第71話 王都の初級ダンジョン
リュカ様を連れて、まずは王都で一番ポピュラーな初級ダンジョンへ。ここは階層ごとに環境が変わる凝った造りで、浅層は平原と林。薬草なんかが採取できる、とても易しい迷宮だ。もちろん、マップも事前に購入済み。討伐とかアタックとかそういう感じじゃなくて、一般人でも冒険者証さえあれば、キノコ狩りの感覚で訪れる人も珍しくない。
「ほら、リュカ様。これが
「これが…」
伯爵邸にも、結構な図鑑が並んでいた。本物を見るのは初めてだろう。彼は夢中になって眺めている。こういうのに弱いと思っていた。よしよし、掴みはオッケーだ。
「そしてリュカ様。そこの水辺に、スライムがおります」
「えっ、どこっ!」
「見ててくださいね。
ドカカカカッ。石礫が飛び出し、水たまりがうごうごと蠢いた後、沈黙した。水底にはコインが落ちている。
「ほらこの通り「今、君、聖句!」
あっやべっ。
「…リュカ様。冒険者の能力に関しては、他言無用です」
「でもっ、聖句もなしにスキルなんて」
「いずれリュカ様にも伝授致します。男と男の約束です。よろしいですね?」
少し
まあ、無詠唱に関して言えば、伝授もなにも、体内の魔素を現象に変換するイメージさえ出来れば、誰にでも出来ることだ。みんな「聖句を唱えないとスキルは発動しない」と思い込んでいるだけで。魔道具や付与までは明かすつもりはないが、これくらいなら教えても構わないだろう。どうせ春までには、ガッツリレベリングしてあげる予定だ。
とりあえず今日は、迷宮入門編。薬草を摘んで、ホーンラビットを倒して、セーフゾーンで焚き火をしながらランチ。そして帰りには、ギルドの窓口でウサギ肉と薬草を売って、寮に帰る。収益は折半だ。
「いや、しかし僕は何も」
「リュカ様。パーティーを長く続けるコツは、皆が対等であることです」
「パーティー…」
彼は感動して、キラキラした瞳で見上げて来る。僕が悪い大人だったら、簡単に誘拐されそうだ。まあ、彼の従者として厄介になっている間は、ちゃんと保護してあげるけども。
「分け前はちゃんと取っておいて、次の冒険に備えますよ、相棒」
「相棒…」
チョロい坊ちゃんだ。だけど、そういうところが可愛らしくもある。本当、伯爵家の連中は、どこ見てんだろうな。
1月20日月曜日。貴族学園生活、第2週がスタート。借り物の制服を返却し、改めて付与を施した新品を着用。返した制服には防汚・形状記憶の付与が残っているから、次に借りた生徒はちょっとラッキーかも知れない。
金曜日までとは打って変わって、リュカ様も多少明るい表情で、中等部へ向かって行った。彼は意識していないかも知れないが、髪型を整えて小物を一新したおかげで、かなり印象が違って見える。さらに、あらゆる身の回り品にさりげなく付与を施しまくった。防汚、形状記憶、状態異常軽減、精神異常軽減。温度調節、湿度調節、
そしてリュカ様のお世話だけでなく、自分自身の学業もある。
僕は特例で編入させてもらったけど、基本授業はクラス単位。庶民向けの職業訓練校という位置付けのマロールと違い、ここでは選択授業がほとんどない。分かれるのは、体育代わりの武術の授業のみ。ここでは、剣術と体術の2つだけ。
今回僕が取るのは、体術だ。僕は1周目から槍術を取っていたけど、今ループは剣術を取得。これらは冒険者レベルを上げて一定のPOW値を得ることで習得できた。後、スキルを取っていないのは体術だけ。体術は、武器による攻撃力の加算が望めない代わりに、パッシブスキルが多く含まれている。今ループ、魔法スキルは全て魔道具でこなし、スキルポイントを余らせているのは、こういう武術系スキルに振り分けるため。こっちは魔道具で代用できないからね。
授業で一通りの型を覚えると、脳内ファンファーレと共に、無事体術スキルを獲得した。これでいつでも、スキルポイントを振れば体術を上げることができる。後は斥候スキルを取りたいな。一度取っておけば、次回以降のループではスキルポイントを振るだけで、最初から取得できるようになる。
いや、次回以降とか言ってちゃダメだ。今ループで終わらせる。せっかく貴族学園まで来たんだ。きっと終わらせられる。…はず。
頑張ろう。
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