第61話 悲しいお知らせ

 悲劇は日曜の夜に起こった。


 僕は可及的速やかに、この学園を飛び級で卒業したい。一度申請すると、その後色々バタバタするので(経験済)、まだ学園側には申請していないけど、あと2年は住むと思っていたこの寮室とも近々お別れの予定だ。中等部から4年、荷物が結構増えている。これらを全て、インベントリに格納する。そして改めて、最低限必要なものだけをチョイスして、手元に出しておこう。


 インベントリ画面を見ながら、「僕まだこんなもの持ってたんだ」とか、「懐かしいな、これは処分せずに取っておこう」とか、一つ一つタップして確認していたその時。




===


スキル「鑑定」を習得しました


===




 ファンファーレと共に、見たことのあるウィンドウがポップした。




 要らなかったじゃん!実家の倉庫整理、要らなかったじゃん!!!




 実は3周目、スライムダンジョンで周辺のアイテムが一気に収納出来ると分かってから、僕は度々一斉収納のお世話になってきた。特に役立ったのは、クララックに移住してからウルリカの工房を掃除する時。一度部屋中にあるモノを全部収納してから、インベントリの中でソートされたアイテムを、一箇所一箇所整頓して仕舞い直していた。これを2周目、「塔」の勤務時代に知ってればな。だけど「塔」でそんなスキルを披露したら、絶対監禁コースだったよな、などと思いつつ。あの時は既に、鑑定スキルを持ってたから、気付かなかったんだ。鑑定スキルの取得条件、『1,000種類のアイテムを精査鑑定すると取得』それが、一度インベントリに入れて確認すれば良かっただけだなんて!


 打ちひしがれて、一人床の上でリアル「orz」の姿にくずおれた僕。いや、落ち込んでいても仕方ない。これで鑑定は取れたんだ。次のループがあれば、今度からはこれで行けるんだ。ポジティブに行こう。




 鑑定が取れたので、これで安心して魔道具作りに取り組める。何度も作ってるから慣れているとはいえ、大威力の魔道具を作り損ねて、不具合でもあったら大惨事だ。鑑定スキル大事。僕は急ピッチで魔道具の作成を進めた。作っておきたいものはたくさんある。


 魔道具と並行して、魔石Maxもいっぱい作っておきたいところだ。自動エーテル化装置は改良を重ね、まず聖句「小」を「中」に。これでエーテル化が速くなった。一度に多くの魔素を流しても大丈夫だと分かったので、次は「大」に。それに伴い、魔素の供給源の魔石ポケットを大きくして、一度に大量のスライムの核を突っ込めるようにした。僕は魔道具を作りながら度々具合を見て、空になったスライム魔石を新しい魔石に入れ替える。


 魔石+Maxの性能は『無属性、重量0.3、含有MP13,310』なんだけど、含有MPは錬成時のもので、充填最大値は約5倍ほど。これもスライム魔石を大量投入して、60,000MPほど突っ込んでおく。魔道具で消費するMPは、スキルにもよるけど、最大1回100MPほど。ダンジョン周回中に魔素が切れることは、まずない。いくつか作っておきたい。


 そして、カモフラージュ用にナイフと革鎧とマントを買ったわけだけど、これらにもエンチャントを施しておきたい。店売りの廉価な普及品でも、その辺の素材をちょちょっと付与したら、高級品に負けない性能に引き上げられる。ああ、素材が足りない。ダンジョンに行きたい。


 ———そうだ、エンチャント。付与すればいんじゃね?




 10月19日土曜日。僕は、早速獣の上級ダンジョンにやって来た。最大のお目当ては、モンスターハウスでファイアラットの乱獲なんだけど、まずは低層から慎重に。レベルが低くAGIすばやさが足りない僕は、秋津Maxの革靴で飛びながら、地上の敵を爆炎Lv8の業火ヘルファイアで駆逐していく。レベルアップのたびにステータスポイントをAGIに全ツッパして100を超えたら、満を持してネズミーハウスに突撃。


「ヒエッ」


 序盤ちょっとヤバかった。ウォーターボールLv10の氷嵐ブリザードで楽勝っしょ、と思ってたら、微妙にDEXきようさが足りず、撃ち漏らし発生、慌てて連射。上を飛んでいても、ファイアラットは火を吹いて攻撃して来る。辛うじて避けながら二発三発と氷嵐を撃ち込んで、何とか撃破したけど、マントと髪がちょっと焦げた。革靴がやられてたら詰んでた。飛べなくなるもんね。早く魔道具に追尾ホーミングを付与したい。


 ネズミを慎重に狩りながら、ここからはステータスをDEXに振り分け。そして拾った尻尾を、急遽セーフゾーンでマントに付与。最大まで付与しないと火炎無効にはならないけど、これで火炎軽減が付く。やっぱ上級は歯応えあるな。


 その後は次第に、安定して周回。ネズミの尻尾を乱獲して帰還した。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 アペール商会令息

レベル 33


HP 100

MP 600

POW 10

INT 60

AGI 100

DEX 160


属性 土


スキル

なし


石礫ストーンバレット

(ランドスケイプ)

(ロックウォール)

(ゴーレム作成)

(槍術)

(身体強化)


E ナイフ

E 革鎧

E 秋津の革靴+Max

E マント(火炎軽減)

E 魔道具・氷嵐ブリザード

魔道具・業火ヘルファイア


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 330




 ネズミーハウスまでのレベル上げと、ネズミ攻略に序盤ちょっと手間取って、今回は30回しか周回出来なかった。獲得したネズミの尻尾は全部で1,080本、うちマントに10本付与したので残り1,070本。これだけあれば、十分じゃないだろうか。




 ファイアラットの尻尾は、防具に付与すると防御力上昇と火炎無効、武器に付与すると攻撃力上昇と火属性が付加することが分かっている。つまり、火属性が弱点の敵にはクリティカルということだ。土属性や獣系のモンスターには200%ダメージ、もしくは一定以上のダメージで致命傷。中級ダンジョン相当の殺人熊マーダーベアなんか一撃だ。


 僕は、深夜先輩の寮室にこっそりお邪魔した。自室の窓から出て、先輩の部屋の窓越しに愛用の短槍を「収納」して自室に戻り、ファイアラットの尻尾を100本付与。




短槍


→ 攻撃力5、重量2




 これが、




火鼠の槍


→ 攻撃力305、重量2、火属性付加




 こうなった。


 やば。エラいモンが出来ちゃった。僕は再び窓から、彼の部屋に槍をそっと放出した。これでカミーユ先輩問題は解決。翌月、無事殺人熊を討伐したという知らせが届いた。だけど、その時に槍から火が見えたとか、殺人熊の死体が焼け焦げてたとかで、実は彼の持つ槍が伝説の名槍めいそうだったんじゃないかと騒ぎになったのだが、それはまた別のお話。


 てか、秋津装備とインベントリ機能を使うと、簡単に泥棒が出来そうだな。インベントリのことは、この先誰にも言わないでおこう。

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