループでもそんなこと言ってたな。しかし実際は、ほとんど接触なんかなかったけど。


 姉君は学園に在籍はしていたものの、どちらかというとアーカート貴族の婚約者として、花嫁修行をしていたようだ。あのリュカ様の母上と瓜二つ、学園なのに青い髪を高く結い上げ、バッチリメイクして、取り巻きと社交に勤しんでいた。典型的な貴族令嬢である。


「…分かりました。しかし、アーカートは規模が大きく、自由な校風と聞きます。勉学に勤しんで成績を挙げる以上、不必要な干渉はないでしょう。僕もお守りします。リュカ様、考えておいてくださいね」


「…うん」


 まあ、これから追々口説いて行けばいいだろう。




 夕食を終え、皆さんが砦のリビングでゆったりしている頃、僕は砦の自室でレポートの作成に勤しんだ。土属性には、マロールのトンボと、今攻略中のプレオベールの飛行モンスターが一番簡単に稼げるだろう。火属性は、土属性の天敵。だから王都のはずれのゴーレムダンジョンは、土属性だけでなく火属性にも最適な狩り場だ。一階だけは足場が悪いので、土属性を入れて行くといいと思うけど、土属性を最もさげすむ傾向にある火属性。果たして仲良く攻略出来るかなぁ。


 風属性は、水属性に強い。マロールの両生類ダンジョンなんかお勧めだ。彼らには是非飛翔フライを覚えていただきたい。斥候術のみならず、情報伝達や高速物流は、国力増強の要になるだろう。そして水属性だけど、言うまでもなく火属性に強い。王都の火属性ダンジョンは、とても美味しい。


 他にも、狙い目のダンジョン、階層、モンスターなどはたくさんある。僕は大体、国内のダンジョンは一通り回ったので知っているが、中にはまだ隅々まで攻略されていないダンジョンもあるし、前衛職向けの狩り場もある。


 僕は翌朝、それを殿下に提出した。そして、


「一通り簡単にまとめてみましたが、これは僕が個人的に集めた情報で、とても全てを網羅しているわけではありません。これを叩き台にして、冒険者ギルドでマップを買い、出現するモンスターを調べてから、戦略を組み立てていただければと」


 殿下とラクール先生は、レポートを眺めて唸っていた。


 安全な階層で安全な敵ばかりを倒し、同じ素材を大量に持ち帰る。こういう考えは、今までこの世界にはなかった。1周目で、僕は初級ダンジョンでピルバグを大量に狩って、ピルバグ野郎と陰口を叩かれたものだ。しかし、ゲームに単調なレベル上げは付き物。僕は武器防具消耗品全てを揃えてから次に向かう、やり込み派だった。きっとこの世界にも、そういうのが好きな層は一定数居るだろう。特に土属性。


 なお、二人が読み終わったレポートは、リュカ様と従者のルネさんも読んだ。ルネさんがグッと拳を握っていた。この人やる気だ。僕には彼が、ブレイズドラゴンを相手に高笑いをしている幻が見えた。

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