第69話 学園生活の始まり
翌日。リュカ様と僕は、前日と同じように馬車で学園へと赴いた。リュカ様の荷物は、後で寮に送ってくれるらしい。僕は最初からトランク1つだし、荷物のほとんどはインベントリの中だしね。
それにしても、ラクール邸の待遇の悪さよ。最初の夜はリュカ様と夕食をいただいたけど、翌朝の朝食も夕食も、誰も声を掛けてくれないし、どこで食べて良いかも分からなかった。手洗いなんか、年若いメイドに無言で指差されただけだもんね。歓迎されてない感ありありだ。
多分だけど、伯爵はラクール先生のことをあまり良く思っていないみたいだ。鑑定したところ、彼は先生よりレベルが低く、有用なスキルも持っていない。そもそも風属性だ。嫡子として家督は継いだものの、「塔」や軍部でエリートを張るなら、火属性の方が聞こえは良いだろう。ちなみに夫人は水。水属性も、究めれば攻撃に回復に大活躍するんだけど、彼女は貴族学園卒業レベルしか持ち合わせていない。はっきり言って、魔道伯と言われるほどのお家柄なのに、当主夫妻の能力はお粗末なのだ。リュカ様が不人気の土属性だからって冷遇されているのは、自分たちの不出来を直視したくない、スケープゴートみたいな部分もあるのかも知れない。
リュカ様は、初めて会った時から陰鬱な表情をしている。家に居ても居場所がないし、また学校に行っても嫌な奴がいる。まあ、陰気になっちゃっても仕方ないよね。だけど、実家の自室に籠もるよりは、とりあえず寮室に籠もった方がマシだろう。いつから登校拒否状態なのか分からないけど、まだ中等部に入りたてだ。十分立て直せる。世間は広い。実家から出るだけで、少しは息苦しさがマシになるだろう。あそこはひどい。
さて今日も、中等部の昇降口までお見送り。僕は一旦寮室に戻り、トランクを置いて、いざ高等部、2年C組へ。
「えー、今日から編入のアレクシ君だ。アレクシ君、自己紹介を」
「今日からお世話になります、アレクシと申します。どうぞよろしくお願いします」
一礼。終了。教室中から、僕を値踏みする視線を感じる。しかし、背筋を伸ばして堂々と。微笑みを忘れない。
こういう時こそ、身だしなみは大事だ。僕は1周目にディオンさんにそう教わって、2周目からは特に気を付けるようになった。すると、人の態度はコロリと変わる。その後「塔」に勤務したり、子爵領で働いたり。外見や所作を意識して磨くことは、どこに行っても役に立つ。
周りのクラスメイトたちは、まだ子供だ。大金を積んで入学した豪商の子息であっても、家族や従者が見立てた一流品に「着られて」いる。僕は、記憶の年数から言えば、もう中堅社会人といったところだ。彼らよりずっと、自分の見せ方は熟知している。
しかも今ループ、僕には必殺の
それにしても、これまで付与術とは「一流の
思考が逸れた。
改めてクラスを見渡すと、僕を
お昼時。僕は中等部まで足を運び、リュカ様を食堂に誘った。
食堂は、上位貴族用のサロンと一般席に分かれている。伯爵位は上位に入るので、本当はサロンに行くのが妥当なところだけど、彼は素直に僕について来た。
「いかがでしたか、本日の授業は」
「…思ったより平気だった」
それはそうだろう。僕は彼のポケットに、こっそりと状態異常軽減のリングをしのばせておいた。今日から寮室でお世話をするにあたり、あらゆる持ち物にガンガン付与を掛けてやる。
食堂を見回すと、中等部に高等部、職員たちが入り乱れてにぎやかに食事を摂っているが、鑑定をしても特筆すべき人物は見当たらない。もしこれがゲームとなると、やはりループを起こすような主要人物は、サロンの方にいるのだろうか。まあまだ初日だ。慌てる時間じゃない。
食堂のランチは、特別豪華ではなかったけれど、温かくて美味しかった。リュカ様は黙々と食べている。この子はいつも自室で一人、冷たい料理を食べてたから、やっぱり連れ出して来て良かった。
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