第65話 王都に潜入
「わっはっは。君がいきなり飛び級で卒業と言い出すものだから、皆期待しておったぞ!」
ここは学園長室。入って正面には学園長、入り口側の下座に僕。付き添ってくれているのは担任の先生。そして学園長の前で高笑いしているのが、筆頭魔法教諭のラクール先生だ。
「二年次早々での卒業は、我が校で二例目だ。卒業後も励むように」
学園長からの有り難い一言をもって、僕は卒業決定。卒業式の代わりとなる面談だ。これで僕は、無罪放免。明日からとっとと王都へ向けて準備GoGo!
———だと思っていました。
「で、だ。これだけ向学心に溢れた君なら、卒業後もより学びを深めたいと、そういう希望があるわけだな?」
「え、あ、はい?」
担任の先生とラクール先生に挟まれて、僕は職員室まで連行される。そして先生方からよく目立つラクール先生の席で、僕は晒し者となった。
「そんな君に、願ってもない朗報だ。何と王立貴族学園で、編入希望者を募っている。君ならば学力に礼儀作法、どれを取っても不足はないだろう。どうだね。応募してみないかね」
何だって?!貴族学園に編入?!
「う、受けます!」
「おお!受けてくれるか!皆、聞いたな。アレクシ君が王立貴族学園に編入するそうだ。我が校としても鼻が高いな!」
ラクール先生が立ち上がって大袈裟に拍手を始めると、先生が一人、また一人と迎合し、やがて職員室中が拍手喝采の嵐となった。何これ。どんな展開?だけど、王都に行ったら、どうにかして貴族学園に潜入しようと思ってたんだ。チャンスが向こうから転がって来た。これに飛び付かないわけには行かない。
しかし、職員室の片隅で一緒に拍手をしながら、カバネル先生はちょっと微妙な表情だ。よく見ると、他にも苦笑いみたいな先生がチラホラ。僕、早まったかな…。
王都行きに絡んでいるのが、もう一人。
「兄さん。大抵のものは、あっちで揃えればいいんだからね」
旅慣れない兄は、大荷物を前に悪戦苦闘している。僕らは二人揃って王都に赴くのだけれど、それを後押ししてくれたのはブリュノ。実家のバラティエ商会の繋がりで、兄は王都のレストランに籍を置かせてもらうこととなった。彼は「いつか借りを返す」と言ってくれたけど、兄の王都行きに口利きをお願いすると、「そんな簡単なことなら」と引き受けてくれた。詳しいことは聞かないけど、ローズちゃんの件は、結構大事件だったらしい。
兄には、王都から実家とクララックの商談を取りまとめるようにお願いしてある。クララックの件は、実家のアペール商会にも一枚噛ませてもらうことで、僕と兄がマロールを離れる口実にさせてもらった。だけど実際に蒸留酒を消費するのは、飲食業界に他ならない。この話をブリュノにも持ちかけたところ、「また借りが出来そうだな」と大いに乗ってくれた。
クララックと王都、そしてマロール。それぞれ結構な距離がある。彼はその間をひたすら旅しながら、商談をまとめ、各方面に最大限の利益をもたらし、蒸留酒販促プロジェクトを成功させなければならない。兄は使命に燃えていた。まあ、どうせ途中からシャルロワ侯爵がしゃしゃり出て、全国的にバカ売れする流れになるだろう。売れ行きに関しては、心配ない。
何より、彼は風属性。一つところにとどまらず、旅をすることに憧れ、また人あしらいにも長けている。その上、冒険者家業にも憧れていたことだ。旅には護衛を雇い、護衛から冒険者の実態を教わったり、時には冒険者まがいのことに手を染めることもあるだろう。魔物と遭遇したから。護身のため。そんなの、実家から出てしまえば、何とでも言い訳はつく。
「…ありがとな、アレクシ」
最低限のものをトランク1つに詰め込んで、彼はぽつりと僕にこぼした。これまでの彼は、家業を継ぐのも嫌で、かといって両親に見捨てられるのも嫌。なのに弟は両親に褒められて、進路も自由。そんな苦々しい思いを抱いているのを知りながら、僕は好き勝手させてもらってた。これで、僕の中での貸し借りは無しだ。
「大変なのはこれからだよ。頑張ってね、兄さん」
そうだ。護衛なら、
実家で新年祭を過ごした直後、僕らは王都に向かって旅立った。母はハンカチを濡らしていたが、父はまだ見ぬ蒸留酒とその利益を期待して、「しっかりやるんだぞ」と兄の肩を叩いていた。貴族学園に編入する僕のことは、別にどうでも良さそうだ。蒸留酒プロジェクトのことをあれほど勧めておいて、結局長男に丸投げで貴族学園とか、かなり呆れられている。そもそも次男って、期待されない代わりに関心も薄い。まあ、それが有り難いんだけどね。
王都まで乗合馬車を乗り継いで、宿場町を経由しながら10日間。僕は暇で暇で仕方なかった。足元の革靴で飛べば、あっという間なのに。兄弟揃って王都へ、という流れになっちゃったもんだから、仕方ないんだけど。前ループで散々国内を飛び回り、感慨も何もない僕と違い、兄は車窓からの風景や、行く先行く先の料理、旅情なんかにとても興奮していた。久しぶりにこういう兄を見られただけでも、良しとしよう。
兄を無事レストランに送り届け、僕はその足でラクール先生の指定したお屋敷に向かった。そこはラクール伯爵家。法衣貴族ながら魔導の名門、ラクール先生のご実家である。
「ちょうど甥っ子が、この秋から貴族学園に進学してな。共に通う学友を探しておったのだ」
ラクール先生はそう言っていたが、普通、貴族の学友っていうか従者っていうのは、入学前に決まってるものなんじゃないのか。何で中途採用。不安だ。だけど、ここで挫けるわけには行かない。なんせ、あのガードの固い貴族学園に潜入する、またとないチャンスなんだから。
「ごめんください。マロール領立学園のラクール先生からご紹介を受けました、アレクシと申します」
僕は門番に紹介状を見せた。程なく、中から使用人が現れて、僕は邸内に通された。
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