4周目

第59話 4周目の始まり

「はぁ〜…」


 10月1日の朝。僕はいつも通り、寮室のベッドで目覚めた。さっきまでの冴え冴えとした月光と肌を刺すような夜風が、嘘のよう。温かいベッドが、これが現実だと教えてくれる。


 しばらく起き上がれないでいたけど、落ち込んだって仕方ない。いずれにせよ、ループの元凶を突き止めて終わらせなければ、何も始まらない。さあ、今日からまた頑張って行こう。




 それより今日は入学式だ。中等部の新入生たちがそわそわと門をくぐり、進級した僕たちは決められた持ち場で、彼らを講堂へ誘導する。僕は受付を済ませた彼らの胸元にリボンを付ける係だった。そして、転ぶ予定の男子生徒に一声掛ける。


「君、緊張しているね。はい、深呼吸して。周りの人に気をつけてね」


 今回も転ばず上手く行った。もはやこれも慣れたものだ。




 さて、今ループの方針。


・まず序盤で、カミーユ先輩を何とかする。


・クララックには極力タッチしない。


・何とかして早く王都に入り、情報収集に努める。


 以上だ。


 ウルリカのことは保留。彼女と彼女の家族と一緒に錬金術に励んでいた最後の半年は、とても楽しかった。そしてちょっと緊張するけど、エルフの里に行くことがあれば、きっともっと楽しいだろう。今度は仮の婚約者とかややこしい関係じゃなくて、ちゃんとお友達から始めたい。よしんばその先に進むとしても、ご主人やご家族に話を通し、筋を通して段階を踏まなければ。


 ああもう。こういうの、苦手なんだよな。だから前世でも、彼女はいたけど結婚なんか考えてなかった。まだそういう年でもなかったし…身を固める前に人生が終わったんだよな、多分。ぼんやりとした記憶しかないから、分からないけど。




 とりあえず、次の土日からダンジョンだ。僕は早速、かまぼこ板ほどの木の板と、クズ魔石、細工道具を買って来る。今回は、魔道具の他に錬金術もある。序盤から飛ばして行こう。


 土曜日はまず、例のスライムダンジョンから。魔石を砕いてレベル3、その後ネズミを狩って早々にレベル5を目指す。そのために最初に作った魔道具は、火炎ファイアスプレッド。効能は、『範囲に弱い火炎を噴射する。噴射数はINT/2、攻撃力はINT/2。MP15』ってことなんだけど、ネズミは大体2匹〜4匹出現するから、INTちりょくは最低8必要だ。しかも奴らは素早いから、DEXきようさも上げて命中率も高めたい。追尾ホーミング付加エンチャント素材は上級に行かないと取れないので、もっと後だ。最初は結構ギリギリの戦いを覚悟しなければ。


 水木金と三日かけて魔道具を作り、10月5日土曜日は、スライムダンジョンへ。途中実家に立ち寄り、とんかちと柄杓ひしゃく、ザルを持って来た。もう魔石を砕くならとんかちでいい。石を掬ってザルに集め、魔石を選り分けては砕き、選り分けては砕き。大きめのを取っとくとか無しで、ひたすら砕いてさっさとレベル3に。そして理論上必要なステータス配分ののち、満を持してネズミ狩りへ。


 明日からはトンボ狩りへ行かないといけないから、INTは最低36必要。命中率も上げておきたいし、DEXにも振っておかねば。ということで、ネズミを狩って狩って狩りまくる。100匹も狩ればレベル7、理論上の数値は足りるんだけど、保険のためにもうちょっと頑張ってレベル8へ。そして最後は、レベル5で解放されたインベントリ機能で、魔石をさらうだけ浚って撤収。


 よし。僕、よく頑張った。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 アペール商会令息

レベル 8


HP 20

MP 400

POW 2

INT 40

AGI 2

DEX 36


属性 土


スキル

なし


石礫ストーンバレット

(ランドスケイプ)

(ロックウォール)

(ゴーレム作成)

(槍術)

(身体強化)


E 私服

E 魔道具・火炎ファイアスプレッド


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 80




 帰寮後、ストーンバレットの魔道具を作成して、翌10月6日の日曜日。実家に立ち寄り、とんかちと柄杓、ザルを返却。冒険者ギルドで登録した後、初級ダンジョンへ。ダンジョン入り口で丸腰を見咎められたけど、「一階のピルバグを倒して来ます」と苦しい言い訳をして潜入。見せかけの装備を買って来ればよかったな。他の冒険者に紛れてさっさと四階まで降りて、早速モンスターハウスでトンボの蹂躙を開始。


 ああ、これこれ。トンボが面白いほど落ちる。魔道具の窪みに魔石をセットすると、予定通りINTの数値分の石礫いしつぶてが飛んで行き、トンボがコインと羽に変わってボトボトと落下する。それを収納、撤収、また入る。蹂躙、収納、撤収、再突入。ソロなので魔道具を隠すためにスキルを使うフリをしなくてもいいし、何よりインベントリの収納が使えて楽々回収。経験値を按分されることもなく、30回も回ればレベル13、50回でレベル14を超えた。トンボのエンカウントは、1回36匹。羽は50回で1800枚。ダマスカスナイフを秋津Maxにした時には1,980枚を要したけど、普通のブーツなら1,500枚もあれば足りるだろう。とりあえず1つ作っておけば、飛翔フライでどこにでも飛んで行ける。2つ3つとあれば、更に飛行速度は高まる。来週も、トンボを狩ろう。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 アペール商会令息

レベル 14


HP 100

MP 600

POW 10

INT 60

AGI 10

DEX 60


属性 土


スキル

なし


石礫ストーンバレット

(ランドスケイプ)

(ロックウォール)

(ゴーレム作成)

(槍術)

(身体強化)


E 私服

E 魔道具・ストーンブラスト


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 140




 ソロでの周回が楽すぎて困る。前ループでは途中からそれが当たり前だったんだけど、たまに他人を連れてパワーレベリングする時は面倒だったなあ、と思い返す。ぶっちゃけ、カミーユ先輩のことも面倒臭く感じちゃってる。もう実習の前に、現地で山狩りでもしてしまおうか。だけどそれじゃ、実習にならないしな。まあいい、後のことは後で考えよう。


 50回の周回で、お金だけで54万ゴールドも貯まってしまった。僕はその資金で、少量の聖銀ミスリル合金と木の箱などを購入。早速自動エーテル化装置の導入だ。ウルリカの工房に設置していたような大きいヤツは置けないけど、前世で言う、ちょうどA4くらいの浅型の箱に聖銀合金で回路を施し、魔石を配してじゃんじゃんエーテル化、濃縮を行う。トンボの羽だけでなく、魔石もだ。一度魔石+Maxを錬成してしまえば、おいそれと魔道具のMP切れを起こすこともない。よし。これで最低限の準備は整った。


 待ってろ王都。僕は今度こそ、ループを終わらせてやる。

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