第57話 家族襲来
「あ、えっと…?」
「紹介するぞ。こっちがオフェリア。こっちがオティーリエ。
「初めましてアレクシさん♪
「アタシはオティーリエ。長いのでオーダで」
———娘…だと…。
「それにしても母上のお家がこんなに綺麗になってるだなんて♪愛ですわね♪」
「これ。縁談避けの仮婚約だと言うに」
「婆ちゃんが婚約なんてびっくりしたよ。仮なら仮でちゃんとそう書いてって。慌てて来ちゃったじゃん」
———孫…だと…。
「仮婚約と書いたはずじゃぞ。あー、すまんなアレクシ。仮とはいえ婚約したと手紙を送ったら、これらが早とちりして里を飛び出して来よって」
一年半前の手紙を読んで慌てて飛び出して、到着したのが三日前だそうだ。エルフの時間感覚を思い知る。いや、エルフの里って正確にはどこにあるか分からないので何とも言えないが、例えて言うなら、ここが日本なら地球の反対側、アマゾンの大密林のどこかにあるって感じ。通常、こちらの交通手段は陸路と船くらいしかないから、こちらからの手紙が届き、それを読んでこちらへ来ると、そのくらいかかるのかも知れない。
その後のことは、あんまりよく覚えていない。僕は半分上の空のまま、無難に自己紹介して、彼女らの質問攻めに答えていた、と思う。てか、お嬢さんにお孫さん。ウルリカと瓜二つ、いや瓜三つなんだが、一体彼女は何歳なんだ。
「お主、今良からぬことを考えたであろう」
ズビシ。
「うぐっ」
久々にウルリカの手刀をマトモに喰らってしまった。彼女のその、年齢の話題に対する勘の良さは何なのか。
「まあだって母上、曾孫に
「婆ちゃん、まだ彼氏に歳バラしてないの?」
「やかましい。
———曾孫。
駄目だ。何も頭に入って来ない。僕は一体どうすれば。
「で、明日の
「…うん。それなんだけどさ…」
ショックがデカ過ぎて、未だに立ち直れない。いや、彼女のことなんて最初から何も知らなかったわけだし、聞かなかった僕も悪いんだけど。なんせ外見が僕とそう変わらない、というか僕より年下に見えるくらいだもの。年上とはいえ、てっきりお子さんなんて。
てか、それよりも。
「掃除、したいんだけど。いいかな」
「おお、助かるわい。これらが来て困っておったのよ」
そう。僕がしばらく家を空けて帰って来ると、工房は悲惨なことになっている。しかも今回はもっとすごい。三人集まって三倍って感じだ。誰も片付けるって機能がないみたい。一応、カバネルさん家からハウスキーパーは派遣されて来るんだけど、工房の中は貴重品もいっぱいあるし、素人に掃除は無理なようだ。僕は彼女らを自分の家の方に案内し、工房の掃除に没頭した。何かに夢中な間は、余計なことを考えなくていい。てか、今は何も考えたくない。
「ほわああ♪このチョコケーキって素晴らしいんですのね♪」
「ふむ。あの大きな実の薬効効果は知っておったが、このような菓子にのう!」
「…(無言)」もっもっもっ
今回はあちこち飛び回るうち、カカオの実を発見した。正直どうやってチョコにするのかは知らなかったんだけど、割ったり乾かしたり加熱したり、鑑定を駆使して色々やってるうちに、やっとそれっぽいものが出来た。今日用意したのは、チョコケーキっていうより、ココアの粉を練り込んだスポンジケーキってとこなんだけど、喜んでもらえてよかった。去年ウルリカがショートケーキをあっという間に平らげたので、かなり多めに作って来たんだけど、三人だとやっぱり瞬殺だな。
「あの…予備でチーズケーキもあるんですが、食べます?」
「食べますわ♪」「食べる!」「食うのじゃ!」
チョコケーキが口に合わなかった場合を考えて、スフレチーズケーキも焼いておいたんだけど、こちらも秒で消えて行った。
この日は結局、誕生日も祝えず、プレゼントも渡せないまま。翌日に備えて、僕は工房から隣の自宅へ戻った。なお、掃除してる間に待ってもらってただけなのに、家のなかがぐちゃぐちゃで膝から崩れ落ちた。ウルリカが三倍になると、破壊力が凄まじい。
なお、翌日のカバネル家での結婚記念日パーティーにおいても、チョコケーキとチーズケーキは好評だった。それだけは救いと言えた。
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