第63話 ブリュノとデート
4周目に来て、色々目まぐるしい。普通経験が増えれば増えるほど、もっと楽になっても良さそうなもんだと思うんだけど。しかし当初の、
・まず序盤で、カミーユ先輩を何とかする。
・クララックには極力タッチしない。
・何とかして早く王都に入り、情報収集に努める。
この3つの方針のうち、1つ目はクリアした。2つ目はまあ、そうならないように気を付けながら、3つ目に
こうしてループを抜け出そうといろいろ
兄もそうだ。彼だって、アペール商会の嫡男だからって、別に実家を継ぐ以外の進路はいくらでもあったはずだ。現に僕は、1周目に「実家を助けるために、隊商の護衛をやる」と理由をこじつけて、冒険者になった。彼の憧れる冒険者稼業なんて、たったそれだけで掴むことができる。僕のやることは、彼の視点をちょっとだけ変えてあげることだけだ。その上で、何を選び取るかは、彼次第。そのために、ちょっと厄介な闇属性社会に働きかけてみるだけ。
ここまで話が色々と前後していたので、整理しておく。
10月1日火曜日、ループ開始、入学式。木片、クズ魔石、細工道具購入。
10月4日金曜日まで、学園に通いながら火炎の魔道具作り。
10月5日土曜日、スライムダンジョンでインベントリ解放、魔石大量ゲット。ストーンブラストの魔道具作成。
10月6日日曜日、初級ダンジョンでトンボ狩り。ミスリル合金他ゲット、エーテル化装置導入。
10月7日〜11日、学園に通いながら秋津の革靴+Maxと魔石+Max、
10月12日土曜日、実家の倉庫整理。兄の尾行。
10月13日日曜日、実家の倉庫整理。武器防具の購入。寮の自室で鑑定スキルゲット。
10月14日〜18日、学園に通いながら魔道具作り、時々歓楽街の監視。
10月19日土曜日、上級ダンジョンでネズミ狩り、カミーユ先輩の槍に付与。
10月20日日曜日、中級ダンジョンを周回、素材集め。
そして今日、10月23日水曜日。僕はブリュノと、とあるカフェで待ち合わせ。
「よう!最近研究会サボってんじゃん。
こうして会うと、いつもの陽気なブリュノだ。てか、1周目から3周目まで経済研究会から遠ざかっていたので、僕としては実に9年ぶり。こないだ歓楽街で見た、表情のない彼と同一人物とは、とても思えない。
「おかげさまで、元気だよ。ちょっと実家の手伝いとかやっててさ」
「何だよ、アレクシの癖に真面目じゃん。で、頼みって何?」
「えっと実は、兄貴のことで」
僕は、兄が夜な夜な歓楽街に通って、娼婦に入れ上げていることを話した。
「ああ、その話は前にも聞いたな。だけど、そんな話、どうして俺に?」
「そのローズちゃんが、どうもタチの悪い男とツルんでるみたいでさ」
「だから、どうして俺に」
「ブリュノなら、何か知ってるんじゃないかと思って」
とぼけようとする彼に、真剣な目つきで食いつくと、彼はだんだんと表情を無くした。
「何で俺に」
「僕も商人の息子だってことさ」
そう。商人は顧客や商品そのものよりも、信用が大事だ。そして実際に金になるのは、情報。情報に疎い商人なんて、商人とは呼べない。
父も兄が娼婦に入れ上げているのは知っている。そして娼婦とは、得てして厄介な人脈と繋がっているものだ。それを承知の上で、一度は火傷して学べって言ってる。母もその辺は理解しているつもりでも、やっぱり我が子だから痛い目を見せたくないのだ。
だけどそれが、普通の娼婦ならまあ、ということだ。ローズちゃん、彼女は度を越している。彼女が主に使っているのは「
「ローズちゃんはヤバいよ。彼女は度を越してる。隠蔽、って分かるかな」
「———まさか」
ブリュノは、すっかり歓楽街の支配者の顔をしている。そうだ。歓楽街には、必ず腕の立つ用心棒が雇われている。彼らに警戒されず、娼婦の顔をして娼館に溶け込むということは、彼女が彼らよりも強いことを示している。隠蔽は、自分よりもレベルの低い者にしか効かないからだ。
「排除するなら、手伝うけど。どうする?」
「待て。まずは調査と根回しからだ」
そうだよね。相当な手練れの彼女が何の目的で、どうしてマロールなんて辺境の花街に。危険な存在には変わりないが、場合によっては敵対排除の必要はないかも知れない。
「そう言うと思ったよ。だからこれ、はい」
僕は、何の変哲もない指輪を3個取り出した。
「これは…」
「実家の倉庫を整理してたら、見つけたんだ」
僕はそういう
彼はしばらくリングとポーションを見つめた後、パッと表情を変えて、
「あんがとなぁ〜!じゃあ、遠慮なくもらっとくぜ!」
と、周囲の客に聞かせるかのように大声で言い放ち、僕の肩をバンと叩いた。
「気にしないで。こっちも自分の事情のためだからね!」
僕らは、まるでいつものお気楽学生のようにふざけ合いながら、店を出た。
その後しばらくして、歓楽街からローズちゃんと他数人が姿を消した。ブリュノとは相変わらず、学園内で顔を見かけたら「よっ」と挨拶をし合う間柄だけど、ある日耳元で「この礼は必ず」と囁かれた後、背中をバンと叩かれた。僕はニヤリと微笑み返した。
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