第49話 自動エーテル化装置

 とりあえず、秋津Maxは2つ作った。1つは僕用のダマスカスナイフ、もう1つはウルリカ用のサーベルベアの牙。牙は、そのうち守り刀に加工しようかタリスマンにしようかと取っておいた素材だけど、そのままネックレスへの道を歩んだ。加工なんて四の五の言っていられない。装備しただけで飛翔フライが付くなんて、作るしかないじゃないか。


 それに、武器防具だと攻撃力守備力ボーナスが付くけど、はっきり言ってトンボは初級のモンスター、素材としてはコモン、ガチャで言うとログインガチャで無駄に溜まっていく雑魚だ。作るのにMPと手間は掛かるが、惜しい素材ではない。それより、トンボほどではないが他にも大量にある素材がある。飛翔フライ用の秋津Maxはもういいとして、今度はもっといい奴でMax付与品を作りたい。


 素材に付与を重ねてから付与を施すことを、僕らは暫定的に濃縮付与、もしくはMax付与と呼んだ。こういうのは暫定名が正式名になってしまうことが多いので、もっと気の利いた名称にしたかったが、そんなことはどうでもいいくらい、アドレナリンがドバドバ出ている。僕らは寝る間も惜しんで、大量の素材をエーテル化して行った。


 しかしそのうち、エーテル化にも飽きてきた。根気強いと言われる土属性の僕が飽きるほどだから余程だ。ウルリカは既に、ウンザリした顔をしている。だけど、まだ見ぬ強力なMax品への好奇心だけで、辛うじてデスクに向かっている。僕は考えた。これを魔道具で出来ないだろうか。


 そして出来たのが、自動エーテル化装置だ。


 装置と言っても、仕組みは単純。外観はビリヤード台のイメージに近い。机に板を打ち付けて縁を作り、縦横斜め8箇所にポケットを設置。ポケットからはミスリル合金で配線を伸ばし、聖句「小」だけを刻んだ回路を経て、テーブル全体へ這わせる。そこから、机の上に乗せた素材に魔素を送り込み、溶け出したエーテルは、少し傾けた机から一方向に溜まって行く仕組み。


 ポケットには、僕のインベントリに腐るほど残っている、使いかけの魔石。ダンジョン攻略中、万が一にも途中で魔力切れを起こして、スキルが不発になることは避けたい。特に攻略難度が上がるほど、一瞬の遅れが命取り。火力ゴリ押しの舐めプなめたプレイは、途切れることのない魔素供給の上に成り立っている。だから、魔石を魔力糸で編んだ網で包んだ自称魔石パック(そのまんまだが)は、魔素の残量が半分を切ると、惜しげもなくどんどん交換している。


 その、使いかけの魔石。何か使い道があるんじゃないかと、捨てることも出来ず、インベントリに溜まる一方。貧乏性の為せるわざだ。これを、この偽ビリヤード台のポケットにイン。そうすれば、残った魔素も無駄なく消費出来る。何というSDGs。ここでは多少魔素切れを起こしても、誰も死にはしないしね。


 そして更に、ビリヤード台から回収したエーテルを、今度はその下に設置した低い机で受け止める。こちらにも縁に板を打ちつけて、言うなれば金魚掬いの水槽のような。ここに、付与したい素材を並べておく。すると、上から流れてきたエーテルが、勝手に染み込んでいくという仕組み。


「これぞ自動エーテル化装置、その名もピタゴラ」


「む、その名はいかん。精霊が騒いでおる」


 僕らは楽を覚えた。装置は僕の家の方に設置して、時折具合を見て素材や魔石を入れ替えるだけだ。魔道具万歳。




 季節はとっぷりと冬。お陰様で酒造事業は急ピッチで整備が進み、カバネル先生は責任者として据えられた。領民からの支持も熱く、王都でのプロモーションも上々で、春になったらカロルさんと大々的に結婚式が執り行われる予定だ。


「蒸留は、アレクシ君のアイデアなのに…」


 カバネル先生は申し訳なさそうにしているが、


「僕は、ちょっと聞きかじったことを思い出しただけです。それをこうして軌道に乗せられたのは、カバネル先生ですよ」


 そう。僕は目立ちたくないのだ。押し付けられる功績は、全部周りに押し付ける。


「欲のない男だ。ますます惜しい。どうだね、この娘なぞ」


「父上!人の恋路を邪魔するのは、無粋ですわよぉ!さあアレクシさん、キューッと一杯」


 飲まないから。この世界はみんな早くからアルコールをたしなむけれど、お酒は二十歳になってから。それにしてもカバネル先生、やっぱりどのルートでも苦労するんだな。ドンマイ。

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